ネット危険地帯探検映画『SNS -少女たちの10日間-』感想文

《推定睡眠時間:0分》

最近は知らないですけど10年ぐらい前のライブ配信とかでわりとあったエロイプ釣りっていうのが好きでたまに見てて、作った萌え女声で若い女を演じる素顔を隠した男配信者がエロ目的でスカイプかけてきた男どもをおちょくる光景をそのまま配信して晒すっていう、なかなかヒドイがどうせエロ目的の性欲オッサンだし晒すぐらいいいだろみたいな、あれ面白かったな。性欲オッサンも十人十色。途中で騙されたことに気付いて(男配信者はある程度相手がノってくると男声に切り替えて「クイズ・ミリオネア」のパロディなどを始めたりする)ブチ切れ回線切りに走る性欲オッサンもいればお互いアホなことやってんなぁと笑って男配信者と仲良くなってしまう性欲オッサンもいる。動転してとりあえずそのままクイズに参加してしまう性欲オッサンとかこう、人間の業と哀しみがにじみ出ていて非常によいですよね。

で『SNS 少女たちの10日間』はそんなエロイプ性欲オッサン爆釣ドキュメンタリーですが子供部屋を模したセットに入った12歳女児役の童顔(日本基準では全然そんな気もしないのだが)女優たちが自分たちの12歳アカウントをSNSにリリースするやたったの5分で数百件にも上る性欲オッサンと思しきアカウントのフレンド申請が来たのを見て「キモい!」連発、現場のスタッフたちは深刻そうな顔をしているがすいませんちょっと笑いました。だってキモいし。キモいオッサンがキモいって言われてたら面白いから笑っちゃうよ。

かつて同年代異性との健全な出会いを求めてフリーチャット的なごめんなさい今ちょっと気取りました本当は出会いチャットアプリですというのをごくごく短期間使っていた時に文体からするに小学生か中学生ぐらいと思われる女子からのプロフわろたフレンドなろう的な申請が来たが俺はそこで大人たるもの的な態度で毅然としてフレンド申請断ったからね。断って説教してブロックしたから。世の中にはこうやって面白い人を装って小中女子をかどかわす悪いオッサンもおるんやで騙されたらあかんみたいなこと言って。それぐらいモラルの高い俺なんだから深刻な題材の映画をあえて深刻には観ず笑いながら観るぐらい別にいいだろう。

ちなみにその出会いアプリではなんか少しだけ映画が好きっていうぐらいなので合うようで話も別にかみ合わず何回か当たり障りのないやりとりをしただけに終わった成人男とやたらポジティブなトーンで浜に来なよ人生変わるここにいるのはみんな素敵な人ばかりとやたら言ってくるネットワークビジネスの女とフレンドになっただけだった。ネットワークビジネスの女は「それア○ウェイですよね?」って言ったら君のような前向きになれない人は人生楽しくないだろうねの捨て台詞を残して去って行った。当たってる。

映画に話を戻すとこれはドキュメンタリー映画というよりは社会実験的リアリティ・ショーに近くて例の12歳女児に化けた女優たちが一日何時間とかをその部屋で過ごしてエロイプ性欲オッサンたちとやりとりします。果たして性欲オッサンさちは12歳女児とどんなことを話すのか。何を求めるのか。求めるまでもなく自分のチン写をチャットで贈ってきたりスカイプを繋ぐと既にシコっていたりするのだった。お前らのその自分のチンに対する自信はなんなんだよ。

現場には精神科医とか法律家が常駐ではないだろうがとりあえず来てはいて女優たちのケア体制は万全、やりとりのルールもこちらからは誘惑しないとか12歳を強調するとか色々決まっている…はずなのだがぶっちゃけそのルールの方はかなりいい加減で『少女たちの10日間』と邦サブタイトルにあるように10日の実験というルールであったがオフでの出会いを求める性欲オッサンなどなどの追跡調査とかやってるうちに結局撮影期間は3ヶ月とかになってしまい女優も断続的に3ヶ月間女児を演じたらしい。

そもそも女児役女優と性欲オッサンとの具体的なチャットのやりとりが画面に映らないのでどのルールがどう生かされているのかわからないし全フレンド申請者の何%ぐらいが性欲オッサンに該当するのかもわからない。性欲オッサンたちのキモ顔とキモチンばかりを編集で繋ぐのでなんのためのルール提示だったのかという気がしてくる。精神科医を呼んでいるわりには女優たちの心理的な変化も描かれないし法律家を呼んでいるわりには「プラットフォーマーの責任が大きい」とかいう誰でも言えるだろ的な発言を捉えるだけで女児エロイプ(エロイプというかチン露出のネット版)に対する法的な措置などには言及されない。

たしかにオッサンのシコりとチンがこれだけ堂々と画面に映り込んで当然ながら基本はモザイクが入っているが一カ所だけ「いま見えてましたよね!?」な場面もあるのはすごいしある意味壮観だが、ドキュメンタリー映画としては相当に杜撰な作りなので、このへんリアリティ・ショーと書いた所以である。あと性欲オッサンの顔モザイクは結構薄いし部屋とかはモザなしなのでわりと特定余裕なんですがそれはそれでモラル的に大丈夫なのか。

さて女児役女優たちが辟易するほど性欲オッサンの相手をしているうちに一人のスタッフがディレクターに告げる。これ、知ってる人かも…。並み居る性欲オッサンの中でも際だってモザが薄いように感じられるその男のハンドルネームはロード・オブ・ザ・ノース。これは…これはなんか、来てしまったなという感じだ。撮影チームは急遽(?)このロード・オブ・ザ・ノースに狙いを定め自宅に突撃する。自宅はモザなしなのでぶっちゃけ実名&住所晒しと同義である。

チャット&スカイプを通して女児と見える人のライブチャットのオナ映像を「みんなやってるよ」と女児役女優に送りつけたエロイプロリコン性欲オッサンの王、ロード・オブ・ザ・ノースは果たして撮影チームに何を語るのか…「私たちは児童虐待のドキュメンタリーを撮影しているんです。これは社会問題です!」撮影チームが詰めると錯乱したロード・オブ・ザ・ノースは吠える。「社会問題なら他に撮るべきものがあるだろ! 生活保護受給者のジプシーを撮れ!」全然関係ない!

もう爆笑。児童ポルノ所持疑惑と淫行疑惑と差別疑惑と厨二ハンネと自宅を世界に公開された上に取材チームによって警察にエロイプ動画とチャットログなどを提出されたことで社会的にほぼ終わったロード・オブ・ザ・ノースの醜悪な勇姿をぼくたちは忘れない。さようなら、ロード・オブ・ザ・ノース。ありが…いやありがたくはないだろ、ロード・オブ・ザ・ノース。いや~、ネットって本当に、おそろしいものですね~。

トリを飾ったのはたまたまスタッフの中に知り合いがいたからという理由(そんな理由でトリにしたらいかんだろ)でロード・オブ・ザ・ノースだったが取材チームはリアルでの出会いを要求してきた何人かのエロイプロリコン性欲オッサンも実際に呼び出して隠し撮りでその言動を押さえてみたりもする。ロリコン性欲オッサンだがガチのロリコンなので真剣に12歳女児と付き合おうとする紳士なロリコン性欲オッサン、チャットの上ではオナ要求に従わなければ(女児役女優がディレクター指示で送った加工ヌードの)お前の画像をバラまくぞとスーパー強気であったもののリアルで女優にめっちゃ怒鳴られ怒りの水をぶっかけられるとシュンとしてしまい無言で水を拭うことしかできなくなるネット弁慶ロリコン性欲オッサン、おどおどとクリトリスについて説明しているうちに女児役女優の父親(を騙るディレクター)から今からそこへ行くと電話がかかってきてしまい光の速さで帰るロリコン性欲オッサン…一口にロリコン性欲オッサンと言ってもいろいろある。

このへんもロリコン性欲オッサンが12歳女児を口説いているところにどっかの犬がやってくるなどの偶然の演出効果もあって大いに笑えるところだが、それにしてもせっかくこれだけロリコン性欲オッサンを釣ったんだからそこをもっと掘ればよかったのになぁとかは思ってしまわないこともない。12歳相手にオナ要求とかマン写要求とかチン見せシコ見せとかしてどう思ってるのかとか、自分のチン写をネットにアップすることは送られた相手にとってもダメージだが当然自分にとってもダメージとリスクがありまくると理解しているのかとか、そもそもなんでエロイプをするのかとか、あるいは取材チームが釣ったロリコン性欲オッサンの中にはロリコンというよりもこれ児童ポルノ業者じゃない…? 的な人もいたのでそこはドキュメンタリー映画としてちゃんと深掘りして欲しかったしその方が絶対面白くなってた。

児童ポルノとか児童エロイプ・エロチャが問題であることはとくに言わなくても大抵の人はわかっているはずだから、その実態をこうして可視化することは啓発として意義のあることだとしても(とくに親は観といた方がいい)、必ずしもロリコンだからやっているというわけでもなさそうなエロイプ性欲オッサンの動機やそれを生み出す構造的な問題には足を踏み入れずに、センセーショナルな映像で客を煽る表面的な啓発で良しとしていては問題の解決には寄与しないんじゃなかろうか。

12歳女児設定アカウントに次から次へと押し寄せてくる性欲オッサンの群れにうんざりしていた女優であったがそんな折、どうせお前も性欲オッサンやろと思って接していたあるスカイプ相手がディレクター指示でこちらから微妙にエロ誘導をしても(自分から言わないっていうルールがあったんじゃないのか)マン写もオナも要求せず、それどころか「自分の身体は大事にしなければいけないよ」などときわめて真っ当なことを言われる場面に遭遇する。

今まで不穏なノイズを鳴らしていたBGMが神々しく転調すると共に相手の顔にかかったモザイクが消えていく。モザイクの下から現れたのはユーモラスで優しくて健康的で賢くて若々しくて単にネットで暇つぶしの話し相手を求めていただけの自称医学生の彼女ありイケメンであった。ぶっ殺すぞ。だが女優の目には感動の涙。「ネットにはこんな人もいるんだね…」いねぇよ! いやいるのかもしれないけれども見ず知らずの12歳女児とスカイプするような奴の中には普通いないだろ!

こういう白馬の王子様主義は問題の本質を曇らせるしちゃんとした人っぽく見えたら大丈夫と親とか子供に思わせたら啓発的にはむしろ逆効果になりかねないだろ。米国シリアルキラーのテッド・バンディはハンサムな見た目を使って女を殺しまくったし危うく無罪を勝ち取るところだったんだぞ。面白いがまったく安易な映画であったよ。

【ママー!これ買ってー!】


学校では教えてくれない大切なこと 12 ネットのルール

書題の12っていうの「12歳からの」の脱字かなぁと思ったんですがなんか「学校では教えてくれない大切なこと」シリーズの12巻めという意味らしいです。めちゃくちゃあるな教えてくれないこと。

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