芝居合戦映画『天才作家の妻 -40年目の真実-』感想(微ネタバレあり)

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《推定睡眠時間:30分》

エレガントな映画だなぁと思う。役者の芝居を見せることに特化した舞台劇的な作り、グレン・クローズ、ジョナサン・プライス、クリスチャン・スレイター、お金のかかりそうなスタァが出ずっぱりだが(※ジョナサン・プライスはスタァではないとの批判は認めない)下品なところに大味なところは少しもない。

ある種、俳優にとっては映画の理想の形なんじゃないか。俳優同士顔と顔を突き合わせての演技をカメラが黙って記録していくわけですから。ホテルの一室とかバーとか地に足のついた撮影場所で。
回想シーンでグレン・クローズの若かりし頃を演じたのはアニー・スターク。グレン・クローズの実の娘。へえ。それも作り手と俳優の距離の近さ、親密な演技空間であっただろうなぁと感じさせる話でありますね。

映画は大作家ジョナサン・プライスとその妻グレン・クローズのベッドシーンから始まる。ジョナサン・プライスは性欲の鬼。老いて衰えるどころかむしろますます燃えているように見える。老人ホームとか入ったら絶対セクハラするタイプである。
なぁいいだろう、なぁ、なぁ、別の男の顔を思い浮かべてさぁ…と早朝からしつこく迫るジョナプラ性欲に若干引きながら応じるグレン・クローズ。微妙な緊張感を孕みつつも滑稽の漂う、ふたりの関係性と映画のトーンが端的に表現された良い幕開け。

ジョナプラが執拗にセックスを求めたのは不安を紛らわすためでもあったようだ。ピロートークからジョナプラがノーベル文学賞受賞の連絡を今か今かと待ちわびていることがわかる。
今年逃したらやめる(小説家を?)とまで言っていたから性欲も人並み外れているが名誉欲も同じくらい人並みではない。どうしてそこまでノーベル文学賞が欲しいのか。そしてどうしてそんなに落ち着かないのか。

それはもうジョナプラが作家のスタンドで実際に小説を書いている作家本体はグレン・クローズだったから、というに尽きる。
ジョナプラにはものを書く才能がなかったのだ。で、文才はあるが見た目の地味な女だからという理不尽な理由でその才能を活かすことができなかったグレクロは、ジョナプラのスタンドを使って自作の小説を世に放つことを選んだのだった。

世間に認められたいが認められるだけの才能を持たない小心者のジョナプラと才能は持っているが男性優位の社会の中で不当な扱いを受けていた豪胆グレクロ。
その密やかな共犯関係は波乱を含みながらも今までうまいこと続いてきたのだった。

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ところがその共犯共生はまさかの受賞連絡で破られてしまう。むちゃくちゃ名誉かつ喜ばしいことではあったが賞を授かるのは一人というわけで、一人というかジョナプラの方なので、グレクロとしては心中穏やかではない。
一方でジョナプラの方もスタンド作家の負い目があるので嬉しいは嬉しいが素直には受賞を喜べない。とりあえず落ち着こうと若いチャンネーを口説いて一発ヤろうとするが(こいつはそればっかりなのだ)あえなく失敗、授賞式に向けて不安も不甲斐なさも募るばかり。

あやうい均衡がこうして崩れかけてきたところへ俗悪ジャーナリスト、クリスチャン・スレイター登場。
ノーベル賞作家の暴露本を書けばめちゃくちゃ売れること間違いなし。グレクロがジョナプラ・スタンドの本体と睨んだチャンスレは、荒れ気味の息子にカマをかけたりグレクロに近づいてジョナプラの嫉妬心を煽ったりと実にいやらしく二人の秘密に迫っていくのだった。

チャンスレの爬虫類的存在感に着目すればコロンボ的な倒叙ミステリーとしても見れるかもしれない。そのへんの言葉の応酬は結構スリリング。
チャンスレがどうグレクロ一家に亀裂を入れてどう真相を取り出すのかという下世話な興味で引っ張られてしまうのだから映画はエレガントでも客は(俺は)低俗である。

もっともエレガントというのはその俗情の折り込み方の巧みさも含めてのことで、簡潔なプロットとエスプリの効いた会話の間に渦巻く各種欲望に嫉妬愛憎、本音と建前、その塩梅というのがたいへんに程よいからエレガント。
俗っぽくもあるし毒っぽくもあるがそういうものを映画として主張するのではなく俳優の芝居に託して、結果全体として調和を保っているのだから立派なものだなあとおもう。

そういうわけで一にも二にも俳優のアンサンブルだ。グレクロが色々と賞をもらったりノミネートしたりしたのでそこにばかり注目が集まる、映画の内容を踏まえれば一種皮肉な状況が面白いが、空回ってばかりのジョナプラの滑稽と下衆、チャンスレの不快なクセ者感、それからグレクロ夫婦の息子役マックス・アイアンズの鬱屈と悲哀、との絡みの中でこそ引き立つグレクロの複雑な心の揺れである。

時代は変わった、十分稼いだから金もある、もう男の仮面なんか付けないでもやっていける。この夫婦を繋ぎ止めるかすがいはいつの間にかなくなっていた。
ノーベル文学賞受賞の作家としての絶頂と完成は夫婦としてのドン底と破局になる。その皮肉のおもしろさ、2つの極と2つの顔の間で引き裂かれたグレクロ&ジョナプラの芝居のおもしろさ、俗っぽさと裏表の崇高さ。

いや良い映画、エレガントな映画、豊かな映画でした。

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グレン・クローズ、男の仮面を被るシリーズ。製作にも脚本にも関わっているからこういう題材に関心が強いっぽい。

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