映画非感想『パラサイト 半地下の家族』(ネタなし注意)

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , , , , ,

《推定睡眠時間:0分》

先行上映だからかもしれないが本編前に監督ポン・ジュノ直々に「ネタバレしないでね」のメッセージを客に投げつける映像が入っていたのでここは作り手の意志を尊重して完全ネタバレなし仕様で感想を書くことにしよう。どのぐらいネタバレなしかと言えば一切本編には触れず俺の知っている人のエピソードを思い出羅列するだけです。

映画の感想じゃないだろ死ねよと思われるかもしれないがしかし! しかしですよ! 映画の雰囲気ぐらいはその思い出語りで伝えられるんじゃなあないか…いやむしろリアルな貧乏エピソードの方が家とか車とかそれなりに持ってる連中のウエメセ批評なんかよりもよほど映画の本質に迫れるのではないかとさえ思うのだ…貧乏な映画でしたから、『パラサイト』。それはもう貧乏な映画で…。

ケース1、コンビニAで夜勤をしていた時の大卒フリーターの後輩。その人は後輩ではあったが俺より一つ二つ年上で、最初は俺に敬語で接していたが年下と知るとその瞬間からタメ口になった。あまり仕事を真面目にやるタイプではなかった。定期的にやってくる知的障害のある傴僂のおっさん客をやたら敵視しわざとレジに遅れてやってくる、接客中に露骨に嫌そうな顔をする、そもそも売るものをちゃんと売らない、などなかなか酷い仕打ちをする(しかしコンビニ夜勤者のモラルなんて大体そんなものだろう)

サッカーコーチか審判をやりたいとか言っていた。その人はしばらくすると地元に帰って俺もそのコンビニを辞めて数年後、たまたま入った別のコンビニでその人とまた遭遇してしまった。地元で知り合いのツテで土木関係の仕事をやっていたらしいが、結局それも性に合わず東京に戻ってきた。そしてまたコンビニ夜勤を始める。コンビニ夜勤は作業量が少ない割にはそこそこ稼げるし人間関係に煩わされることもまぁ比較的少ない、昼夜逆転さえ我慢できればそう悪いバイトではない。今はスポーツショップとかで働きたいと言っていた。

ケース2。番外編。その知的障害のある傴僂のおっさん。客とバイトの関係でしかないのでその人がどんな生活を送っているのか俺は知らないが、作業着を着て朝早く店にやってくるのは朝飯のコッペパンを買うためらしい。買わないと母親が怒るとのこと。ある日の会計がてら、唐突に「困ったことがあったらどこに相談すればいい?」と聞いてくる。それ以上の情報が出てこないのでとりあえず区役所とかじゃないすかねぇ…としかこちらも答えようがない。いったいお前になにがあったんだ。

広告

ケース3。コンビニBで夜勤をしていた時の先輩。その人は役者志望で土日の夜勤は副業、本業は平日にやってる営業のお仕事。合間を縫って舞台の稽古。壊れている。そうせざるを得ないのは借金返済のためだと聞いたがそれ以上は口を濁すので委細不明。そりゃあ借金の理由を話したい人というのもそういないだろう…か? 「結婚ってどう思います? やっぱした方がいいんですかね…」とか唐突に言われたことがあるのでそれ関係かもしれない。人が本音を切り出す時はいつも唐突だ。

コンビニBには何度か警察のお世話になった問題客というのがいて、路上ですれ違ったかなんかした見知らぬ女の人に「それじゃ結婚できねぇぞ!」とか怒鳴りつけて追い回したりするので出禁になった。それでも夜中に何食わぬ顔で入ってきたりするのでつい気付かずに世間話をしてオーナーから怒られてしまったことがあるが、しかし真面目な先輩にそんな歩み寄りの余地はない。
出禁客が店に入ろうとするや「ダメです」の一言で完全にシャットアウト、出禁客の弁解は一切聞かない。それから出禁客は来なくなったので少なくともコンビニBの安全は保たれた。平和を守ることは誰かを容赦なく排除することだ。ありがとう先輩。俳優として成功するといいですね。

ケース4、歌舞伎町ラブホテルの清掃担当。独身。その人はむかし沖縄で映写技師をやっていた人で、見た目はなんとなく猩猩。どういうあれで歌舞伎町ラブホテルに流れてきたのかのは知らないが、もう勤続ウン十年で家も買ったらしいので人生の最終局面に入った感じである。趣味とかはないらしいので余計な金は使わない。生きるために生きているという風に見える。

仕事熱心でひたすら人がよかった。オーナーから命ぜられた雑事をニコニコ聞いてシコシコ働く。それはゴム手袋あった方がいいだろみたいな特殊洗剤も手袋オプションなど存在しないかのように普通に素手で扱うので手なんか結節だらけ。ネガティブなことは一つも言わない。こんな仕事でもやっているうちに誇りとかやり甲斐とか出てくるんだろうか、と思った。ここのオーナーはサボっているとすぐ怒鳴る恐い人で、聞けば九州でマル暴をやっていた人だそうだがどこまで本当かわからない。

そのラブホテルの屋上には家があった。比喩ではなくトイレも台所も風呂もホテル部とは別にその中に用意された2Kぐらいの家で、俺が働いていたときには物置として使われていたが元々は当初のオーナーが母親だか親族だかを住ませるために建てたとか聞いたことがある。

さして大きなラブホではなかったが仕事の合間にその家の外から歌舞伎町を眺めるというか見下ろしていると、そこらへんのホストとかヤクザより偉くなったようでなんとなく気分がよかった。顔を上げるとラブホより背の高いマンションがあって、プチセレブっぽい生活が見えたりもした。部屋の中にサンドバック吊してあったりとか(セレブか?)

広告

ケース5、保守系シンクタンク会長の運転手。この人はなかなか波瀾万丈。父親が地元政界で名の知られた人、大学では法学部、卒業後はフリーターをしていたがやがて「生きてるんじゃない。死んでないだけだ」のロックな名言を残して地元に戻ると父親の紹介で地元選出の代議士の私設秘書を始めた。何年かすると秘書を辞めて知人の誘いで農業に手を出すが金銭トラブルから上手くいかず、そこから地元政界人脈でシンクタンク会長の運転手になったらしい。

実際はどうかわからないが話を聞く限りでは限りなくブラックなブラックだった。こういう業界だいたいそんなものなのかもしれないが雇用契約書はまともに書かない、退職後は会長のコネで大手企業のそれなりのポストをくれてやるとか馬をニンジンで釣るような甘言を弄す、数十万の前金と共に六本木の一等地に住居をあてがわれたが行ってみるとビジネスホテルを改修したと思しき殺風景な部屋で人が住むには適さない、部屋代はしっかり給与から差し引かれていた。

暴言上等。暴力上等。パワハラ天国。辞める辞めるとこぼしていたが辞められないとも話す。曰く、辞めたら裁判を起こされるかもしれないし実家に逃げたら何をされるかわからない、ヤクザみたいなもんだ。具体的に何の裁判か? 具体的に何をされるのか? いくら聞いても一切わからないがだいぶメンタルがやられているということだけはわかった。

それから一年ぐらい経って、スキャンダル的な雑誌報道にお怒りの様子の会長と「俺、鉄砲玉になりますよ」「おいおい変な真似するんじゃねぇぞぉ~(ニヤニヤ)」みたいな会話を交わしたとか聞かされた。認められたみたいで嬉しかったとのこと。郊外の別荘で蛇に怯える会長の代わりに蛇退治をさせられたとかいうヘタレ会長エピソードを前に聞いていたので、そんなヘタレに認められて嬉しいものだろうかと思ったが、人間、追い詰められると嬉しいことの基準も変わる。今は運転手も辞めて地元でなんかまた別のことをやってるらしい。

金銭面でも精神面でも貧苦にあえぐ人の周りには同じような人しか集まらない。俺の住む木造アパートは共同便所でそのみすぼらしい窓からはいつも煌びやかなスカイツリーが見える。俺はスカイツリーから何の直接的恩恵も受けてはいない。俺が望んだわけでもないのにテレビを買い換えるかチューナーを導入しなければいけないのが癪で地デジ移行期にテレビを見るのをやめてしまった。

広告

オリンピック特需なのかなんなのか知らないが周辺がちょっとした新築ラッシュに沸いたことがあった。いくつかのマンションが取り壊されて俺のボロアパートなんかとは段違いに立派なマンションが建てられた。鉄筋だしオートロックだし駐輪場があるから立派なマンションだ。風呂もあるし共同じゃないトイレだってあるんだからすごい。

そのころ俺はコンビニ夜勤。工事の音は耳栓で無理矢理我慢できても木造の弱点を直撃する掘削機の振動には心底参った。いやもう本当に参った。振動っていうか震度4ぐらいの揺れが小刻みに絶え間なく来るのでどう頑張っても眠れやしない。朝方帰ってきて眠りに入ったところで工事が始まる。このままでは死んでしまうと思ったので睡眠薬を処方してもらう。それを飲んでスマホを見ると文字が『リング』の呪いのビデオみたいに分散して泳いでいったり、視線がいつもより高くなって歩幅がいつもより大きくなっていつもより早く走れるように感じた。これがトリップというものか。楽しかったが、なんで俺より豊かな生活を送る奴らのためのマンション建設で俺の方がワリを食わないといけないんだ。一年ちょっとの建設ラッシュが終わると鬱の診断、また別の薬を飲む。

アパートに住み始めた頃にはそれなりに近隣住民の顔も知っていた。家の中でうめき声を上げていたので救急車を呼んだことのある隣の家のババァは死んだ。こちらもうめき声を上げていたので窓から見ると風呂場に倒れて立てなくなっていた別の家のジジィも死んだ。向かいの家のジジィも気付いたら死んでいた。知らない住民が多くなった。新造マンションの住民とは会わないし、会っても挨拶を交わすこともない。隣にあってもゴミ捨て場も違うので生活が重なる点がない。

そのマンションの前で泥酔した住民のサラリーマンが寝ていたので起こして部屋に帰してやったことがある。俺の目には高級マンションでもそこらの無様な酔っ払いサラリーマンが(たぶん)単身で暮らすちょっとだけお高い普通のマンションでしかないんだなぁとぼんやり知る。
よのなか上には上がいる。共同便所の窓からは今もスカイツリーが見えていて、俺は見もしないのにNHKの受信料を払っている。ケース6。

『パラサイト 半地下の家族』がどういう映画かってこういう映画です。いや本当に、一ミリも内容に触れないでよくここまで内容に切り込んだなと自画自賛するぐらいこういう映画なんですよ。
良い映画でしたね。その貧乏に笑った、慄いた、泣い…たりはしなかった。乾いた映画なので。

※ネタバレにならない範囲で超ちょっとだけ内容について言うと、着衣の濡れ場がエロいのと金持ち一家の娘が可愛いのがよかった。高低差の強烈な住宅街のロケーションもおもしろかった。先読みできない展開もおもしろいがちょっと狙いすぎの観が。端正な映像ももうちょっと緩く撮ってもいいのになぁ~とか思ったり。あとソン・ガンホの「におい」、あれ俺はおばあちゃんちの台所の臭いなんだと思ってます。

【ママー!これ買ってー!】


ディーパンの闘い(字幕版)

『半地下の家族』は本年度のカンヌ映画祭パルムドール受賞作だそうですが格差社会というのが近年のカンヌ映画祭のトレンド、こちらも3年ぐらい前のパルムドール受賞作『ディーパンの闘い』もヘビィ~な格差映画で面白かったです。難民要素もあり。

500