【ネッフリ】米国インプラント恐怖譚『両刃の先進医療』を見る

《推定ながら見時間:50分》

いやこれが恐ろしい話で単に先進医療と言われても漠然としていてよくわからないがインプラント医療機器、とくに永久避妊具のイーシュア(essure)というやつを膣に突っ込んだらえらいことになってしまった事例を中心とした米国インプラント・ホラー・ドキュメント。

このイーシュアというやつの正体はミニミニコイル。卵管に装着すると周囲に炎症を起こして、そのまま放っとくとこの炎症部がくっつくので晴れて卵管閉鎖という仕組み。メスとか使う必要もないので日帰りで手術が完了して大変便利。
その説明がもう恐いが素人目にはどんな外科系の施術も恐く映るので恐怖の核心はそこではなく、イーシュアの激甚副作用(らしいが詳しいことはよくわからない)に苦しむ人たちのポートレイトでもなく、結局これこれの被害をポコポコ生み続ける極めてアメリカンな構造が恐い。

映画は世界医療サミットの基調講演だかで医療機器メーカーの偉いやつが先進医療機器がもたらすバラ色の未来がいかなるものか浪々と語っているところから始まる。
こういう内容の映画であるから怒りを帯びた毒が強烈な幕開けだが、イノベーションと未来の語を免罪符に犠牲者を顧みることなく進み続けるアメリカ流ハイパー資本主義の戯画は、もうちっとも笑えるところがない。

そうは言っても技術の進歩で助からないものも助かるように、できなかったこともできるようになるのだから、と俺の中の何者かが反対意見を述べているが、つまりはインプラント医療機器そのものではなくそれを審査をする米国食品医薬品局(FDA)が事実上ほぼノー審査でイーシュアみたいな新製品にガシガシ認可を与えている政治と行政の機能不全があかんという話。

映画が主張するFDAの問題点というのは大きく二つあって、一つは業界の熱烈ロビー活動によって議会を通過した認可に関する特例法みたいなやつ。
その内容。医療機器メーカーの競争は凄まじい。毎年毎年新製品を投入しないと会社が回らない。そのたびにいちいち安全性試験とかやってられないので、FDAが前に認可を下した製品の改良版みたいなやつだったら細々とした試験なしでも安全基準をクリアしたと「見なす」。

これはあんまり制限的なものがない(リコール製品の後釜でもOKとのこと)らしいので見なし製品の後継モデルも安全と見なしてその後継モデルも安全と見なしてその後継もと続けられるというからだいぶ狂っている。
どうしてそんなアホがと思うと原因として浮上するのが二つめで、ありきたりな業界との癒着と天下りだったが(しかしその悪いやつらと見なされる天下り局長クラスが実名&実画像つきでちゃんと出るのがアメリカ映画の健全なところだ)うぉぉってなるのはそこからトランプ大統領のFDA新長官指名のシーンに繋がるところ。

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このFDA新長官スコット・ゴットリーブ氏というのはそもそも製薬業界を渡り歩いていたビジネス人間で、それを言ったらトランプ大統領自身がそうじゃないかという気もするが規制する側のトップに規制される側の人間を据えるのだからド直球の利益相反アラートだ。

こんなんで医薬品とか医療機器の安全性が担保されるわけがないだろ。でも業界は当然のこと歓迎するわけである。映画はそれ以上政治の領域に足を突っ込んだりはしないが、こういう倫理も糞もないビジネス第一な采配をする人なら産業界は喜んで金と尻尾振るよなって感じでトランプの強さの理由を垣間見、それがまたおそろしい映画でもあるのだった。

という土台の上でインプラント医療機器が適切に扱われるわけがないので後はもう結構でたらめな光景が広がる。FDAのイーシュア認可会議のビデオ録画が民間委託(?)になっていて被害者の一人が取り寄せようとすると900ドルかかったとかもよくわからない話だが、イーシュアの使い方を詳しく知らず通常左右の卵管に1本ずつのところを5本も6本も入れる医師がいたりだとか、いざ除去となっても正確な除去の仕方が医師間に周知されていないので重篤な副作用が出ても取り除くことすらままならないとか。

とにかく規制が甘いのでこんな惨状でもメーカーは責任を負うことなく悠々と商品を売っていける。医師にリベートでもなんでもやってとにかく商品をバラまけば勝ち。CMなんかバシバシ打ってイノベーティブで安全なイメージを消費者に植え付けたらそれで勝ちだ。
ああ、アメリカだ。ものすごくアメリカだ。アメリカのイノベーションというのはこういうもので出来ているんだなぁとしみじみ思う。

手術支援ロボットのダ・ヴィンチをメーカーが売るだけ売って操作に必要な訓練はなおざりにしているとの批判も映画に出てくる。
それが的を得た批判なのかどうかは知らないが、イノベーションを推し進めるためには企業の負担は少なくあるべしツケはそこらの不幸な民間人にでも回すべしなアメリカ的精神風土がよくわかる。そらぁウーバーの自動運転車も人間を轢き殺そうというものだ。

イーシュアに関しては最後に少しだけ被害者団体に光が差すが、第一義的には産業と政治と行政を横断する構造問題であるしその大元には冒頭の講演に見られたような根深すぎるイノベーション信仰があるのだから、よかったね感は微塵もない。

あとこれは映画ではとくに触れられてはいなかったが、単純に避妊目的なら夫にパイプカットさせればいいんじゃないかとも思え、イーシュアを含む膣系インプラント器具の副作用でセックスどころではなくなった被害者妻の方々がそのせいで夫に見限られてしまっただなんだと語ったりする場面があったりしたが、そこに見える女性の家庭内劣位とプロテスタンティズムがこれまたつらい。

アメリカのドキュメンタリーは基本的につらい。膣パッチ系のインプラント器具を入れた妻にもう大丈夫だろうと思って挿入したらチンポが裂けてしまった夫のエピソードとかは笑いましたが(わらえない)

【ママー!これ買ってー!】


マッド・サイエンティスト (創元SF文庫)

百人殺せば英雄で一人殺せば云々。インプラント事故も大企業ならイノベーションで在野のいち科学者ならマッドサイエンティスト事案だ。

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