【ネッフリ】実写版『人狼』原作比較感想(ネタバレなし)

《推定ながら見時間:60分》

オリジナル版の監督は沖浦啓之なので『紅い眼鏡』『ケルベロス 地獄の番犬』に続く押井守のケルベロス・サーガの完成形のような一本とはいえあまり押井押井と言うのは如何なものかとは思いつつやはり押井のアニメとして考えてしまう『人狼』です。

いやまぁシナリオは押井が書いてるわけだから…でもあの透き通った空想美学は沖浦啓之炸裂って感じですよね。
そこは一応フォローしておかないと、とは思ったものの別に『人狼』そんなに好きではないのでそんなに気を遣う必要もなかった。

ケルベロス・サーガだと俺は『人狼』の前作でストーリー的には後日譚に当たる(ややこしい)実写映画『ケルベロス 地獄の番犬』がすごい好きなんですが、なにが好きって『ケルベロス』は最初からもう終わってるわけですよ明確に。

『人狼』で主人公の声をアテた藤木義勝その人が武装蜂起のかどで一年ぐらい臭い飯食った特機隊(機動隊と軍隊の中間みたいなやつ)の元隊員、で蜂起を指揮したのち行方をくらました上官の千葉繁を探して台湾にやってくるというのが『ケルベロス』の筋。

川井憲次のヒーリング効果絶大なアコースティックサウンドに乗せて台湾風景と禅問答的モノローグがとうとうと流れていく旅紀みたいなポエム映画で、それが実に退行的に心地よく…いやそれはいいのですが『人狼』との絡みで言えば重要なのは『ケルベロス』の時点で特機隊は解体されて存在しないということと、藤木義勝はその失われたものがもう戻らないと知っていて、それが夢の残滓に過ぎないと分かっていながら千葉繁を追い求めているということだ(文字に起こすとちょっと笑えてしまう…)

オリジナル版『人狼』のストーリーもその文脈の上に置くか置かないかで多少印象が異なるんじゃないかと思われるが、そうした失ったものへの哀惜の念とか、かつてあった景色への郷愁とか、もう二度と元には戻らないものをそうと知っていてなお追い求めてしまう人間の憐れ…というのが俺は『人狼』の基調を成す部分だと思っているので、押井ばりに前置きが長くなりましたが実写版『人狼』、表面的な設定や展開の改変を超えてもっと根本的にオリジナル版とは別のものになっていたなぁとおもう。

要するに前向き。押井みたいに後ろ向きじゃない。それは必ずしもハッピーエンドを意味するわけではないけれど、なんというか死して屍拾うものありみたいな…いやこれは比喩なんでネタバレとかじゃないんですけど押井みたいに自分の世界に引きこもらない分だけ希望があるんですよ。そこが一番違うと思ったな、オリジナルと。

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その一方でストーリーのガワの方は結構大胆に翻案しているように見えて案外オリジナルに忠実というのはおもしろいところだった。

舞台は南北統一で合意に達した近未来(もう近未来ではなくなってしまいましたが)の韓国。
これで止まった時が動き出すぞと一時は国民も湧いたものの中ロ米に軍備拡張路線を取った日本を含めた大国から地政学的思惑に基づく国家的パワハラを受けて経済疲弊、統一なんか目指すからこうなったんじゃないかと反政府組織が吹き上がり、一方なんとしても統一を実現させたい体制の側は武力でもって反政府デモを鎮圧するパパ朴的強硬路線に。

というわけで特機隊誕生。オリジナルでは第二次世界大戦でドイツが勝利して敗戦後ドイツに統治された日本とかそういう押井的戦後偽史を背景に強引な改革路線の結果(略)なので上手いこと換骨奪胎してますよね。
歴史のifなんだけれども結局はリアルとそんなに変わらない日本を舞台としていたオリジナルに対して、実写版の方もアナザー韓国でありつつ戦後韓国史のリアルでその偽史が裏打ちされてるわけだ(と分かったように書いているが本当はよく知らない…)

特機隊が必要とされた理由を冒頭で大局から説明しつつ後は基本的に治安組織の権力闘争に翻弄される個人×2の視点からミニマムに話が展開するというあたりもオリジナル踏襲。
このへん、そうなる必然性というのが押井の場合は単に内省的だからだったが韓国の場合には内政的になるのでストーリーに社会的な厚みが加わってくる。
未来の犠牲になった人々の個人的な物語に光を当てることの国民レベルの要求は切実なものがあるんでしょね、いま光州事件系の韓国映画とか流行ってるし。

だから、権力闘争もようというのもオリジナルと骨子は変わらずともやっぱ重量感がある。で、これが難しいところで、そうやってリアルの重みがついてしまうと、俺が好きだったオリジナルの自己憐憫的で逃避的な孤独の悲哀は、その存在は決して無駄ではなかったが誰にも鑑みられることのないというような類のヒロイックな悲哀に変形してしまう。
この悲哀は似ているようでまるで違う。それが合うか合わないか。そこだったなぁ俺。

『グッド・バッド・ウィアード』のキム・ジウンのケレン味あふれる演出は健在、空間をフル活用したダイナミックな3Dぶっ壊しアクションにプロテクトギア&武器の拘りはプロのオタクという感じ。
決戦の前には西部劇のタンブルウィードみたいに枯れ草が風に吹かれて飛んできちゃったりしてジョン・ウーもかくやのカッコ良ければなんでもいいだろスタイルに痺れる。

俺は漫画とかアニメの実写映画化でキャラの風貌を必ずしも原作に寄せる必要はない派なのですが、主人公カン・ドンウォンのアニメ→実写変換の無理のなさ加減にはちょっと嬉しくなってしまった。
いや本当によく雰囲気出てるんですよ、戦闘のプロなんだけど精神面は未発達でプロテクトギアを脱ぐと帰る場所を失って怯える小学生男子って感じで。

おもしろかった。おもしろかったし良い映画だったとおもう。アニメ的な表現の豊かさを度外視すればシナリオもアクションもオリジナルより全然良かったんじゃないかとも思うけれど、なにせ逃避的な人間なものだから、オリジナルの暗さがこういう形で肯定性に転じてしまうとそういう感じかぁって風にはなるんです。

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サントラ良いんだよ『ケルベロス』。

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