戦場一日体験映画『モスル~あるSWAT部隊の戦い~』感想文

《推定ながら見時間:0分》

邦題にSWAT部隊とあるからなんで(アメリカの)SWATがモスル攻防戦に出向いてるんだろうの疑問を浮かべつつ映画を見始めるとSWATといっても現地警察の特殊部隊であることが判明、しかもこのSWAT部隊はどうやら特命を帯びて警察や軍の本隊とはまったく別に行動していて、それどころか対立してさえいる独立愚連隊なのであった。

いったい何故対立しているのか。こいつらはいったい何者なのか。しかしそんなことをいちいち考えている余裕のない地獄のモスル攻防戦である。冒頭からして銃弾と手榴弾の雨あられ、なにやらIS戦闘員を捕縛したらしい若い警官がたった一人の同僚と共にISの襲撃を受けているようなのだが、その場所が警察署なので治安もなにもあったものではない戦場っぷり。そこに颯爽と現れISをぶっ殺したのが件のSWAT部隊ということで彼らはその場で若い警官をスカウトすると即部隊に編入してミッション遂行のために戦場市街地を進んでいくのであった。

映画の作りは至ってシンプルで主人公の若い警官の目を通してモスル攻防戦のある日の2時間弱を上映時間=映画内時間として観客に体感させる作り。その中でSWATチームの目的が徐々に明らかになっていくミステリー的な要素もあるが、いやー、とにかく臨場感が尋常ではなく分刻みで人が死ぬ、それも敵も味方も戦闘に巻き込まれた一般人も関係なくガンガンあっけなく死んでいくのでもうね、ぶっちゃけ目的とかどうでもいいですよ。凄まじいね。主人公の警官もあまりに凄惨な戦闘の連続に途中で目的なんてどうでもいいって言うもん。その彼が映画の最後でどう変わるかっていうのがドラマ的な眼目ではありますが。

そういう戦場体感型映画なのであんまり多くは語らないでいいかって思う。ただ一点だけこれはやっぱりこの映画の核心じゃないかなと思ったので書いておくと、イスラム法では戦闘員は男に限定されてるのでこの映画でも殺し合いをやるのは全員男なんですけど、じゃあ女の人は何をやるかっていうと子供を産みます。単に戦利品として略奪するだけじゃなくてISは自分たちが国を樹立したと言っているわけだから子供を産ませるために女の人ほしいわけですよ。

男たちの殺し合いをすごい臨場感で見せるこの映画は戦闘シーンで誰と誰が戦っているのかもよくわからない。とりあえず殺し合いをしていることは確かだけれどもその殺し合いの中で敵味方の印は失われてどっちが敵でどっちが味方か判別がつかなくなってしまう。おそらくそれは意図的に行われていることで、監督と脚本はジョー・カーナハンの弟で傑作『キングダム/見えざる敵』の脚本を手掛けたマシュー・マイケル・カーナハン、えー、多少ネタバレっぽくなりますがまぁ昔の映画だからいいでしょうが、『キングダム』ってサウジアラビアで起きた外国人居住地自爆テロの報復のために超法規的に現地入りしたFBI部隊がその首謀者を探してやっつける映画ですけど、映画の最後にすごいモラル的などんでん返しがあって、FBIの人間とテロ組織の人間が仲間や子供たちに「必ず奴らを殺す」「必ず奴らを殺せ」っていう同じような台詞を言う。

テロ組織もFBIも正義というよりは正義の名の下に復讐を遂行するために動いていて、その復讐の連鎖が映画冒頭の自爆テロを生んだんですよっていう、そういうオチになっているのが『キングダム』で、だから『モスル』もIS戦闘員を良い奴として描くことは無いんですけど、だからといってSWAT部隊の方にも肩入れすることはなくて(一応モスル攻防戦で戦死したSWAT部隊に捧げられているので、そうは言ってもSWAT部隊をリスペクトするのだが)、映画の最後でIS戦闘員とSWAT部隊がやっていることが本質的には同じだっていうことがわかる。でそれが女の人に対する要求、子供に対する要求なわけです。そこにおいて敵対していたはずのIS戦闘員とSWAT部隊が鏡像関係になってしまうっていう仕掛けが『キングダム』同様この映画にもあったように俺には思えた。

超臨場感な戦闘シーンもその間に差し挟まれる超リアルな戦場の日常風景も超よかったですけどそういう視点もこれはすごいよかったな。戦場に勝者はいないしヒロイズムも美徳もなにもないんだっていうね。ただ敵も味方もない殺し合いがあるだけなんだっていうドライさ。IS戦闘員が非戦闘員の子供を狙撃して殺したその同じ場所から、IS戦闘員を殺して場を制圧した若い警官は子供の死体の傍らで泣き崩れる母親の姿を眺めるというシーンがあるが、そのときに警官とIS戦闘員の視点は同化してしまっているわけだ。それは家族に関する中盤のある会話からも窺える。

とはいえ。そんな人間性をぶっ壊す状況にあってもどうにか善の側に立っていたいって思いもSWAT部隊の台詞や表情の端々には見て取れる。それが結局は戦争状況の中で瓦解してしまう非情さが逆説的に善意のほのかな光を感じさせて、なんとも渋い超真摯な戦争映画になっているのでした。おわり。

※あと通例こういうアメリカ映画って英語で撮りますけどこれは一部を除いてアラビア語で撮ってるのもすごい、すごいっていうか真面目。英語圏のスター俳優も一人も出てませんし。

【ママー!これ買ってー!】


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数ヶ月に一回はこの欄に貼っているが傑作なので何度でも貼る。

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