人気ホラーオムニバス再起動作『V/H/S 94』感想文

《推定睡眠時間:0分》

おそらくシリーズ最新作のはずの『V/H/S ビヨンド』に続いて公開されたファウンド・フッテージ・オムニバスの『V/H/S』シリーズ何作目かわからない過去作だが、この後にシリーズは『V/H/S/99』『V/H/S/85』と続いて実はそれも国内配給のKOOKS FILMSが配給権を買い付けたらしく、既に『94』~『ビヨンド』までの合同パンフレットは発売されているので今後そちらも順次公開される予定だという。今年は『ドールハウス』『見える子ちゃん』『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』などJホラーも豊作揃いだが、洋画ホラーもお祭り状態。世界情勢は最悪だがホラー映画的には本当に恵まれた年である。

でこの『94』は毎度おなじみSWAT隊が怪しい組織のアジトに突入をかけるシーンから始まる(何度目なのか)。事前情報では麻薬ギャングなどがいるはずだったがアジトの中はもぬけの殻、その代わりに至るところにビデオ映像の流れるブラウン管テレビと目玉のくりぬかれた死体とマネキンが転がっているという異様な空間であった。SWAT隊員たちはそこで一人一人妙なビデオを見ていく。そしてそのビデオを見た後は精神に変調を来し…そのビデオこそが劇場のみなさんがご覧になるホラー短編なのである!

これは面白かった。最新作の『ビヨンド』も面白いは面白いがいささかストーリー性が薄く映像表現市と化していた点が不満だったのだが、こっちの方はまだネタがあったのか一本一本が短編ホラーとして出来上がってる感じだな。エピソードは5つ。下水道に棲んでいると噂の未確認生物ラットマンをテレビリポーターが追う話、バラバラなはずの死体が誰も来ないお通夜会場で動き出す話、ジャカルタのマッド博士が作った『武器人間』と情無用の処刑警察が血みどろのバトルを繰り広げる話、政権転覆を目論む武装愛国カルトが秘密兵器として吸血鬼を使おうとして自滅する話、そして繋ぎエピソードであるビデオ・インフェルノに足を踏み入れたSWAT隊員たちの話。

UMAにゾンビに改造人間にとバラエティに富んで武装愛国カルトのエピソードだけはとっちらかって要領を得ないのだが(おそらく1995年に起きたオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件を下敷きにした「その裏側では…」的なエピソードなのだと思うが、ちょっと無駄に捻りすぎた)それ以外はかなりイイ感じ、どれも面白いがMVPはやはりジャカルタの『武器人間』と処刑警察がバトるエピソードでしょう。

男の顔がクロースアップされてカメラが引くとそれは人間の頭部に機械のクモ脚を繋いだ改造人間だったことがわかるファーストシーンはものすごい出オチ感だが、その後マッド博士の人体改造ビデオ日誌を経て可哀相な改造人間の生き残りを賭けた死闘へ。この戦いが胴体は千切れ頭は吹き飛び人間という人間が蜂の巣になる容赦のなさ。改造人間のデザインもオールドスクールなサイバーパンク的メカメカしさでかなりカッコいいし、『ロックマン』よろしく腕を武器アームに換装して反撃するところとかゲーム風ロシアンPOVアクション『ハードコア』を彷彿とさせてバカバカしくもサイコーである。

たぶんここからだと思うのだがこのシリーズはアメリカのホラー映画専門VODのshudderオリジナル作品として製作されているのでゴア描写にお子様向けの配慮などなく、まったくゴアの必要性を感じられないところでも無駄に悪趣味で素晴らしい。エピソード2のお通夜の話は正統派の怪談話だが、安置された死体が飛び降り自殺でバラバラになったのをとりあえず繋げてシルエットだけは人体にしてる設定のため、この死体がゾンビとなって起き上がると全身がボロボロと崩れていき内臓はこぼれ出す。床に落ちた頭部の断片に付いてる目がギャンッと見開くところとか笑っちゃう感じである。それ以外にもSWAT隊が目にする異常空間など美術面での見所はたくさん。うれしい。

ところで『94』『99』『85』のオーガナイザー役を務めているのは1作目『V/H/S シンドローム』に参加したデヴィッド・ブルックナーだが、ブルックナーのデビュー作『地球最後の男たち』も三人の監督が一つのストーリーをシークエンスごとに分担監督した競作映画で、その基本設定であったテレビからの怪電波で人類が発狂して人を殺し始めるというスティーヴン・キングの『セル』に先駆けたアイデアがこの『94』にも取り入れられているのは面白いところ。この『地球最後の男たち』は日本ではビデオスルーなので知名度は低いが俺は大好きな映画で、風変わりだが妙にリアルな変種の終末ゾンビ映画として三見ぐらいの価値はあるので、話は逸れるが機会があればぜひである。まぁその機会がないんですけどね、ハハハ!

カメラはポンポンと切り替わるし改造人間エピソードでは途中から改造人間の主観POVになるし(頭にカメラくっつけられた!)もはや手持ちカメラの映像が多い程度でファウンド・フッテージとして成立していない気がするが、まぁそんなもんどうでもいいですよね、どうせ誰もこれをホンモノの発掘衝撃映像だとは思わないわけだから。最近のアメリカのホラー映画は無駄にイイ話とか知的な話にしようとするシケた出来のものが多すぎるが、これはみんなでワイワイと無邪気に残酷&恐怖を楽しめるイイやつだと思います!

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