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去年のしんちゃん映画『オラたちの恐竜日記』を観た時にはいよいよ俺はもうしんちゃん映画の客ではないのかもしれないなぁと寂しい気持ちになったものだがそれというのもこの『恐竜日記』、一言で言えばイイ話になっていたからであった。しんちゃん映画がイイ話をやるようになったのは昨日今日のことではないが、それでもこれまでのしんちゃん映画は笑いとアクションと冒険などがあって最終的にイイ話、という形で、『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』とか『嵐を呼ぶ栄光のヤキニクロード』などはその典型。
ところが『恐竜日記』は最初っからイイ話なんである。ギャグやアクションは少なくかすかべ防衛隊と恐竜の赤ちゃんの交流がメイン。なるほど野心作ではあるかもしれないが、そうなるともはやしんちゃん映画である意味がなくない…? でもこれが世間的には高評価で興行的にも当たっているはずなので、この路線に変わってしまったのなら『ヘンダーランドの大冒険』とか『暗黒タマタマ大追跡』とかの笑いとアクション(あとパロディ)たっぷりのしんちゃん映画に長年親しんできた俺はもう今のしんちゃん映画の客ではないないのかもしれない…とか思ったんである。
そんなわけでまるで期待していなかった今年のしんちゃん映画こと『超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』だったのだが、これは嬉しい誤算、楽しかった! ここ最近のしんちゃん映画は冒険らしい冒険をしていなかったのだが今回はしんちゃんたちがインドに遠征、ついでにボーちゃんが魔法の力でスーパーヴィラン化ということで珍しくちゃんと冒険していて、笑いもアクションもいっぱい。往年のしんちゃん映画を未だに愛する大人になれない大人の俺としてはそれだけで嬉しくなってしまう。
往年のしんちゃん映画っぽいのはそこだけではない。これも最近のしんちゃん映画ではあまり見られなかった変な髪型をしたアクの強いゲストキャラが、今回はインドの歌って踊るクセ強ブラザーズ捜査官としてしっかり出てくるし活躍する。テンションの高い映画パロディもまた『暗黒タマタマ大追跡』で監督の原恵一が趣味的に取り入れて以降しんちゃん映画の定番となりつつ近作では成りを潜めていたのだが、今回は思わぬところで繰り出される『トップガン』パロディになかなか笑わされるのであった。
テイストとして近いのは『ブリブリ王国の秘宝』とかしんちゃん映画最初の監督である本郷みつる時代のしんちゃん映画じゃないすかね。俺は『ヘンダーランド』は別格としても本郷みつるのしんちゃん映画よりは原恵一のしんちゃん映画の方が好きなんですけど、それでもほらやっぱ懐かしさっていうのはあるんで。今回「あー昔のしんちゃん映画こんなだったなー」とか思いながら観ててイエスタデイがワンスモアしてた。こういうのはやはり嬉しいもんである。
もっとも当たり前の話だが完全に昔のしんちゃん映画というわけではなくこうなんというかモラルは現代準拠なのでしんちゃんは股間のゾウさんはもとより生尻さえ晒すことがないし、しんちゃんたちが「ボーちゃんらしさを取り戻そうよ!」なんて言おうものなら「らしさってなに!? そうやって勝手に人の性格を決めつけないで!」と教育的ツッコミを説教役のゲストキャラ(クセ強ブラザーズとは別の人)がいちいち入れてくる。しんちゃんもかつてのアナーキーさはすっかり失い多少変な行動を取る元気なガキ程度のキャラになっちゃったし、これはなんだか子どもアニメとして少し堅苦しくはないだろうか?
それと今回ボーちゃんの秘めたるしんちゃん愛が暴走するわけだが、その過剰なイイ話感にはやはりちょっと抵抗を覚えてしまう。これは個人的な趣味嗜好だがある人たちが強い絆で結ばれているとしても、その友情をことさらに見せびらかすようなイイ話はあんまり好きくない。友情なんてのはとくに強いエピソードとか思い出なんかなくてもなんとなく芽生えてるもので、しんちゃんたちのように幼稚園児なら尚のことじゃないだろうか。ボーちゃんとしんちゃんの友情エピソードをこれ見よがしに出して二人が強い絆で結ばれていることを観客に理解させようとする作りには、なんだかそうでもしないと現代の観客にはかすかべ防衛隊の友情が伝わらないのかなぁという気もして、そこもまた寂しさを感じるところ。
とかまぁそういうことはあるのだが歌あり踊りあり冒険ありアクションありのボリウッド映画展開はしんちゃん映画の初期作がそうだったものだから(昔のしんちゃん映画ではよくゲストキャラが歌っていたもんである)しんちゃんの世界にうまくハマって全体としては良かった。ゲストキャラの数が無駄に多くクセ強ブラザーズ以外は大した活躍をしない点はもうちょい脚本を練られたんじゃないかとか、アクション演出のキレが鈍いとかまぁそういうのはあるんですけど、そう思ったら『嵐を呼ぶジャングル』とか観ればいいしな。今回はなによりも現代風に洗練されたしんちゃん映画の原点回帰作という点で嫌いになれないのです。あちなみに来年のしんちゃん映画は妖怪テーマらしいよ。今度こそ出るか! 妖怪お尻ブリブリや妖怪ちんちんゾウさんは!(出ない)