【ネッフリ】『殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合』感想文

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《推定ながら見時間:全4エピソード中160分》

『殺人鬼との対談』と言いつつ対談の形式は取ってない。シリアルキラーは概して承認欲求が強いがテッド・バンディも例外ではないというかその典型みたいな感じなので、記者がテープレコーダーを持たせたら半ば独白のような形であれこれと話し始めた。

そのテープを軸に関係者のインタビューを織り交ぜながらバンディの血まみれの足跡を追っていくという内容。
タイトルに惹かれて観てみたが従ってかなりオーソドックスなシリアルキラーの伝記もの。アグレッシブな作品の多いネッフリ・ドキュメンタリーの中ではむしろ、題材の主張の強さに反して味気ない作りになっていた。

ただ思うのですがこれそもそもバンディが悪いよね。いや20代の女性を中心に(最後の一人は12歳の少女だった)30人とか残虐な方法で殺してるから悪いんですけどそういう意味の悪いではなくて、ドキュメンタリーとして面白くないのはバンディ自体が面白くないからだよねっていう。
だって本人が仄めかす殺人のキッカケは大学で付き合ってた女に振られたからとかですからね。それで若い女を引っかけて殺すようになるって何の捻りもないじゃないですか。

弁護士志望で選挙活動とかもやっていたので弁が立つ、見た目は70年代アメリカ基準でそこそこハンサムで、裁判では弁護団を信用しないでしばしば自己弁護を行った。
テレビ映えするバンディは一貫して無罪を主張してたんでその裁判はメディアの注目の的、ライブ中継のリアリティショーと化して女性ファンまで付く始末だったが、こんなものはバンディのつまらなさの証左でしかないですよ。

死刑執行に際して収監された刑務所の前で巻き起こったお祭り騒ぎは象徴的だと思いましたね。
結局バンディというのは分かりやすい大衆向けのシリアルキラーで、そのつまらなさはまた誰でも手軽に消費できるポップさでもあった。
バンディ人気はチャールズ・マンソンとかエド・ゲインみたいなカルト的なものではなかったし、その出自も殺人も(シリアルキラーとして)ひどくありふれたものだったわけです。

こういうつまらないありふれた殺人者が稀代のシリアルキラーに成り上がってしまったのは70年代が諸々ゆるい時代だったからで、ということがこのドキュメンタリーを見ると分かるのでそこは面白かった。
バンディの手口というのは愛車のフォルクルワーゲンで女をナンパして殺害、一通り陵辱したのち山に捨てるというめちゃくちゃざっくりしたもの。今だったら監視カメラの映像で一発逮捕でしょう、こんなの。

けれどもそれが70年代にはまかり通ったわけです。相次ぐ女性の失踪にメディアが騒ぎ始めたら別の州に引っ越せばよかった。
今日の感覚からすると考えられないが当時は州間で犯罪者の情報が共有されていなかったので、連続殺人の嫌疑が濃厚な中で起こした二度目の脱獄の後、車(懲りずにフォルクスワーゲン)の盗難で逮捕された際にバンディは指名手配されていたにも関わらず別人として送致されたのだった。

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二度も脱獄してるし状況証拠は山ほどある、しかし決定的な物証が上がらない。国選弁護人に任せて黙っていれば少なくとも殺人の罪からは逃れることができたかもしれないバンディは、メディアの注目がよほど嬉しかったのか有能かつ可哀想な被害者としての自分を臭く演出しまくったことで墓穴を掘っていく。

結果、殺人で有罪、死刑判決。また別の州でも殺人で起訴されて、それも有罪、死刑。その時はまだ殺人を否認していたが、死刑執行が間近に迫った後年、時間稼ぎのために起訴されていない件も含めて殺人を自白する。
今殺したら事件の全容がわからなくなるぞ、ということらしいのですがお前はそれでもシリアルキラーかと思う。こんな大量に殺しているのにまだ一般人感覚で行動するわけです、バンディは。最後までつまらない。

バンディがシリアルキラーになることができた70年代アメリカの警察事情、政治状況、情報通信技術レベルなんかを指摘しつつ、シリーズは全体としてバンディの怪物性を決して明かすことのできないその内面に求める。
人当たりの良い社交的な青年が何故こんな…というわけですがその手垢の付いたワイドショー的な見方こそシリアルキラーとしてのバンディを育んだんじゃないかと思うのでうーむ、みたいな感じになってしまった。

ハンサムで人当たりの良いやつが殺しなんかするわけがないという社会通念がバンディの杜撰な殺人を可能にした。
それはバンディが法廷に上がると今度はギャップとして、実物よりも遙かに大きなシリアルキラーの虚像を作り上げた(結果としてバンディを有罪に導いたが)。
このドキュメンタリーもまた同じ轍を踏んで、一見その実像に迫るようでいて実のところは虚像を拡大してしまっているように俺には思われたわけです。

シリアルキラー大国アメリカでシリアルキラーになることは死と引き換えに憎悪と裏表の名声を手にすることか。
なんでも今度ザック・エフロンかなんかがバンディを演じる映画が公開されるそうですが、つまらない男バンディはつまらないからこそ、こうして今もメディアを通じて俺を含めたつまらない人々に暗い楽しみを振りまいているのでした。

ちなみに一番面白かったところはバンディの手口や特徴を明かした上で警察が情報提供を呼びかけたらウチの彼氏が犯人なんじゃないかという電話が殺到したというくだり。
バンディがいかに凡庸な男か、バンディのような男がどれだけありふれているかを端的に表す笑えない笑い話で超苦笑いでした。

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そんなつもりはなかったでしょうが結果的にアメリカン・シリアルキラーのイメージを先取りしてしまった恐るべき一作。
最凶シリアルキラーの処刑で松明を手に盛り上がる群衆の姿もバンディの死刑執行のお祭り騒ぎに引き継がれる。

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