奇跡の映画『カラダ探し』感想文

《推定睡眠時間:20分》

安っぽい古フィルム風エフェクトのかけられたプロローグに当たる部分でなにやらいかめしいペーパーが映されて「ソフィア当局極秘資料」と字幕が出る。はてソフィア…ソフィア…松岡充? などと思ったのだったがその後国籍不祥の老人がロシア語っぽい言葉で話し始めると画面内画面(これはソフィア当局なるものの映像資料ということらしい)にキリル文字の字幕が表示され、心の中のガッテンボタンを力強く叩き潰した。ソビエト+ロシア=ソフィア! この厨二を超えて小二なネーミングの時点で確信に近いレベルで予想していたこととはいえこの映画があんまり大人が真面目に観るものではないことが如実にわかる。だいたい当局ってなんなんだよ何の当局なんだよそれは。実にいいかげんな映画である。

さてソフィアの老人が証言していたのはカラダ探しのことであった。カラダ探し…それはどういうわけか(わけなんかどうせない)世界各国で見られる一種の神隠し現象であり、カラダ探しに巻き込まれた人間はバラバラにされた誰かのカラダを探すために同じ一日を繰り返すことになる。全身のパーツが見つかれば晴れてループ脱出、しかし見つけられなければ延々殺人怪物に殺され続けることになる。なぜかカラダ探しタイム中は殺人怪物が都合良く徘徊しているのである。カラダを見つけて欲しいのか見つけて欲しくないのかどっちなのであろうか。

成人済みの橋本環奈がバリバリの現役感で演じる女子高生(だが友達がいないからと男子どもに「あいつはないわ~ぼっちじゃ~ん」などと蔑まれるにはあまりに容姿が整っていて説得力がなく、そもそも外見がすべてぐらいな暴論さえある高校という場において橋本環奈に友達がいないというのも説得力がなさすぎるだろう)もカラダ探しに巻き込まれた最新の犠牲者の一人。彼女とほか何人かのカラダ探し同級生たちは最初こそ殺人怪物に激しくぶっ殺されてばかりいたものの回数をこなす内にゲームのコツが掴めてきてしまい、「どうせ同じ一日なんだから学校サボって海いこーぜ!」「ひゃっほー!」みたいな余裕すら出てきてしまう。

美男美女が殺される映画を観に来たはずなのにこんなことではなにもおもしろくない。果たしてチームカラダ探しの面々はループする一日の中で眩しすぎて俺の目には何も見えなかったうんこれは涙かもしれないね涙で目が曇っていたのかもしれない青春をエンジョイすることなどなく、ちゃんと殺人怪物に蹂躙されカラダ地獄に堕ちることができるだろうか? それが君たちの役割なんだから頑張ってくれ真剣に。

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それにしても驚いたのはポストクレジット映像で、はっきり言って他愛ないシーンなのだが…来週にはもう違うかもしれないが今の目で見れば衝撃的である。この映画の公開日2022年10月14日に日本ではどんなニュースがあったかなと後からこの感想を読んでいる人は一発ググってほしい。その上でポストクレジット映像を見れば声がちょっとだけ出ちゃうことうけあいです。エッて言った後に笑うと思う逆に。

というのは余談だがまぁまぁ楽しい映画だった。とくに序盤はいいですね殺人怪物の殺しっぷりがダイナミックでね、結構血も出るし手際は良いし江戸っ子みたいな気っ風の良さの良さ、こうなんつーか魚屋さんみたいに高校生たちを殺してました。伝わるのかこの比喩は。

しかしそれ以降はというとホラー的に言えば急に失速してそのうちもはやホラーではなくなってしまう。カラダ探しを通じてそれまでほとんど話したこともなかった性格も住む世界も全然違うクラスメートたちが親交を深めお互いを理解していく展開はさながらホラー版『ブレックファスト・クラブ』、うーんそれはそれで面白いけどただもう怖いとか怖くないとかそういう問題ですらないなこれジャンル変わっちゃうから。

面白いシチュエーションさえ作れればリアリティや整合性などどうでもいいと言わんばかりのファンタジー設定は設定以上のものではないのでアトラクション的に場面場面は楽しめるとしてもストーリー的には弱い。殺人怪物の徘徊する無時間空間でキレイにバラバラにされた少女の人体パーツを探して回る…なんて話を本気で怖がれるわけないだろというのはともかく、次から次へと大した伏線も説明もなく新設定が追加されることで話を展開していくストーリーテリングの空虚感はなかなかのものだ。

でもどうせガキ向け映画なのでこれでいいんだろうとも思う。俺の観た回でも前の席のカップルがほぼほぼペッティングをしていたのでこんな映画を真面目に観るやつはそもそもいないだろう。客の方はアトラクションとして派手な人死にやド定番な青春模様や各種イケメン&イケウーメンに加えてエンドロールに流れるAdoなんかの場面場面を楽しめればそれでいいわけだから、下手に作品として完成させようなんてことは考えず(考えた結果がこれなら作ってる人はバカである)ガキ客の要望にサービス満点で応えた縁日の屋台みたいなこの映画、そう割り切って観れば結構よいのではないだろうか。

なにより繰り返しになるがポストクレジット映像の衝撃である。いやーこれは映画館で体感できてよかった。奇跡ですね。映画の神様がわけわからんところで舞い降りました。『カラダ探し』、奇跡の映画です。

【ママー!これ買ってー!】


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やってることがわりと似てる。

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