駄菓子屋の顔大集結映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』感想文

《推定睡眠時間:10分》

世界的着せ替え人形が原作(?)の『バービー』や現在爆裂ヒット公開中の『マインクラフト』など昨今のハリウッドでは陰りの見えてきたアメコミ映画の次の稼ぎ頭としてオモチャやゲームの映画化が相次いでおり2025年春現在でセガの名作レースゲーム『アウトラン』もあのマイケル・ベイが監督で映画化(潔いほどにネームバリューだけに頼った映画化企画だ)がスタートしたとの情報も入ってきているが、その波は極東ジャパンにも押し寄せ国民的といえるかどうかはわからないが人生で一度くらいなら食べたことのある人はきっと多いであろうビスケットお菓子「たべっ子どうぶつ」がついに映画化である。ついにって別に誰も待ってないだろ!

これははたしていったいどういうことなのか…もぎりで入場者特典のたべっ子どうぶつの箱(なんだそれは!)をもらい席に着くとスクリーンに現れるたべっ子どうぶつ製造元ギンビスのムービングロゴ。映画館のスクリーンにギンビスのムービングロゴが流れるのは間違いなく史上初と思われるしたぶん映画館で流すためにわざわざ作ったんだろうから、最初で最後になるかもしれないこれが観られただけでも来た甲斐はあった。ごめんそれはウソです。で映画が始まると立体化されたたべっ子どうぶつたちが万単位のサイリウムに囲まれてライブをしておる。説明によればたべっ子どうぶつたちは元々お菓子であったがある日空から降ってきた謎の金平糖ミラクルによって他のお菓子ともども人間に食べられるとキャラクターが3D実体化するようになり、そうして生まれたお菓子生物たちの中でもたべっ子どうぶつはカワイイので人気が高く、アイドルグループを結成して現在ワールドツアー中なのだという。

アイドルグループといえば内紛。たべっ子どうぶつたちも例外ではなく人気急上昇のニューフェイス・ペガサスちゃんにリーダーのライオンくんが嫉妬の炎を燃やす中、一行はワールドツアーの終着点である母国シュガーランド的なところへ。だがしかし、お菓子生物と人間が平和に共存していたはずのシュガーランドは謎のわたあめに国中が覆われており、たべっ子どうぶつの盟友といえるうまい棒のうまえもんやカラムーチョのヒーばあちゃん、タラタラしてんじゃねーよのパンクロッカーなどみんな砂糖漬けにされてしまっているではないか! がーん! これはショックである! いつか知人がうまい棒のキャラってドラえもんのパクリだよなと言うのでドラえもん好きの俺はいやいや全然似てないですよと反論したのであった。だが、この映画によればうまい棒のあいつはうまえもんという名前なので完全にドラえ〇もんのパクリである! エンドロールにもしっかりと「うまえもん」でクレジットされていたのでもう逃げ道はない。俺が間違っていたのか…すまなかった…いや、てかそもそもそんな露骨にパクるなよ!

変な方向に脱線したがまぁこれはあれだね、俗に言う解釈違いというあれかもしれません。なにこの夢があるようで妙に現実的な設定。たべっ子どうぶつをアイドルグループにする必要はあったのだろうか。いやそりゃ作り手が必要と判断したらなんだってやったらいいんだけど、個人的にはこう、たべっ子どうぶつにはもっとファンタジーで無垢でカワイイ感じのものを想像していたので、『SING/シング』あたりを意識したのかもしれないが、人間相手に商売してるアイドルグループっていうのはちょっと生々しいし、言動からするにみんな二十代ぐらいの結構大人というのもまた夢が削がれるところである。たべっ子どうぶつの武器はカワイさというが、クレヨンしんちゃんみたいに五歳児のたべっ子どうぶつがカワイさをアピールするならまだしも、成人してアイドルのお仕事もしている大人のたべっ子どうぶつが「僕たちの武器はカワイさだ!」みたいなことを言い始めるので、それは素直にカワイイと思えないだろう。

お前の妄想なんて誰も聞いてねーよとみなさんが思っていることは頭頂部に差したアンテナでキャッチしているのですが、もし仮に俺がたべっ子どうぶつを映画にするとしたら、もっとシンプルな話にすると思うな。たとえば女児がおばあちゃんちでたべっ子どうぶつを食べていて、するとおもむろにおばあちゃんは女児にたべっ子どうぶつの昔話をし始め、たべっ子どうぶつと若かりしおばあちゃんのウソかホントかわからない冒険物語が回想形式で始まるとかまぁそういう感じの。オッカムの剃刀ではないがファンタジーの基礎設定はできるだけ単純な方がいいんじゃないだろうか。ほら『オズの魔法使』なんか竜巻で飛ばされた先は魔法の国だったのっでなんでもありですってシンプルじゃん。『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』の場合は元々普通の世界だったけど謎の金平糖隕石の影響で人間がお菓子を食べるとキャラが実体化してその上でたべっ子どうぶつがアイドル活動をしていてって感じで基礎設定をいくつも重ねてるし、現代風の都市やテクノロジーがあったかと思えばわたあめに侵略されるのは中世風の町だったりと世界観も一定しないから、今一つ「わぁファンタジーだー!」ってノリきれないところがあるんだと思う。

あとわたあめ軍団をどうするかっていうのと同じ比重でライオンくんとペガサスちゃんの確執のドラマが描かれるので中盤は物語が停滞してセリフのやりとりばかりになるっていうのもな。どうせ一発ネタ的な企画なんだからお菓子がゴチャゴチャと走り回ってるだけでも別にいいってかそっちのが面白いのに。変に真面目で込み入ったドラマをやるにはたべっ子どうぶつとかいうコンテンツ(と言えるのか?)はちょっとミスマッチだったんじゃないだろうか。

なんだか不満ばかりになってしまったのだが、たべっ子どうぶつに限らずギンビスのお菓子にも限らずメーカーの垣根を越えてあのお菓子キャラこのお菓子キャラが顔見せ程度だとしても映像化され一堂に会したのは快挙、さながら日本の駄菓子屋さん版『レディ・プレイヤー1』の様相を呈しているので、なんだかんだ盛り上がるタイプの映画ではあった。第二弾があるならぜひともどんどん焼きの人とか酢だこさん太郎のタコとかに登場していただきたい感じなので、内容的にはちょっとアレなところもあるが、楽しくてよい企画だったんじゃないでしょか。

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