千里の道も一歩から映画『大河への道』感想文

《推定睡眠時間:30分》

『嘘八百』『記憶にございません!』『グッドモーニングショー』など近年喜劇俳優としての活躍が目立つ中井貴一主演の映画なので予告編のテイストからもコメディを期待して観に行ったのだったがわかりやすくコメディ調なのは序盤ぐらいで実はこれ入れ子構造の時代劇、郷土の英雄・伊能忠敬が大河ドラマにでもなれば観光客爆増で地域振興間違いなしってなわけで市役所職員の中井貴一が部下の松山ケンイチと一緒に筆を折ったドラマ脚本家・橋爪功に脚本と企画書を書いてもらおうとするのだったが、そこで発覚する意外な事実、「伊能忠敬は日本地図を完成させていない」。というわけで時代は江戸に移りまして伊能忠敬の地図完成の裏話が始まるのであります。枠物語ってやつね。

地図を作るお話なので時代劇といってもチャンバラなどはなくいわゆるお仕事時代劇。『引っ越し大名』とか『武士の家計簿』とか武士のサラリーマン的実務に着目した時代劇は最近の時代劇映画トレンドと言えるが、軽妙洒脱な笑える作風が比較的多いお仕事時代劇にあってこの『大河への道』は結構シリアス路線、時代劇パートは伊能忠敬の死から始まりバレたら死罪の可能性があると知りつつも弟子や天文方がその志を受け継いで地図作りに奔走する…というものなのでちょっとしたくすぐりは随所にありつつも基本的にはあんまり笑える感じではありません。現代パートと江戸パートの一人二役も出オチぐらいの効果しか上げてないように見える。

日本史がわからず大河ドラマも見たことがなく地図も読めない無教養人の俺としてはこのストイック路線はハードル高めに思えたがそこは原作が立川志の輔の新作落語、導入部にあたる現代パートで当時の測量の方法や伊能忠敬の置かれていた状況を主に与太郎役の松山ケンイチに説明する形で映画を見てる俺に教えてくれていたのでストイック時代劇パートに入ってもそう迷うことなく、まぁ地図が完成することはわかっているとしても伊能忠敬の死を隠蔽したことで天文方ら時代劇パートの主人公たちはどうなってしまうのかとわりと興味深く見ることができた。観客を置いてけぼりにしない姿勢は演出にも見て取れて台詞はハッキリクッキリしっかりと間を開けてカメラの方を向いて言う。悪い奴はいかにも悪そうに良い奴はいかにも良さそうに表情を作る。舞台劇的な演出法とも言えるがどちらかと言えばテレビ時代劇的な演出法なんだろう(見たことない)

ウェルメイドで面白かったがなんせ時代劇教養がないのでそれ以上に言えることはほとんどない。地図もまぁすごいのかもしれないけど同時代の他の国の地図とか測量法とかと比べてくれないとどうすごいのかわかんないし。そこらへんを情緒的に済ませてしまうのは志の輔落語の良いところでも悪いところでもあるかもしれないな。美しく描かれる郷土愛も主君への忠心も俺はいまひとつピンと来なかった。まぁ、でも、なんかね、人物造形なんかはやっぱ落語だから現代パートでも古くさいんだけど、憎めない人ばっかり出てきてさ、居心地のいい時代劇でしたよ。よかったとおもいます。ただし『大河への道』っていうタイトルは原作準拠だとしてもちょっとミスリード気味(原作落語だとこのへんサゲに生きてくるところなんだろうか)

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お仕事時代劇の面白かったやつ。厳密にはお仕事ではありませんが。

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