【ネッフリ】『タイラー・レイク -命の奪還-』感想文

《推定ながら見時間:30分》

クリス・ヘムズワースを主演に据えたMCUの名監督ルッソ兄弟のオリジナル新作かと思っていたがルッソ兄弟は脚本と製作で監督はサム・ハーグレイヴという別の人、知らないので早速IMDbを見てみるとどうやらアメコミ映画なんかでスタントやったり出演したりセカンド・ユニット監督も兼ねたりとマルチな活躍をしていたアメコミ映画の縁の下の力持ち、短編映画は何本も自分で作っているが長編はこれが初監督らしい。

『アベンジャーズ』シリーズにもきっちりセカンド・ユニット監督ほかで参加しているのでルッソ兄弟としてはなんとかこの人を長編デビューさせてあげたいねぇ、っていうのがあったんでしょうな。文字数稼ぎのようになってしまうがそのセカンド・ユニット・フィルモグラフィーがすごかったのでタイトルを列挙すると『スーサイド・スクワッド』、『ザ・コンサルタント』、『アトミック・ブロンド』、『デッドプール2』、『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』、『アベンジャーズ エンドゲーム 』…もう、絢爛たるフィルモグラフィー。『アベンジャーズ』の成功の一翼を担ったのは疑いようもない。そりゃルッソ兄弟も全力でバックアップしますよね。

という人が! 満を持して! ついに長編初監督を飾った『タイラー・レイク -命の奪還-』ですが! 結論から言いますと! うーん! うーん…? うーん……まぁ、面白い映画ではあったね! そう、面白いのです! オモシロの詳細は後述しますが面白いアクション映画!
でも同時に! 新型コロナが猛威を振るうとっくの前から身体面に加えて精神面でもソーシャル・ディスタンシングを実践していた孤発例的プロ逆張り屋の俺としては!…つまらなかったというのが正直なところだ!

面白いのにつまらない! なんだか矛楯しているようですがでもあるじゃんそういうの! あるでしょ? 愛してるけどセックスしたくないとか、不味いけどつい食べちゃうとか、そういう感情と行動の矛楯みたいのってあるじゃないですか…俺の『タイラー・レイク』体験、それ。

まー端的に言えばウェルメイドというに尽きるのですが。でもウェルメイドだって面白くて面白い映画はいっぱいあるわけで。なんでこれは(俺にとっては)面白いのにつまらないのだろうと考えると答えを出すのは結構難しい。スマホ見ながらのながら見鑑賞だったとか、日本語吹き替えの英語字幕で見たら原語が英語以外にも色んな外国語が入ってたからストーリーあんまわかんなかったとか、可能性としてはいくつか考えられないこともない。

うん、可能性っていうか、たぶんそれ。やっぱ映画は家で観ると気が散ったり雑に観ちゃってダメですね、早く開け映画館。新コロが全部悪い。そういうことにする。

でもそれだけがつまらんさの理由では決してないと思うのよね。つまらないって言うと俺の感覚が正しく伝わってる気がしないので…味がしない。これが率直なところだった。派手なアクションとすごい撮影がたくさん観られる映画だったけれども、それは言ってみれば中華料理屋の回転テーブルにいかにも豪勢な料理がたくさん並んでいるというようなもので、目には楽しいがいざ食べてみると、結構普通。そういう映画だったんじゃないかと思う。

アクションは本当すごいんですよ。そこはさすがスタントマン、さすが『アベンジャーズ』ほかのセカンド・ユニット監督といったところで、回収ターゲットの麻薬王の息子を連れた傭兵クリス・ヘムズワースが地元ギャング(舞台はバングラデシュらしい)と警察から逃げ回る一人市街戦の場面が映画のハイライト、最近流行の疑似ワンカットの技法でカメラを縦横無尽に動かしながらカーチェイス・銃撃戦・近接格闘・パルクールと都市アクションのだいたいをやってしまうのだから恐れ入る。

加えてその光景がいちいちブルータル。人の死に様を誤魔化したり和らげたりなんかは決してしない。市街戦でこれほど脳漿の飛び散るヘッドショットが連発される映画が今までにあっただろうか。唸らされるのはバイオレンス描写に仮借がないためだけではない。年端もいかぬ子供たちが貧困からギャングの少年兵となってライフルを握り躊躇なく殺人に手を染める、その状況のバイオレンスもまた容赦がない。都市の上から下まで逃げ回りながらクリヘムは少年兵とも殺し合うことになるのだから凄惨にして硬派な映画である。

で、そういうところは非常に精緻に作られていると思うのだが俺がどうにも乗れなかったのはまず第一に、もう根本から否定するような感じになってしまうが、家族を失って自暴自棄になった凄腕の傭兵役にクリス・ヘムズワースって…合わなくない? そこはもっと背中に哀愁を帯びたというか、皺が年輪を刻んでいるというか、あくまでたとえばですけどこれジャン=クロード・ヴァン・ダムとかドルフ・ラングレンがやる役じゃないすかね…なんていうか単純に若すぎるんですよ、クリヘム。

そこにまず乗れなくて…それでクリヘムの仲間とかも出てきてチームアクションっぽい展開にもなるんですけど、そのチームメンバーがどんなキャラクターかっていうのがかなり薄くしか描写されないので、まぁ誰が死んでも別にいいかみたいな、そういう感じなっちゃう。これは悪役のギャングもそうで、すごいテンプレ的な悪なんですよね。テンプレ悪もちゃんとテンプレ悪としてキャラを立てれば様式美ですけど、それもあまりしない。結果、壮絶な死闘もなんとなく気分が盛り上がらない。

要するに俺の印象ではジャンル映画的な味わいが全然なかったわけですよ。アクション確かにすごい、だけどアクション映画で何を観てるかってアクションだけではないよね。アクションだけ観たかったらエクストリーム・スポーツとか格闘技の動画観ればいいわけだし、あくまで「アクション映画」であるのならそこにはやっぱり映画としてのエモーションがあって欲しい。そのための人間ドラマがあって欲しいし、この映画は『ボーン・スプレマシー』タイプのリアル路線のアクションを取っていたんですが、そのリアルさをある程度捨ててでもジャンル映画的なケレンっていうのが欲しかったですよ俺は。

なんかね、結局アクション見本市みたいになっちゃって。件の疑似ワンカット長回し市街戦も技術的に見事すぎて逆に、最近のアクション制作はすごいなーみたいな醒めた目で観ちゃったりする。そういうのはやっぱりドラマもキャラクターも弱かったからじゃないかと思いますね。
こう言ってよければ『アベンジャーズ』のアクションをアベンジャーズのキャラクター抜きでやろうとした映画、なのかもしれない。それはやっぱり、無理あるよね。なんかそんな映画でしたよ『タイラー・レイク -命の奪還-』。面白いけどつまらないってそういうことです。

※とはいえ、スナイパーのヘッドショットで人がゴミのように死んでいくところ、ビルの屋上から一山いくらの貧困キッズがゴミのように投げ捨てられるところなど、人でなし演出は冴える。この監督はいっそのことジャンル映画の楔など捨ててシリアの紛争地域でただただ人が殺し殺されるだけの地獄のような映画でも撮ったらいいのかもしれない。シリアといえば新コロとか大丈夫なんすかねシリア、場所によっては医療崩壊レベルどころじゃないと思うのですが。なんとなく不謹慎なことを言った後はこうやって人権派アピールをします。

【ママー!これ買ってー!】


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何度このブログにリンクを貼ったかわからないが…『タイラー・レイク』に欠けていたものがすべてある映画ということで…。

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