【ネッフリ】『イン・ザ・トール・グラス -狂気の迷路-』感想文

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《推定ながら見時間:30分》

ちょいちょいドラマ仕事なんかはしていたみたいですが『CUBE』のヴィンチェンゾ・ナタリなんと6年ぶりの新作長編映画というサプライズ。しかも原作はスティーヴン・キング×ジョー・ヒル。そんなビッグネームが揃った映画をサラッと配信しないでほしい。たしかにサラッと配信されて然るべき小品ではあるが…とブツクサ思いながらIMDbを開くとナタリ去年付で『トレマーズ』のリブート版テレビシリーズのパイロット版を監督してました。ええっ!

サラッとでいいからそっちを早く、そっちも早く観せてほしいが、が、どうやらシリーズ化の話が一旦流れたのでパイロットも今のところオクラに入った様子。ハリウッド実写版『ニューロマンサー』の監督は降ろされるわ『トレマーズ』のリブートは潰れるわで大変だ。ナタリほどの才人がこんな扱いなのだからハリウッドはおそろしい。こんな扱いといってもドラマ版の『ウエストワールド』とか『ロスト・イン・スペース』とか『ハンニバル』とか話題作にはゲスト監督的に呼ばれているが。

気を取り直して『イン・ザ・トールグラス』の感想。うんおもしろかったです。ナタリのミニマル美学炸裂。なんていうのか知りませんが大人が隠れるくらい背の高い細長い草がブワサァっと茂った草原? 畑? がどこぞのアメリカ田舎にあってそこから子供の叫び声が。助けてよー! でたまたま車で通りかかった主人公兄妹はのこの葉っぱの海に入ってしまいます。あぁ終わった。終わってしまった。そこは時空間の乱れた草迷宮。一度入ったら二度と出ることはできない。兄妹とほか数名は延々草迷宮をさまよう内にどんどんおかしくなっていくのであった。まぁ『CUBE』の草版ですよね。草って。

前半はとにかく草しか出てこないのでストーリーとは別の意味でこれ大丈夫なのかとスリル満点だったがそこはキング&ヒル原作、草から世界を広げる広げる、広げるというか、掘る。キングの短編『トウモロコシ畑の子供たち』をおそらく下敷きにして最後は諸星大二郎的な伝奇ホラーへ…という極小から極大へのケレンたっぷりなダイナミック遷移は快感(諸星大二郎の何の作品かというのは書いてしまうとネタバレになってしまうので伏せる)

草一本でようここまで作ったよね。まぁ草一本ではないけれども出てきて石とか犬の死体とか廃墟の教会とかそれぐらいだから実質草一本で撮ったようなものです。といってアイデア賞みたいなつまらない感じではない。むしろ被写体を極端に限定することで独特の世界を作り出しているのがナタリの才人たる所以です。

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さっきIMDbを見て初めて知ったんですが元々はナタリ、ストーリーボード・アーティストだったらしい。つまり映画の絵コンテ作家。『CUBE』のメイキング映像を見ると実はあのセットは箱を半分しか作ってない。それを照明変えたりカメラポジション変えたりして色んな箱に見せてるんですが、なんでそんなことができるのかと言ったらやっぱストーリーボード・アーティストの経験がたぶん大きい。この人の映画は非常に明瞭なカットが特徴としてあって、迷いとか無駄なものがない。何をどう見せて何と繋ぐかっていうことがシナリオ的にも映像的にも隅々まで計算されている。でそれは『イン・ザ・トールグラス』で結構、地味に極まっていた。

だってもう冒頭からド田舎のなんもない一本道をターッと走る車っていうシンプル画です。青い空、黄色い大地、片側には緑の迷宮。廃教会の前で車を停車。そして草迷宮から子供の声。
別のシーンではこんな感じ。草迷宮に姿を消した恋人を探して一人の男が近くのスタンドにやってくる。怪訝な表情の女店主。写真を見せる男。「見たことは?」で男、女店主が返事をしないので黙って去るわけです。

すごいよねこの鋼の如し見せたいものだけ見せるぞ精神。それが全部ストーリーの中で無駄になってないので伏線厨歓喜、ぼくはべつに伏線厨ではないがそれでも非常に気持ちよかったです。
とにかく必要最低限、見たまんまのものしか映さない素朴派絵画みたいな映像世界はそのザの付くアメリカ風景がザすぎて超現実的、というのもおもしろいところで、これまでのナタリ映画は人工的に迷宮を作っていたが、今回はいよいよなにもないところにカフカ的な迷宮が現出してしまう。

メディアアート的でコンセプチュアルな画作りになっていたというか。草から滴る朝露や不快なぬかるみの超接写、草の揺れと過ぎゆく雲のタイムラプス、汗にたかるハエや泥に潜むカエルのスナップショット、どれも単体では何気ない自然風景でしかないが、それが草迷宮に絡め取られた人間たちの不可解なドラマの合間合間に配されるとまったく違った様相を帯びてくる、というわけです。
絡み合う草を真上から撮ったショットの気持ち悪さなんかちょっとすごい。そのイソギンチャク的なうねりをジッと見ていると人間の皮膚とか細胞に見えてくる暗黒アハ体験、ミニマル映画作家ヴィンチェンゾ・ナタリの面目躍如。

出演している人は知らない人ばかりでしたが唯一パトリック・ウィルソンだけ知った顔。パトリック・ウィルソンなので良い人のわけがない。出オチみたいになっているが誰が悪いとか良いとかそういう話じゃないから別にいいのだ。ストーリーボード・アーティストの出自を感じさせるバッチリ決まった草迷宮の深淵の前で、人間なんかしょせん雑草でしかないんである。

その雑草のちょっとした抵抗がたとえばポール・オースターの文学のような、不思議と晴れやかな余韻を残すのだけれど。

【ママー!これ買ってー!】


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その険悪な人間不信ドラマからすると雰囲気的にいちばん近い映画は『マタンゴ』なんじゃないかと思うし『マタンゴ』のキノコ人間に対して草人間が出てきますからねこっちは。すごい弱そうな響きですけど(でもこわいのだ)

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