三途の森の大冒険映画『MOON GARDEN ムーンガーデン』感想文

《推定睡眠時間:40分》

想像力ゆたかな子どもにとって世界のすべてはおそろしくもわくわくだらけの冒険の場なわけで『オズの魔法使』からテリー・ギリアムの『バンデットQ』やらデル・トロの『パンズ・ラビリンス』までさまざまな「子どもの目にはこう見える」映画が作られてきたわけですがその最新作がこれ『ムーンガーデン』、主人公のおそらく未就学幼女ちゃんはある日両親のケンカを目撃してしまいもうやーめーてーと横山弁護士のように叫びながらダッシュしたら階段からコロコロリンして頭部強打。肉体から抜け出た幼女ちゃんはとりあえず夜の森を足を踏み入れるのですがそこはなにやら得体の知れないものがたくさんあるコワイ場所であったし入れ歯をガチャガチャ鳴らす無貌の死神も追いかけてくる。はたして幼女ちゃんは死神の魔手から逃れ大好きなママとパパのもとへ生還することができるのであろうか?

筋立てはたいへんよくあるジュブナイルファンタジーとか絵本ですが特徴的なのはそのビジュアル。夜の森といったがなにせ臨死体験の中でのことであるから普通の森ではなく、わけのわからぬパイプやケーブルやチューブが張り巡らされ謎のバチバチ電流や蒸気が噴き上がるその空間はサイバーパンク感バリバリであります。おそらくイマジネーションの元となったのはゲームもしくは映画版の『サイレントヒル』とか塚本晋也の『鉄男』だろう。とくに『鉄男』の影響は大きいらしく、死んだおじいちゃんの入れ歯をガチガチ鳴らして追いかけてくる恐怖の死神は人間が入っているのだがストップモーションやコマ落としの手法で獲られているので動きがカクカク、これは初期の塚本晋也が『鉄男』ほか『ヒルコ 妖怪ハンター』とか『東京フィスト』とか色んな作品でやっていた疾走感を演出するための手法であった。

その他にも逆回しで壊れたモノが再生していくなどCGを超えてAI時代に突入した現代からすれば原始的とすら言えるトリック撮影が多数用いられているが、その原始的トリック撮影がノスタルジーを喚起しつつ映像で夢を作ることの本質的な面白さを感じさせてくれるのだから嬉しいものだ。こういう映画を見ると夢とはなんであろうかと思わずにはいられない。そりゃ大金はたいてゴージャスに作り込んだ夢も夢ではあろうけれども、逆再生で壊れたモノが直っていくみたいなメリエス流の無予算トリックで作られた映像だって立派に夢で、不思議なことにそんなシンプルなトリックの方がなんだかホンモノの夢のように見えたりもするのだ。他の人は知らないが俺の見る夢なんかいつもトイレに入ったら便器がなくて床だけでどうしようとかそんなショボさだしな。

幼女主人公が冒険するのは三途の森なのでそれを形作るのは幼女主人公の記憶である。怖いモノも楽しいモノも変なモノもたくさんあるこの三途の森を冒険しながら幼女主人公はあぁこんなことあったなあんなことあったなとパパとママとあと死んだおじいちゃんとかとのいろんなことを思い出していく。ジャンル的にはダークファンタジーとなろうけれどもそんなわけで強く感じられるのはコワさとか異様さであるよりも温かみであった。大人にとっては取るに足らないなんでもない一言だって子どもは案外覚えているもの。そのなんでもない記憶が形作る三途の森は幼女主人公が大好きなパパとママと過ごした楽しい時間を観客に追体験させてくれる。うう…泣いてしまうぞ! 泣かないが。

とそんな感じでこれは手作り感満載の良きダークファンタジー。スタイリッシュで温かみがあって懐かしくてちょっとコワイ。ええもんです。

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