捜査してないだろ映画『国際捜査!』感想文

《推定睡眠時間:0分》

ちゃんと字幕を見ていなかったので確かなことは言えないのだがおそらく邦題に偽りありでうーんこれ捜査じゃないね汚職刑事クァク・ドウォンが家族旅行でフィリピン行って行ったついでに汚職もみ消し工作かなんかで現地の裏社会系韓国人とコンタクトを取ったところ諍いに巻き込まれ的な感じだったから国際捜査ではないし捜査ですらないねそもそも。内容に即して邦題を書き直すなら『国際捜査!?』とこう、感嘆符の後ろに疑問符を付け加えたいところです。

ポリスものと思いきやノワールだ。基本的に悪い奴しか出てこない。軽妙なタッチで笑える感じになってるからノワール・コメディとでも言うべきか。そんな入り組んだ話でもないが色んな悪人が入り乱れる着地点不明の悪人コンフリクトっぷりは『スナッチ』とかを思わせなくもないのでクライム・コメディと呼ぶのが適切かもしれない。まぁジャンル分けの話なんかどうでもいいのだが…いわゆる(?)韓国ウェッサイ映画。このウェッサイは地理的な西部という意味ではなく東海岸と西海岸とか関東と関西とかそういうセンスの二項対立の片方としてご理解ください。

なんか、韓国映画にもそういうセンスの二大潮流みたいのあるじゃないですか。今年日本で公開された韓国映画でいったら『ノンストップ』とか、今年じゃないですけど『エクストリーム・ジョブ』とか、大量投入されたコテコテの昭和ギャグで殴ってくる偏差値の低いタイプが俺の中で韓国ウェッサイで、最近の話題作だと『野球少女』とか『はちどり』とかまぁあのへんの穏やかに丁寧に紡がれた感じの偏差値高めの映画は韓国イーサイ…イーサイとは言わんだろうとか思いますがそこまぁ便宜上ということで…で、『国際捜査!』はもう完全に前者でした。

この勢い以外に何もない感じね。いや面白いんだけどさビデオスルーだなみたいな。主演が『KCIA』(これはもうイーサイの傑作ですよ)のクァク・ドウォンじゃなかったら少なくとも一般劇場公開はなかったんじゃないですかね。場面場面の爆発力はそこそこ高いもののシナリオはかなりいい加減で起伏に乏しい、汚職とか家族旅行とかフィリピンの韓国犯罪者コミュニティとか無駄に強いホームレスとかオモシロ要素は沢山出てくるのですが有機的に結びつかないので全部設定倒れの観がある。

とはいえなのだがそこは韓国ウェッサイ映画なので満点超えのサービス精神で強引に見せる。一番の見所はなんといってもキム・サンホとクァク・ドウォンの水中キスシーンですよ。お姫様的な感じで可憐に水底に沈んでいくキム・サンホにクァク・ドウォンが口づけ!!!!! 邦題の感嘆符は一個だけだがこれは感嘆符一個ではとても足りない衝撃シーンだね。ちょっと悪ふざけが過ぎないかと思うがいやでもオッサンのキスだって同性婚の法制化に日本国民の多くが賛成しているこのご時世べつに普通にあるでしょ! 特別なことじゃないっしょ! オッサンだってオッサンに恋するっしょ!!!

うんまぁそれはそうですしなにも同性愛を揶揄するつもりは毛頭無くキム・サンホは毛根が無いわけですがいやいやそれはいいとして私なんかは性的志向というのはRPGの能力パラメータみたいなものでたとえばヘテロ0ゲイ10の純ゲイというのもいるでしょうが大抵の人はヘテロ3ゲイ7とかそんな感じに志向が割り振られていてだからゲイとかレズとかあんまり明確に属性を分けようとしても仕方がないね人間そんなにカッチリ決まってないでしょ諸々とか思っているわけですがいやでもこれに関してはそういう議論とはまったく関係なく完全に悪ふざけだよね!?

こう、なんというか、イーサイ韓国映画なら世相というか若者とかリベラルの動向を反映して同性愛的描写の取り扱いとかはかなり慎重になると思うのですがウェッサイ韓国映画は基本的に無神経だからそういうのはあんまり気にしないですよね。良し悪しではあるだろうがキム・サンホとクァク・ドウォンがキスしたら面白いじゃんと思ったら素直にそれを撮ってしまうウェッサイ映画のおおらかでエネルギッシュな映画作りはやはり嫌いになれませんな。人によっては大嫌いなところかもしれないが。

ちなみにそのキム・サンホですが今回はクァク・ドウォンの親友で腹の読めない殺人被疑者という役柄。フィリピンの刑務所に入ってなんとか外に出てやろうとあれこれ策をめぐらせているのですが受刑者サンホ、ワイルドでしたね~。おいおいこの悪いワイルド・サンホもっと見せてくれよ、なぁんで色々要素噛ませて肝心のサンホとクァク・ドウォンのコンビっぷりをもっと見せてくれないの! とそこはかなり不満点。クライマックスの水中キスで一気に点数を稼いではいるがサンホのクセモノ芝居はこのいい加減なシナリオにはちょっともったいないくらいの完成度で、クァク・ドウォンも『KCIA』のクセモノ情報部員の好演が記憶に新しい人なのだからクセモノオッサン二人の生き残りをかけた本気の化かし合いというのも見たかった…次はその対戦カード期待してますからよろしく頼みますよ、韓国ウェッサイ!

【ママー!これ買ってー!】


KCIA 南山の部長たち [DVD]
こんな意識の低い映画の関連作的な感じで『KCIA』のリンクを貼ってしまうのはなんとなく後ろめたさもあるのだが。

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