血の出ない殺人映画『テッド・バンディ』感想文

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《推定睡眠時間:15分》

これはとんでもなく鬼畜なネタバレなのでネタバレ厳禁な人は今すぐにこの場から立ち去った方が身のためだと思うんですが犯人はテッド・バンディです。テッド・バンディ良い人っぽく見えますが実はすごい残忍でたくさん女殺してました。えぇ!? 嘘でしょ!! みんな知ってた?? みんな知ってるよ。

白々しい映画には白々しい感想を書いてしまう。というのもこんなタイトルを付けられるとどうしてもどうしても猟奇的な殺人シーンばかり期待してしまうがー、1シーンを除いて閲覧注意な場面は出てこない。
バンディの恋人だったエリザベス・クレプファーという人の回顧録が原作なので、彼女の目から見たバンディが映画では描かれる。でこの人はバンディが犯人だと知らなかったので殺人シーンがないという仕組み。殺人シーンがないイコールでバンディが犯人であることが最後の最後まで明示されない。

観る側はバンディが極悪シリアルキラーだと知っている。でもクレプファーは知らない。そこがサスペンスになっていて、意地の悪いブラックユーモアにもなっている。不安を抱えたシングルマザーのクレプファーはバーで紳士的なバンディと出会ってたちまち恋に落ち…とまぁ甘ったるいラブストーリーのように映画は始まるわけですがその白々しさ! バンディがクレプファーの家まで着いていく場面では観ているこちらとしてはこれは殺されるパターン入ったわと思ってしまうわけですが、そこに流れるBGMは薄っぺらくロマンティック。

自分より早く起きて子供をあやしながら朝ご飯を作ってくれるバンディにクレプファーはついに理想の人を見つけたのだとウットリするが、そんな甘い場面に包丁を持ったまま彼女に振り返るバンディがスッと差し挟まれる。
ふたりで保健所に犬を貰いにいった日の夜、家でクレプファーとペッティングしていたバンディは彼女に噛みつくふりをする。バンディ史上最大の犯行となったカイ・オメガ寮の女子大生大虐殺ではバンディは極度の興奮からか被害者に噛みつきその一部を噛みちぎった、という事実を踏まえればなんとも…なブラックユーモアだ。

客観的な事実と主観的な現実のズレを見る映画って感じだろうか。冒頭、誰の言葉か知らないが人間は現実を見られない的なエピグラフが入る。テロップは独特のスタイルで出た直後は白地に赤いシャドウが入っているがすぐにシャドウは消えて白単色になる。たぶんこの赤いシャドウは表面的には無実の真人間に見えなくもないバンディの血まみれの本性をイメージしたものなんだろう。本当はそれがちょっと見えていても、クレプファーは見なかったふりをして白単色のバンディを見続けたんである。

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ザック・エフロンのテッド・バンディは俺には良さがわからない。むしろ距離を置きたいタイプ。シリアルキラーだと知って見ているからというのもあるが、いかにも人を殺してそうだし自分の思い通りにいかないと殴ってきたりしそう(殺すと殴るの順番が逆だろう)。
このバンディは面倒見が良くて紳士的で包容力があるのですがそれというのはある種のサディズムの裏返しで、相手よりも上に立ってその人間を支配下に置くことにバンディは喜びを覚える。殺すことよりも俺すげぇを自分で感じることがその行動の目的になってるわけです。

嫌じゃないすか? そんなやつ。でも殺しに目をつむればいかにもアメリカンなハンサムガイ、自信に溢れているし頼りがいはあるし頭はいいしユーモアセンスもあるしで生活に不安を抱えたシングルマザーのクレプファーはコロっと転がってってしまう。
このクレプファーがなんというか意志と神経の細そうな人で…リリー・コリンズが演じているのですが非常にとってもマンソン・ガールズにいそうな雰囲気、バンディ犯人説が濃厚になってバンディが他に女を作ってもまだ未練が残って罪悪感も覚えてな優柔不断っぷりにぶっちゃけ見ていてムカつく。

ムカつくけれどもそのムカつきがむしろ映画の核で、そういう人が長い時間をかけてバンディと正面から向き合えるようになるまでの、メンタルダメージを克服してムカつかない人として自立していく過程がバンディ裁判と並行して描かれる。邦題は『テッド・バンディ』ですが実際の主役はこの人。バンディごときクレプファーの人生の添え物でしかないっていうことに彼女が気付くことが物語のゴールなわけです。

じゃ一方のバンディはというと、裁判が進みクレプファーが自立していくにつれてどんどん情けなくなっていく。結局バンディはお山の猿で、魅力的に見えるのは山のてっぺんから他の連中を見下している間だけ。だから裁判中もバンディは常にイニシアチブを握ろうとして、しまいには弁護士を立てず自己弁護を展開するようになる。どうせ無罪は無理だとしてもこれは自殺行為に等しい。イニシアチブを握れないとバンディは途端に思考力が鈍化してパニックを起こしてしまう(おそらくその性格が最初の犯行の原因じゃないかと思われる)

裁判所の窓から飛び降りるために独房の二段ベッドで飛び降り練習をするバンディの酷刑、いや滑稽。地頭は悪くないとはいえそんなやつが堂々シリアルキラーとして活動できたのは各州で情報共有のできていなかった70年代当時の警察事情によるところが大きい。政治関係のお仕事でたまたまそのことを知ったバンディは警察力の抜け穴を利用しただけだった。初めはおそろしい殺人鬼でも映画が終わる頃にはすっかり惨めなどっかのバカ。テッド・バンディはその程度の人間だったのだ。

展開も演出も淡泊なのであまり面白くはなかったが、「極めて邪悪、衝撃的に凶悪で卑劣」(EXTREMELY WICKED, SHOCKINGLY EVIL AND VILE)といういかにも恐ろしげな原題を持つ映画がバンディの凡人性を暴き出す皮肉に笑う。バンディに「極めて邪悪、衝撃的に凶悪で卑劣」であることを求めるわれら大衆も同時に皮肉ってるんだろうな。見るに堪えない殺害シーン見たさに映画館に行った人間なので苦笑い。
担当判事ジョン・マルコヴィッチが裁判をショウ化しようとするバンディの奇行を冷めた目で眺めるの、可笑しかった。そういう目で見る映画だったんだろうと思う。

【ママー!これ買ってー!】


The Phantom Prince: My Life with Ted Bundy, Updated and Expanded Edition (English Edition)

原作だそうです。なんだか健康的な写真が表紙ですが湖畔といえばバンディの狩り場、意地の悪い表紙ですなぁ。

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