映画感想『彼らは生きていた/ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド』

《推定ながら見時間:50分》

映画館で予告編観てうわ怖ッ! ってなってしまった。なんかね、WWⅠ当時の記録映像だから秒間コマ数が今と違うわけじゃないですか。だからこれを流すとチャカチャカした早送り状態になるわけじゃないですか。で、この映画デジタル技術で秒間コマ数を早送り状態にならないように補完して今の映像っぽく見せてるわけじゃないですか。それがね、グロテスク。

グロテスクって言い方はないか。でもなにこの…ちょっと曰く言い難いのですが…なんか人の顔とかがちょっとだけブレたりするんですよ足りないコマは仮想的に補完してるから。ずっとブレてるわけじゃないんですよ、たまに端っこの方をフッと見るとあ、今ブレたな…みたいな微妙なブレで。
これ気持ち悪くない。俺は気持ち悪かったですよ、『マトリックス』の仮想世界でデジャヴュを見た時の感覚って言いますか。作り物っぽくないものの中に不意に作り物の現実が顔を出す、生きているように見えるものの根拠が不意に揺らいでしまう瞬間の…不気味さ。そういうのがある。

映像実験としてはたいへんおもしろかった。映画はWWⅠ西部戦線サバイバーたちの大量の証言をナレーション代わりに入れていて、WWⅠだからこれももう、全員亡くなってるわけです。でもそう説明されるわけでもないし(言うまでもないと言えばそうなのだが)、たぶん原盤に相当手を加えているから異なる出典の音声なのにまるで映像を見ながら語った新録の証言に聞こえる。ノイズもないし実にクリア。で、その音声をズタズタに編集して映像に合うように「ストーリー」を作ってる。

映像に目を向けると、既に書きましたが仮想的なコマ数補完、それに加えてカラーライズ、元フィルムは無声なわけですが読唇術で言っていることを読み取った、というのが話題になっているところですが、実際に観ると読唇術の役割はかなり小さく…そんなものに拘らずにどんどん環境音を盛る。これはフィルムからは読み取りようがないですからリサーチはあったとしても完全な創作ですよね。なんか兵士達がガヤガヤ言っていて、後ろの方で上官かなんかが叫んだりしてて、カメラに写ってない機関銃の銃撃音とか大砲の着弾音が聞こえたりする。

だから臨場感すごいですよ。死体のカラーリングとかも目を背けたくなる汚らしさで。うわぁこれが塹壕戦かぁっていう。すごいけど、やばいよね。いやぁこれやっちゃダメでしょ。やってもいいけどメディアアートとしてだよね。ドキュメンタリーの枠に入れたらまずいんじゃないですか。最悪ドキュメンタリー枠はまぁ、ドキュメンタリーにも色々ありますからいいんですけど、史料としてはちょっと。だって明確な歴史ねつ造だもんねこんなの。そうとしか言いようがないんだよ。

結局どう観るかの話かなぁって思いましたよ。AIひばりじゃないですけど、ここで展示されると違和感ないけどここで展示すると…みたいなアートのTPOってあるじゃないですか。これがたとえばメディアアートとしてテクノロジーがどうリアルを変えたか、みたいな現代アートの企画展の一角で流れる映画ならその観点から何の違和感もなくひじょうにおもしろく観れる、でも映画館でドキュメンタリーとして観るとってことですよね。俺は配信で観たわけですけど。

あそうそう、もう配信あるんですよこれ。YouTubeムービーとかアマゾンプライムの有料レンタル他で! 『ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド』のタイトルで! この内容で『彼らは生きていた』の邦題にはちょっと引っかかったので(せめて『生き続ける人々』とかでいいじゃない)邦題はこっちのがしっくりくる。いやそれはともかく、これに限ったことじゃないんですが最近顕在化してきた配信と劇場公開の順番逆問題。ちょっとどうにかならないすかねぇ。ずっと映画館でやるのが先だと思ってたからとっくに(2019年9月から)配信してたって知ってなんか騙されたような気になったよ。

コンテンツホルダーがネット配信と劇場上映でたぶん別だからこういうことになってるんでしょうけど、とはいえ観る側にしたら同じ映画なわけだから無用な混乱と配給・劇場不信を招くだけじゃないですか。少なくともそれで客の得になることは絶対ないよね。どこで観るかっていったら『彼らは生きていた』みたいな戦争映画は映画館の大スクリーン(そしてできれば大音響)で観た方がそりゃ絶対おもしろいですよ。映画館で観ると一般料金1800円~、配信だとこの映画の場合はアマプラレンタルで399円。映画に何を求めるかってところである程度差別化はできてるわけだから、そこはなんか、業界ルール作って欲しいよなぁ。せめて邦題ぐらいは会社を超えて共有してほしいですよ。なんかまたそこにも権利問題とかあるのかもしれませんけどさ。

そんなことはどうでもいいんだ。どうでもいいんだが、トータルで、なんかこれどうなの? みたいなことばかり感じる鑑賞ではあったな。台詞のさ、イントネーションとか呼吸だって100年前の人と今の人は絶対違うんですよ。昭和のテレビ番組とか観ても今と全然違いますよね。俺は英語わかりませんからアレなんですけど、でもこの映画はそこらへんをあんま気に掛けてなかったように俺の耳には聞こえたし、それって悲惨な過去から現代の人が学ぶとかじゃなくて、悲惨な過去を現代の人の都合の良いように解釈するってことにしかならないよね。リスペクトしてるようでディスリスペクトっていうか。

面白いか面白くないかで言えば面白かった。でもこの内容ならわざわざ手間掛けて記録映像に手加えるよりオリジナル作品として普通にフィクション映画で作っちゃえばよかったのにって思うし、フィクションの力ってそういうところにあるんじゃないすかねって風にも思いましたよ。
作り物だからこそ描かれる物事の本質に辿りつけるみたいの、ないすか? まぁ、ないかもしれないが、でも『キングコング』とか『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンが監督なんですから、そのフィクション性を記録フィルムのリアリティで隠蔽したりしないで、もうちょっとフィクションの可能性を信じて欲しかったよねぇ。

【ママー!これ買ってー!】


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『彼らは生きていた』と同じ西部戦線塹壕戦をドイツ軍側から描いた戦争映画のマスターピースのカラーリメイク版。『彼らは生きていた』とは重なるエピソードも多い。どっちも大変だったんですね兵隊さんは。

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