書かれたら死ぬ映画『スケアリーストーリーズ 怖い本』感想文

《推定睡眠時間:15分》

『デスノート』的な書いたら現実になる本の話かと思っていたがそうではなくこの本は怖いことを勝手に書いて勝手に現実にしてしまう。じゃあ本にしなくていいじゃん。直接襲いにくればいいじゃん。それはまぁもちろん本を経由することには物語上の必然性あるのですが、なかなかしっくりこない設定で…イイ。ケレンが利いてる。ホラー映画は理屈じゃないのだ。

ケレンが利いてるのは監督が『トロール・ハンター』『ジェーン・ドウの解剖』の個性派ホラー職人アンドレ・ウーヴレダルだからで、『トロール・ハンター』は妖怪トロールは実在した! しかもトロール狩りを生業とするオッサンもいた! という奇笑トンデモ系モキュメンタリー、『ジェーン・ドウの解剖』はシナリオ自体は王道怪談だがグロテスクなユーモアとミステリアスなムードが素晴らしい掘り出し物的な逸品、とまぁどちらも適度に捻ったオモシロ映画。

『スケアリーストーリーズ』の方は予算規模的に前二作より大きくなって色んな人の顔色を伺わないといけなくなった(※想像)ので『トロール・ハンター』より捻りがなく『ジェーン・ドウの解剖』よりグロテスクさやダークさがなかったが、そのぶん色んな怪談ネタとかクリーチャーを詰め込んでタイトな編集でジェットコースター的に見せる。今回のウーヴレダルは個性派よりも職人。めちゃくちゃ面白いとか怖いというわけではないが大体の人はそこそこ面白いだろうしそこそこ怖いに違いない。

お話はこういう感じ。泥沼化するベトナム戦争とニクソンが再出馬した大統領選でアメリカ中が揺れていた1968年のハロウィン、小説を書くことが趣味の非モテ系女子ステラは同じく非モテ系のバカ友オギー、トミーと共にいじめっ子のスタジャン体育会系バカ男子三人組に比較的悪質な悪戯で仕返しすべく町に繰り出す。それは上手くいったが揃いのスタジャン着てるようなやつらがやられてやり返さないわけがない。再び逃げるターンに入った非モテ三人組はドライブインシアターに逃げ込んでホラー映画の世界に逃避していた青年ラモンと出会う。

まぁハロウィンの夜だし肝試しとかしたいよね。ってことでホラーで結びついた四人は町外れのいわく付き廃墟に向かう。なんでもそこにはかつて魔女と呼ばれた悪い奴が住んでおり、このへんのシーン寝ていたのでよくわからないが子供を攫って? 怖い話を聞かせては殺したりなんかしていたらしい。ホラー映画なので四人は当然というかその本を見つけてしまう。そして一人また一人とそれぞれの「こわいもの」の書かれた本の餌食になっていくのだった…。

冒頭に「本は人を癒やす。本は人を痛めつける」みたいなナレーションが入るくらいなので物語の持つ力が主題として設定されており、なぜ1968年? なぜベトナム戦争? というとこれが実は主題と関係するところ。観ている間はノスタルジックなムードに覆われたとくに意味のないスナック感覚の恐怖がスクリーンを横切っていくだけに思えるが煮え切らないエンディングに至ってあぁなるほどね、無駄なシーンなんてなかったね、と案外納得がいくのでよくできている。

どちらかと言えばそのへんは監督のウーヴレダルよりも製作と共同原案を務めたギレルモ・デル・トロのカラーで、色んなクリーチャーがオムニバス的に出てくるところは『パンズ・ラビリンス』とか、主人公が非モテのホラー好き女子っていうのは『シェイプ・オブ・ウォーター』とかに似ている。ドライブ・イン・シアターで出会って幽霊屋敷で実る恋ときましたよ。うわぁオタク。夜ドライブ・イン・シアターに行くのはわかるが昼でも行くところがないからとりあえず誰もいないドライブ・イン・シアターを公園代わりにして集まってみるとかオールドスクールなオタクだなぁ。

なぜかサウンドトラックだけ自前で作っているのだがそのドライブ・イン・シアターで上映されてるのがジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』。『ナイト』のゾンビをニクソン言うところのサイレント・マジョリティの比喩と捉える批評家もいたので(ロメロは否定している)、単純に為すすべなく「こわいもの」から逃げる映画として不吉ムード演出のために引用された可能性もないでもないが、そこにはベトナム戦争を含む1968年の様々な「こわいもの」が象嵌されているんだろうと思えるあたり、デル・トロもウーヴレダルもオタクである。

その後のロメロ映画を残酷特殊メイクで支えることになるトム・サヴィーニは従軍カメラマンとしてベトナム戦争に参加しており、そこで目にしたものを残酷特殊メイクに活かしたと語っているが、特殊メイク・アーティストとしての最初期の仕事がベトナム帰還兵がゾンビ化する悲哀ゾンビ・クラシック『デッド・オブ・ナイト』というのも何か示唆的だが、それはまぁ、とりあえず置いておこう。

ひとんちのカカシをバットでぶん殴って爆笑したりデートに誘った女を(察するに)輪姦しようとしている殺されても別にいい体育会系スタジャン三人組が暴れる冒頭でツカミは良し。このへんはTV映画版『IT』のような雰囲気で、作ってるのオタクだから多分に意識しているんだろう。その後の怖い本を手にしてからのオムニバス展開はTVシリーズの『モンスターズ』のようだと思った。

これは80年代的なSFXホラーのシリーズで、毎回こわいかどうか微妙だか面白いは面白いクリーチャーが出てくるのが売り。高橋ヨシキが言っていたので覚えているが子供が正体不明の病気に罹って熱が出る回があって、それで魔術師かなんか呼んで呪文を唱えてもらったら太った化け物が子供に抱きついている。あぁそれで風邪を引くと熱が出るんだ! とヤング高橋ヨシキは納得したらしいが、それもまぁ、とりあえず置いておくとして…。

そういうテイストに1968年の時代背景を持たせた映画が『スケアリーストーリーズ』。最近映画にもなったがこちらも子供向けホラー・TVシリーズの『グース・バンプス』とかとも近かったかもしれない。ホラーは疲れた心の安息所。学校でいつも一人でいる子供がホラー映画の世界に自分の居場所を見出して…というのはベタが過ぎるイメージではあるが、でもそういうイメージから発想した物語なんでしょうたぶん。それが呑気なホラー賛歌に終わってないところが素晴らしいとおもった。人は恐怖から逃避するし、恐怖にも逃避する。そしてどんな形でかは分からないが逃避の代償は必ずあるのだ。それでも恐怖の物語を語り続けよう、語られるのではなく私が語るのだ、語ることで癒やすのだ…噛めば噛むほど良い映画に思えてくるな、観た直後は普通だったのに。

たっぷりと間を持たせたじらしのホラー演出はウーヴレダル印。対象年齢の下限を比較的低めに設定しているので「こわいもの」自体はそれほど怖くはなくとも、それが現れるまでの時間や空間が怖い。なんでもない日常空間がゆっくりと、しかし確実に怪異に蝕まれていく恐怖。それが前もって予言されていて逃げようのない恐怖。

上映時間108分なので短尺というわけではないが、それでも各種クリーチャーありミステリー要素あり背景に戦争要素あり差別要素ありニクソン要素ありと盛りだくさんなので、こういう恐怖が個々のシーンでは生きていても全体としてはあまり生きてこない、とくに怖い本の謎解きにカットバックで不死身のクリーチャーとの肉弾バトルが入ってくる終盤は恐怖なんかどこかへ飛んでしまうが、まぁ変形オムニバス・ホラーとして観ればいいんだろう。

クリーチャー、えー、こわいもののネタバレは野暮なので誤魔化しておきますが、「長い黒髪の女」、気持ち悪くてよかったですねぇ。気持ち悪いのに愛嬌があって、それがまたなんとも言えない厭さを醸し出す。あとあの、これはネタバレなしで書くのに難儀するが…「自由自在男」。なにが自由自在かと言うとアレなのですが『ジョジョの奇妙な冒険』4~5部あたりのスタンドみたいで面白かった。『ジェーン・ドウの解剖』もそういえばスタンドみたいって言ってる人いたな。

あと小道具に無駄に凝るっていうのも良かったですね。こういうのがケレン味。別にその小道具使わなくても話進むじゃんってところであえてちょっと変な小道具を出す。ドライブ・イン・シアターっていうのも面白い舞台装置ですよね。スタジャンの凶悪生物に追われて『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』やってるドライブ・イン・シアター逃げ込んだらリアルにホラー映画の世界に紛れこんじゃう。まるでホラー版の『ネバー・エンディング・ストーリー』の如しだ。

おもしろかったですね『スケアリーストーリーズ』。そうだあと、あのラストですけど、あれは安易な「続編やるのかよ!」オチじゃないからすからね。一見すると安定しているような現実の足場は実は明日どうなるかわからない不安定なもので、戦争の非現実と生活の現実が地続きになった世界で虚構とリアルは混じり合う。その中であえて物語を書くことの意味とは…みたいなラストだから。俺にはそう見えたってだけなんですけれどもさ(いちいち続編狙い! と鬼の首を取ったように騒ぐ人がいるから…)

【ママー!これ買ってー!】


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TVシリーズの方を観たいんですけどそっちはソフトにも配信にもなってない。ちなみにこれも『スケアリーストーリーズ』同様の児童向けホラー・アンソロジー原作もの。

↓原作シリーズ


スケアリーストーリーズ 怖い本 (1) いばりんぼうをつかまえた

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