【ネッフリ】バレあり感想『エクスティンクション 地球奪還』

《推定ながら見時間:45分》

Extinctionとはなんじゃろうと検索にかけると絶滅の意と出てきたので直接物語が関連するわけではないが『アナイアレイション 全滅領域』とは姉妹編のようなというか、ネッフリ人類完全敗北シリーズみたいな感じの同発企画なんだろうと推測できる。次は『エクスターミネーション 人類殲滅』みたいなタイトルでやるんじゃないかしら。あるとすれば。

ネタバレと銘打っているので早々にネタをバラすが要するにディック系。マイケル・ペーニャは戸惑っていた。安定した仕事。平和な毎日。少しだけ妻子とうまくいっていないが破局に至るほどではない。凡庸かもしれないが概ねしあわせな生活を送っている。
にも関わらずこの違和感はなんだろう。どうしたことかこの平和な世界が虚構に思える瞬間がある。そのうち悪夢を見るようになった。断片的で取り留めのないその悪夢はマイケル・ペーニャに宇宙からの侵略者のイメージを植え付ける。

宇宙戦争だ。日増しに強度と頻度を増す悪夢はマイケル・ペーニャを黙示録的な強迫観念に縛り付けていく。宇宙戦争だ。宇宙戦争だ。宇宙から侵略者がやってくる!
ここまでの展開、フィリップ・K・ディックの比較的初期の短編で何遍も読んだ気がするのでマイケル・ペーニャとは違う意味で俺もディックだ…ディックだ…とオブセッションに近い固定観念に囚われてしまった。

マイケル・ペーニャの妄想はしかし現実のことで、その後すぐに宇宙からやってきた侵略者が地球を制圧にかかるのだが、俺のディックだ…ディックだ…もそこで(映画の中の)現実になる。
重傷を負った妻の身体を見てマイケル・ペーニャは絶句する。なんだありゃあ機械じゃないか…! 人間の顔をした侵略者の青年は言う。そうだ機械だ。君のパーツがあれば君の妻は助かる。君も機械、アンドロイドだから。
マイケル・ペーニャ、切腹。べろりと垂れた肉の下から現れたのはメカ臓器であった。ディックの『電気蟻』だろうこれは。

記憶を消去されたアンドロイドが自らを人間と思い込んで生活している、といえばこれもディックの代表的な短編のひとつ『にせもの』がフラッシュバック。
やっぱディックである。マイケル・ペーニャの仕事が政府の極秘施設での電気技師とかディックのエンタメ寄り長編『最後から二番目の真実』みたいである。
『最後から二番目の真実』はストーリー展開の面でもちょっと似たところ(いや本当はかなり似ていると思ってますが…)があるが、別にそれに限らずディックの書く主人公はだいたい技師系であった。

ディックだ…ディックだ…あぁでぃっくりした。

しかし『アナイアレイション』はちゃんと原作付きだからいいが『エクスティンクション』は特に原作のクレジットされていないオリジナル脚本という扱いになっているからこれいいのかよって感じになるな。
よしんば本当はアンドロイドでした的なネタはディックの専売特許でもなんでもない手垢の付いたものだからスルーするーとしてもだよ、職業が電気技師とか治療のための切腹とか組み合わせちゃったらそれはもうディックだって。

これネタ元がディックじゃなくてハーラン・エリスンだったら訴えられてたな。訴えられてるレベルだし、知らないで書いて偶然に一致しちゃったんならそれぐらい読んどけよって話になる。
『電気蟻』とか『にせもの』とかディックの大有名作だし後者に至っては映画化もされてるんだから。模造記憶と偽家族ネタでいったら『トータル・リコール』だってあるわけだから。ハーラン・エリスンのご冥福をお祈りいたします(何)

でもまぁ随所でディックの諸作が頭に浮かぶということはそれぐらい展開がパルプ的な起伏に富んでいるということで、レトロ調の侵略者デザインとかも含めて肩肘張らずに見れるオールドスクールな楽しいB級SFっていう感じがあった。
B級って別に馬鹿馬鹿しいとかそういう含意はないですから。むしろ極めて真面目な映画。でもB級はB級。使い古されたアイディアの数々を矢継ぎ早に投入する、映画全体の統一感よりもその場その場でのサプライズや面白みを優先する娯楽志向の作劇をB級って言ってる。

その作劇がまたディックっぽいから困るが…しかしともかくマイケル・ペーニャの切腹が見られるのは『エクスティンクション』だけ。マイケル・ペーニャのすごい猫背がこんなに拝めるのも(たぶん)『エクスティンクション』だけだ。
デジャヴュの嵐にたいへん微妙な気持ちにはなったが色んな種類のマイケル・ペーニャが入れ替わり立ち替わり画面に現れるというのは映画独自のおもしろポイント。これはポイントが高い。

子煩悩パパのマイケル・ペーニャ。黙示録的悪夢に怯えるマイケル・ペーニャ。上司に勧められた精神科の受診がなんとなく嫌なマイケル・ペーニャ。ホーム・パーティの空気に馴染めないマイケル・ペーニャ。ついには侵略者の姿をその目で捉えるべく望遠鏡を買ってしまうが妻に言うと険悪な空気になりそうなので子供のプレゼントに買ってきたと嘘をついてしまうマイケル・ペーニャ。

いややっぱ書けば書くだけディックだわこれ。完全ディックの主人公の性格と行動だわこれ。ちなみに映画のオチは現在地球に住んでいるマイケル・ペーニャたちアンドロイドはかつて彼らを奴隷扱いしていた人類に反旗を翻して地球から追い出した人(アンドロイド)たちで、今はその記憶を消して人間として暮らしていたというもの。
マイケル・ペーニャの悪夢はその記憶のフラッシュバック。宇宙からの侵略者とは地球を追い出された人類であった。さぁそこからどうなる、と思ったところで映画は終わってしまったので剽窃問題とはまた別にそこはちゃんと決着付けろよと言いたくなる。

【ママー!これ買ってー!】


最後から二番目の真実 (創元SF文庫)

ディックワールド入りたての頃に出会ったディック長編だったので俺はかなり思い入れがあるんですけどこういうバリバリのB級エンタメ路線はあんまりディックに求められていないのかなんとなく微妙な扱いに。
変なロボットも怪しいガジェットも荒廃した世界もいつもの生活苦と家庭不和もやっぱり出てくる波瀾万丈の盛りっぷり、タイトルもディック長編屈指の格好良さでおもしろいと思うんだけどなぁ。

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