【ネッフリ】キューブ大好き映画『ブリック』感想文

《推定ながら見時間:30分》

Netflixは新作ラインナップは良いのだが旧作ラインナップが弱いしその新作もドラマなんかが中心であんまり観たいもん無くなってきたなぁと思ってたしか2年ぐらい前に解約したNetflixに再び舞い戻ることにしたのは完結したかと思ってた超絶技巧アニメシリーズ『ラブ、デス&ロボット』の新シリーズが配信されるらしいと知ったからなのだが配信開始から一ヶ月以上、未だに『ラブ、デス&ロボット』の新シリーズは観られていないので一体何のためにNetflixに戻ってきたのかととらやの面々に嫌味を言われる寅さんの状態になってしまった。とりあえず何か観なければ。というわけで最近配信されたらしいこの『ブリック』に白羽の矢が立った。

あらすじを読むにドイツのマンションが謎の堅牢外壁に突如覆われ出られなくなってしまってさぁどうしようということで団地の外が突然虚無空間になってしまってどうしようのフランス映画『ザ・タワー』のリメイクかと思ったがそういうことではないらしい。『ザ・タワー』はホラーとかサスペンスというよりも不条理劇の色彩が濃く、謎解きとか脱出とかそういうのは早々に展開から脱落してしまったが、こちらは正統派のシチュエーション・サスペンス。かような困った状況に陥った離婚危機の夫婦が壁を次々ぶち破ってマンションの色んな部屋を行き来しながら仲間を集め、脱出策を模索するのであった。

という次第だから近い作品でいったら『CUBE』とかの方でしょうな。意外と面白かった。Netflix配信のジャンル映画は雰囲気系が多い気がしてどうにも乗れないところがあったのだが、この『ブリック』が嬉しいのはいったいこの現象はなんなのかという謎解きを理詰めでしっかりとやってくれる。人間業とはとても思えない何かの正体を論理的に導き出そうとする点でSFミステリーの趣があるのだ。

これが結構難しいのでいやもっと優しい謎にしてくれよ水も出ないみたいだしこんな緊急事態でそんな難問解けないよ平常時だって解けないのに! とガラにもなく登場人物の境遇に感情移入してその閉塞感に心の中で出してくれー助けてくれーと叫んでしまった。しかしだからこそ、わけわからんようでいて答えを知ってから改めて考えると結構いろいろヒントは出ていたその答えにガッテンガッテンである。そうか! なるほどね! あーたしかにそうだわー! これはシナリオがちゃんとしてる映画だなこの手のヤツにしては。

それ以上のことはネタバレになってしまうのであまり言えないが、説教臭くない程度に社会風刺が含まれているのもまた好感度の上がるところ。序盤のいくつかのシーンは被写界深度が極端に浅く、それが視野狭窄で他人の姿が目に入らない現代人の眼差しを戯画化しているようにも思えたのだが、それもあながち穿ちすぎではないのではないかと思えるのは過剰な防衛は益ではなく害に転じるというのが作品に伏流するテーマっぽかったから。

昨今、広義の防衛論議をインターネットで聞かない日はないのだが、防衛の必要性の訴えは必ず外部に対する恐れに根ざしている。半径五メートルの狭い世界(エコーチェンバーなんて風にも言いますね)なんかに閉じこもっているとたしかにその世界は居心地が良いだろうが、副作用として五メートルの外の広大な世界がどんどん怖くなってくる。そしていつしか敵と見えるようになった外の人たちから自分たちの世界を守るために「壁」を作ろうとするのである。こうした現代人の病理は言うまでもなく今のアメリカでマンガみたいにわかりやすく表現されているところだ。

そうした現代人を批判する意図がおそらくありつつ、その不毛の外に出てみましょうよというメッセージ性もたぶんきっとありつつも、でもそれを観客に押しつけようとはしない。基本的にはあくまでも『CUBE』フォロワーのシチュエーション・サスペンスないしSFミステリー。鈍感な観客にはその含意は伝わらないかもしれないが、少しだけ真面目に観ようとすればちゃんとわかるという作り。こういうジャンル映画として分を弁えているがかといってへりくだってるわけじゃないみたいな職人イズムを感じさせる映画、イイですよね~。

アメリカ映画ならあはいはいこの人は生き残るのねと5秒でわかる人から容赦なく死んでいくドライさもスリリングで面白いし、主人公はキムタクの水分を搾り取ってノイバウテンのブリクサの声を移植した人みたいだし、俺の数年ぶりのNetflix復帰作はオリジナリティはないがきっちり楽しませてくれる当たり映画でよかったです。

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