白石晃士オカルトユニバース最新作映画『近畿地方のある場所について』感想文

《推定睡眠時間:0分》

Jホラーを牽引してきた中村義則、中田秀夫が相次いで新作ホラーを発表しキャリア初期にホラー・オムニバスのテレビ特番(『学校の怪談 呪いスペシャル』)に参加してことがある矢口史靖もオリジナル脚本で本格Jホラーの快作を発表、一方若手監督ではJホラー次世代監督の筆頭と目される近藤亮太が『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』『〇〇式』の二本を発表、テレ東の人気ホラー・フェイク・ドキュメンタリーTXQ FICTIONも『飯沼一家に謝罪します』『魔法少女山田』の二本が公開され関連企画であるホラー展覧会「恐怖心展」も開催と絶好調、トドメとばかりに『呪怨』オリジナルVシネ版二作の4Kリマスター版(ビデオ撮りなのに!)のリバイバル上映まで始まってしまった今年2025年はJホラーの第二黄金期として記憶されることだろう。

そのJホラー第二黄金期2025年公開作の中でも前評判が高かったのが『ノロイ』『コワすぎ!』などのフェイクドキュメンタリー作品で知られる白石晃士が人気作家なのかなんなのかよく知らんけど背筋という人の書いたホラーベストセラー『近畿地方のある場所について』を映画化したこの作品。オカルト雑誌の編集者が謎の失踪を遂げ、こいつが担当していた記事を引き継いだオカルトライターが触れてはいけないものに触れて大恐怖を味わうというまぁそういう映画です。

観ながら思っていたのは怖い怖いいや怖いわ! というのもそうなのだが、これはほぼ『リング』の変奏曲と言ってもいいなということだった。言うまでもなく『リング』はJホラーブームに火を付けたJホラーを代表する一本だが、『リング』の序盤に女子高生の間に広がる観ると死ぬ呪いのビデオの都市伝説を取材する番組の録画映像(という設定)が挿入されていたことをみなさんは覚えておられますでしょーか。実はその取材映像と同じような今度は呪いのチェーンメールに関して女子高生に取材する映像というのが、複数のファウンド・フッテージを数珠つなぎにしたような構成のこの映画版『キンキチ』の中には登場するのだ。

そして『リング』は不気味な映像コラージュである呪いのビデオの内容を解読して一見意味不明なビデオに込められた恐怖の物語を発見していく展開だったが、『キンキチ』もまた前任オカルトライターが集めた一見すればなんの関連性もないような映像資料を二人のオカルトライター、菅野美穂と赤楚衛二が一個一個見ながら、そこに共通するものを見つけていき、一本のストーリーを見出していくという物語になっているわけです。昨今のファウンドフッテージ系Jホラー映画はほとんどがこの形式を取っているので、『リング』のインパクトがいかにデカかったか改めて思い知らされるところである(もっとも、こうした形式がJホラーに初めて現れたのは『リング』ではなく小中千昭脚本、石井てるよし監督による1988年のホラーOV『邪願霊』なので、今フェイクドキュメンタリーを観たり作ったりしている全員はこの二人に足を向けて寝られない)

『リング』の話はそれぐらいにして『キンキチ』という作品自体がどうだったかの話に戻るとこれは怖い、怖い映画である。『コワすぎ』以降、白石晃士は『ノロイ』のような本格ホラーよりもネタ的な方向に寄っていくが、今回は久々に『ノロイ』路線の笑いのない本格ホラー。幽霊や怪異の怖い声、怖い顔、怖い絵。それらが様々なファウンド・フッテージの中にあの手この手で現れまったく怖い。とくに目玉が抜き取られている上に首が折られて頭が背中に垂れ下がっているグロテスクな幽霊なんか現実世界では絶対に見たくない感じである(※穏当な形状の幽霊も怖いから現実世界では見たくないです)

ただ一本の映画としては構成に難があり、序盤は菅野美穂と赤楚衛二を狂言回しにファウンド・フッテージを色々見せていく心霊オムニバス的な展開なのだが、終盤は『もうぜんぶダメなんだよ」という『ノロイ』の有名セリフが再び登場し、『シロメ』に見られたCGによる白い手の幽霊がここでもまた出現、『オカルトの森へようこそ』に出てくる宇宙より飛来した奇岩が再登板することからも、『ノロイ』を中心とする白石晃士オカルトユニバースと接続されるユニバース作品の様相を濃厚に呈してくる。この繋ぎがなかなか乱暴で説明不足や脈絡の無さや展開の前後の矛盾が見られ、もしかしてこれ撮影途中で急遽終盤のシナリオ書き換えてない? と思えるほど。

それも含めて白石晃士らしいパワープレイのホラーという感じだったかもしれない。観客に怖いものを想像させる上品な受動型のホラーではなく、怖い声を出して怖い顔を出して怖い絵を出して観客を能動的に怖がらせるのが白石晃士のホラーであり、そのへんは白石晃士の映画監督としてのもう一本の柱がバイオレンス映画ということとも符合するところ。個人的には劇中のファウンドフッテージ映像などもう少し丁寧に作ってほしかった気がするのだが(単にホラー現象を見せるためだけの粗雑な作りのために逆に怖さが薄れてしまう)、まぁジェットコースターみたいなライド映画と考えればこれでいいのではないでしょか。面白かったです。ちなみに映画オリジナルと思われるラストは、個人的には「侵略」と解釈しますた。

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