佐藤二朗の怪演が爆発映画『爆弾』感想文

《推定睡眠時間:10分》

邦画の当たり年だと言われる今年(毎年言われている気もするが)はサスペンス映画も好調で連続爆破事件を描いた年初の『ショウタイムセブン』に始まり連続殺人事件×冤罪炎上の『俺ではない炎上』、そしてそれから間を置かずにこれまた連続爆破事件テーマの『爆弾』である。そういえば去年には『ラストマイル』もあったし最近は殺人と爆破に躊躇いのない良いサスペンス映画が邦画に増えてきてくれて嬉しい限り。多少前になるが2020年の『サイレント・トーキョー』も全体的にはどうなんだこれはと思うところはあっても渋谷スクランブル爆破シーンだけはやたらと気合いが入ってなそういえば。ちなみに『ショウタイムセブン』の主演は阿部寛で『俺ではない炎上』の主演も阿部寛、そして『俺ではない炎上』で阿部寛の妻役だったのが夏川結衣で、『爆弾』で重要な登場人物の妻を演じていたのも夏川結衣というマジカルバナナみたいな連続性が今年公開のサスペンス邦画三作にはある。

とまぁそんなことはどうでもいいとして『爆弾』の見所はもうもう予告編の時点でサイコーだった佐藤二朗の怪演に尽きるとまでは言わないとしても怪演が8割ぐらい。酔っぱらって酒屋で暴れた中日ドラゴンズファンの佐藤二朗を署までしょっ引いてきたらこの男、秋葉原で爆発が起きると思いも寄らない発言をする。そして佐藤二朗の言うとおりに秋葉原はラジオ会館で爆発が起きるのであった。自分はあくまでも霊感で爆破予知をしただけであって犯人なんかじゃありませんよーと気持ち悪くはぐらかしながら佐藤二朗は第二第三の爆破予告をしていく。身元を示すものを何も持たないこの謎の佐藤二朗からどうにかして情報を引き出し場次なる爆破を止めようと刑事たちは奮闘するのだが……ということで刑事たちも観客たちも取調室という密室でリミッターを解除してフルパワーとなった佐藤二朗のキモコワ怪演に翻弄されるハメになるのであった。

いやぁ、こういう映画が観られて嬉しいですよ。おれ佐藤二朗は怖い人だと思ってたもん。なんかオモシロおじさんキャラみたいな感じで通ってるし実際福田雄一の映画なんかでふざけまくっているが釣瓶と同じで目が笑ってなくて本心では何を思ってるかよくわからない。で佐藤二朗、『バイオレンスアクション』っていう映画でヤクザの組長を演じてて、これは映画自体の出来は結構ダメだったけど、佐藤二朗のヤクザ組長は怖くてよかった。ふざけてる感じか余計に怖いっつーかね。なんか自分の世界と外の世界に高い壁を作って外の世界の出来事にはまったく同情しないサイコパスっぽさがあるのよ。佐藤二朗が映画の中で見せるふざけとか笑いっていうのは自分の中だけで完結してて外の世界との接点がないの。そういうのが見える、そういうところを見せるから佐藤二朗のふざけ芝居は怖いし上手いなぁって思うんですけど。

で、ただなぁ、その佐藤二朗の芝居の面白さに刑事役の若手役者たちがぜんぜん太刀打ちできていないのがもったいないなかったよね。佐藤二朗を取り調べる刑事の中には『ケイゾク』の人であり『外事警察』の人である渡部篤郎もいて、さすがに渡部篤郎だけは熟練の芝居で佐藤二朗の怪演を受け止めきれててこの二人のやりとりは緊張感があって面白かった。でも他の刑事はなぁ。うーむ。どの人も芝居の出来ない人ではないと思うのだが、たぶん監督の演出の問題もあり、それからシナリオの問題も大きい。こんな下手な捜査いくらなんでもせんだろうって思うし、こんなに自分からミスを作ってく警官もそうそうおらんだろう。

一例を挙げると犯人の住居?と思われる場所に警官が踏み込むときにこいつら無線連絡せず応援も呼ばないで中に入るんですよ、爆弾魔の住居かもしれないのに。それはさすがに無能じゃん。で佐藤二朗と刑事のやりとりを見せたいのはわかるけれども捜査が取り調べ中心なのは昭和の捜査観だよね。監視カメラの映像を洗ってた連中がダメだ付近のカメラには映ってないとかその一言で済ませちゃってたけど済ませるなよと。ずっとふざけてる佐藤二朗の供述なんかどの程度信用できるかわからないんだから最初に逮捕された酒場付近のスーパーなりコンビニなりの監視カメラを粘り強く調べて住所の特定を急ぐべきだし、爆破現場の残留物とかからだってわかることあるだろたぶん、どの程度役に立つかはともかくとしてこれほどの大事件なら警視庁からプロファイリング担当の人みたいのだって来るんじゃないの? てか取り調べってこれ緊急事態なんだから刑事は佐藤二朗にいろんな条件提示して情報出してもらえるよう交渉すべきなのにこいつらぜんぜん交渉しないんだよ。ただ佐藤二朗の与太話聞いてるだけ。そんなんで佐藤二朗が折れるわけないでしょうが! しかも頭脳派ポジションの刑事が「この男の発言には暗号が隠されている!」とか言い出すし!(しかも実際に隠されてる)

ちょっとこれはリアリティが足りないすよ。刑事事件の捜査のリアリティが足りないからどうしても刑事と佐藤二朗のやりとりに緊張感が生じにくいし刑事役にあるべき迫力も出ない。迫力って別にでけぇ声出すとかぶん殴るとかそういうことじゃないよ。この人は数々の悲惨で残虐な事件を乗り越えてきたプロなんだなぁと思わせてくれる迫真性がないってこと。だから一人の警官が佐藤二朗を殺そうとして怒鳴りながら取調室に乱入してくるシーンなんか逆にかなり白けてしまった。怒鳴りゃあいいってもんじゃない、あんたそんな重要参考人を殺すために取調室に入ってくる警官なんかいるわけないでしょうが。少年マンガの世界なんだよなリアリティラインが。

とまぁ意外と文句多めになってしまったが佐藤二朗の怪演はやはり面白いし出し惜しみせず何度もいろんなところを爆破してくれるのもサービス精神旺盛でとてもよいとおもう。この手の爆弾サスペンスだと爆破回避が目的だからそんなに爆破してくれないってケースは多いですからね。2時間超えの長丁場だが展開も次から次へ~という感じでなかなかどうして取調室中心なのに飽きないで観られる。面白い映画だったと思いますよ。邦画サスペンスの佳作。でもだからこそ、あぁ、もったいない! リアリティに気を配れば傑作になったのになぁと思うところもあるわけですが。

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カモン
カモン
2025年11月5日 10:28 PM

戦いはあるていど実力が近くなくてはおもしろくないってドラゴンボールのセルが言ってたし悟空も同意してたよね