【ネッフリ】『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』感想文

《推定ながら見時間:50分》

南アフリカに映像製作の仕事をやってる白人オッサンがいてこの人は仕事も金も家族も立派な家だって持っているが仕事でメンタルゲージがすり減って少し病んでしまった。彼が向かったのは家の近くの美しい海。海藻が密集した水中の森というべき場所で彼は「彼女」と出会う。しなやかな肢体、優雅な仕草、艶やかな擬態…そう、彼女はタコだった…。

Netflixらしい西海岸ヒッピー風味博愛主義のドキュメンタリー映画で真面目も真面目大真面目なのだがアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門で賞を獲っているからという箔もあり視聴者の方も概ね真面目にイイ話として受け止めているようだが、これラジー賞獲ってたらみんなキワモノ映画として笑いながら観てたんじゃないすかね。全編オッサンのナレーションで進む単調さと謎演出の数々からいってラジーも夢ではなかったと思うのだが。

晴れの日も雨の日もタコを想って金持ちハウス(自宅)の窓辺で物憂げな表情を浮かべるオッサンをスローモーションで撮ること撮ること。いやなんなのその演出は。タコと触れ合ううちにもっとタコが知りたくなったオッサンは「文献を調べてみた」と語るがその再現映像として流れるのは家でパソコンをいじっているだけの姿。ユリーカ! ぐらいの感覚でオッサンが言う。「彼女はマダコだ! 吸盤は千個ある!」

バカなんじゃないですかね。はいはい知ってます知ってますよ最近はみんな違ってみんな良いからみんな相手をバカにしたりしないで認め合おう肯定していこうっていう世の中ですからねいやそのコンセプトには俺は賛成ですよ大賛成。でもバカっぽくて面白いものは笑った方が楽しいじゃん。たとえバカっぽく見えても本人が真面目にやってるなら笑ってはいけないってそれはたとえばもっと身近なことならそうあるべきだと思いますけど(英語の授業で流暢な発音をすると笑われるみたいな。あれ学習意欲を削ぐからダメ)映画とか小説とかの芸術分野に関してはその限りではないし作ってる本人は真面目なのに完成品はバカっぽいっていうのは芸術作品のひとつの魅力だと思うんですよねぇ。

タコと人間の恋愛ドキュメンタリーと聞けば「!?」が頭に浮かぶのでどんなもんやと見てみると主人公の暇なオッサンが勝手にタコに理想的人格を投影して彼女はこんな風なんだとかこんな素晴らしいんだとか語ってるだけでタコとの文字通りの絡みは最小限、異種族恋愛として浅すぎる上に「タコが大事なことを教えてくれた…」式の安易きわまる白人感動譚としてまとめられているので白人だけに白けてしまう。

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そんなもん野生動物のオリエンタリズム消費に過ぎないし、どっかの部族とか原住民をマジカル賢者として都合良く扱う帝国主義的ファンタジーの変奏に過ぎないんじゃないだろうか。どっかの部族とか原住民なら本人に向かって「勝手に夢見てんじゃねーよ死ね」ぐらいは言えるだろうがタコは喋れないので文句は言えないし大体オッサンが交流したタコもう死んでる(寿命)。

タコとの触れ合いで海のエコシステムを学んだと語るオッサンであったがタコの知性の高さを褒め称える一方でタコを捕食しようとするサメは露骨に見下してるのでお前は何を学んだんだよと思うし、そもそも知性の高さで動物に優劣を付けようとしている時点でこの白人オッサンは自然をナメ腐っている。アメリカ人も自然をナメ腐っているので(だからアメリカ白人は「環境保護」に躊躇などないのである。地球上でもっとも知的な生命体である自分たちには自然を保護し管理する義務があるという宗教的信念に基づく差別的なノブレス・オブリージュなのだ)こんなアホみたいな映画がどの程度の名誉か知らんがアカデミー長編ドキュメンタリー賞など獲るんじゃないだろうか。

人種差別にあれだけ敏感な昨今のハリウッド界隈でこの映画の古色蒼然としたオリエンタリズムと差別構造がまったくスルーされているのだから驚くべきというか呆れるべきことだが、それぐらい作品の本質的なことには鈍感だから逆にポリティカル・コレクトネスに基づく種々の規定などなど制度面をどんどん改良していけるという面もアメリカにはあるのだろう…と話が逸れたが、この映画が南アフリカ映画であり、主人公の白人オッサンも南アフリカの白人らしいことを思えば、このへん案外見逃してはいけない重要ポイントだと思うのだが、どうなんでしょう? 誰に向かって尋ねているんだそれは。

せめて白人オッサンが自分の今までの裕福な生活がいかに自然環境に破壊的な影響を与えていたかぐらいの罪の自覚でもしてくれればそれはそれで偽善的だとしても一年間もタコと遊んだ(どんだけ暇なんだよ!)甲斐もあろうものだが、愛するタコのことが知りたくてネットでタコ情報を調べたことを誇らしげに語る愛も底も浅すぎる白人オッサンにそんな高度な知的営為を期待しても無駄なので、『MY OCTOPUS TEACHER』の原題が示すとおり白人オッサンは結局大した変化も気付きもなく、撮影クルーも何かを深掘りするようなこともなく(白人オッサンのナルシスティックな語りをひたすら撮る)、タコさん色々教えてくれてありがとうという感じで薄っぺらく映画は終わってしまうのだった。

その独特の西海岸趣味には好みが分かれるとしてもNetflixドキュメンタリーは社会問題に鋭利なメスを入れるものが多くてどれも作り手の本気を感じるし見応えがあるが、そんな中でとくに面白くなくやる気が感じられないのがこの『オクトパスの神秘』だったので、こんなものが評価される世の中とは…と俺もなんか俗世間が嫌になって海に潜りたくなっちゃったね。

※無駄にエモーショナルな劇伴がまたアホっぽい感じだった。

【ママー!これ買ってー!】


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通りすがり
通りすがり
2021年5月2日 10:40 PM

タコより『ミッチェル家とマシンの反乱』観ましょう、スパイダーバースのスタジオ作品ですよ