コリアンノワール最前線『犯罪都市』の感想

《推定睡眠時間:0分》

睡眠時間もなにも立ち見だったからいくら眠くても強制覚醒状態だったわけですが満席ってなんだよ満席って、でも韓国映画めっちゃ人入るからな。
いや俺が見たのはキャパ50くらいの小スクリーンでしたけど同じ映画館のキャパ300クラスの大スクリーンでやってた韓国映画『タクシー運転手』も満席立ち見ですよ。
ゴールデンウィークを考慮に入れてもやっぱ韓国映画強いよ。予告編でやってた『悪女』系統っぽいコリアン女闘ノワール『修羅の華』も絶対やべぇやつでね。これはマジで絶対にやべぇやつで。
韓国映画フィーバー当面止まんねぇなって思いましたね。『タクシー運転手』ともどもですが。

いや俺はですよ正直言ってすげぇ困ったんだわ『犯罪都市』。これは『タクシー運転手』もそうだし結構ほかの韓国エンタメ映画とも共通する、それに今に始まったことではないアメリカ娯楽映画に範を仰ぐ韓国娯楽映画の一般的傾向だと思うんですけど、政治行為としての映画っていうところがある。
政治行為っつってもいろいろあるわけですけど『犯罪都市』は基本的には警察のPR映画っつーかなんつーか、有り体に言えば強い韓国人刑事が外国人の悪者をボッコボコにして観客の溜飲を下げる類の…要するに愛国映画の色彩が濃い。

どう受け止めたらいいか迷うよね。いや皆さんは知りませんけれども俺はその露骨さに迷ったんだよ。めちゃくちゃ迷ったよ。
なんでそんなに迷ったって、言おうとしないんだよ。誰がって見た人が、この面白い映画を見た人が。何をってその政治性を、面白さに水を差す政治性を、わかってるのに。
面白い映画は素直に面白いって言ってみんなで盛り上がりたいじゃん。こんな面白い映画に水を差すやつがいたら嫌でしょ。俺だって嫌ですよいちいち娯楽映画観ながらあれは政治的に正しくないだなんだ言うやつとか…。

でもそれ無責任だろうって思って。難しいな。俺はだよ、こういうポピュリズムに根差した右翼的な映画は少なくともツッコミが入れられて然るべきだと思うんです。ツッコミがあるから楽しく見れるっていうのあるでしょ。
『インデペンデンス・デイ』みたいなものを俺はまったく政治的に正しいと思わないよ。なぜならあまりに愛国的だし、宇宙人差別が露骨である。ここボケです。
でもそれをちゃんと理解した上でヒデェなぁとかバカじゃねぇのってツッコミながら、バカかもしれないけどでもこれめっちゃ面白れぇなっていう、そういうアイロニカルな、アンビバレントな、見ようによっては嫌味でスノッブな、そういう映画の見方ってある。

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あくまで「俺は」というのを何度でも強調しておきたいが、俺はそういう風に嫌味っぽく距離を保つことで逆にどんな映画でも平等に楽しめるって思ってるんで。どんなに思想や文化の違う映画でも可能な限り平等に見れると思ってるんで。
だからこれもやっぱりちゃんとその政治性については言っておいた方が良いと思うし、たとえば、たぶん現時点で日本公開は難しい韓国国内でも議論を呼んだ『軍艦島』も、そういうオープンな言論の土壌があれば公開できてたんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか。

と一通り韓国映画を取り巻く環境に対する不満をゲロ出したので映画の内容の方にようやく入っていけるが、結局ポピュリズムに根差した映画ということは大衆の欲望を上手い具合に吸い出せてるということなのでもう、めっちゃおもしろいわけ。
だって最高でしょ。デビューはもっと前だそうですがジャパニーズ的には実質『新感染』で衝撃的な銀幕デビューを果たしたマ・ドンソク刑事が平手打ち一発で屈強なギャングどもを片っ端からKOしてくんです。もうセガール映画の域じゃん。強すぎて半分ギャグじゃん。

でもそれがギャグにならないくらいシャレにならない正体不明の悪いやつが出てきて、こいつは中国から渡ってきた朝鮮族ギャング設定なんですけどユン・ゲサン。暗黒街ものというのもあるのでショートポニーテ-ルの後ろ姿が『不夜城』の金城武を彷彿とさせなくもない。
『不夜城』の金城武は抗争に巻き込まれる側だったがこっちは巻き込んでいく側で、というか、二人の極悪仲間を従えてチンケな金貸しをやりながら残虐取り立てを繰り返してたら意図せずして地元組織に因縁をつける形になってしまった。
行動基準はよくわからないがとにかくやると決めたら徹底的にやるのがこいつの流儀。かくして微妙な均衡の上に成り立っていたソウル・クムチョン裏社会はユン・ゲサンによってカオスのドン底に突き落とされる…というわけですが。

いやもうその抗争っぷりが糞容赦なくて最高なんだわ。弱いやつからテンポ良くどんどん潰れてってですね、そしたらもっと悪いやつともっとでかい組織が躊躇なく物語に補充されてくんです。
このやべぇことになってきたな的ドライブ感すごいよ。偶然遭遇して云々みたいなシーンがやたら多いご都合主義っぷりも気にならないパワフルなストーリーテリング。
諸々の錯綜展開も悪いやつと良いやつが明確な『ダイ・ハード』的構図が鮮明なので迷ったりしない。この登場人物の交通整理っぷりはまったく見事(ただし小峠みたいなハゲが三人ぐらい出てくるのでそこは迷いが生じる)

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だいたいですね大の大人を張り手一発で昏倒させる怪物とコネもカネもなく手斧とナイフのみを武器にたった一人プラス二人で大都会ソウルの一角を制圧する怪物が正面衝突するわけですよ。
そんなの面白くないわけないんだよ。セガール映画はセガールと悪党のパワーバランスが崩壊しているので緊張感とかなにもないが(それが面白いが)こっちはやべぇやつが本気でやべぇからハートビートノンストップだしどんどん悪い組織出てくるから面白くないわけがないんだよ。

報復を恐れて捜査協力に及び腰の市民たちに無垢な子どもが叱咤激励。みんなの力で朝鮮族ギャングをぶっ潰せ! なシーンの露骨なプロパガンダ的手法にうむむとさせられたりするわけですが、韓国映画名物の暴力取り調べ(ほぼ拷問)を悪いやつなんだからしょうがないよね的なゼロ批判の笑いにする体制すり寄り感にうむむむむとさせられたりするわけですが、マ・ドンソクの筋肉いじりも全開のバイオレンスユーモアに塗れたジェットコースター抗争劇はやはり最高に見物。

悪いやつが本気で悪いからやっちまえマ・ドンソクって気になる。どうせ混乱するのは暗黒街の住人だからもっと混乱しろ抗争深まれって感じになる。
ノン銃社会の抗争は鉄パイプと刃物がメインウェポン。直接的なゴア描写はないがリアルに痛い。痛ければ痛いほどもっと痛いものが見たくなる。

観客の無責任と残酷を骨の髄まで理解した人間が作ってるんだろうなと思えば特にそのナショナリズム的な表象には実にたいへん複雑な気分になるが、でもまぁ面白いから仕方がないんだよと言われれば身も蓋もないけれど、やはりその通りだから仕方がないんだよ。
(でもそれとは別に、こういう映画がヒットする韓国の中国に対する近からず遠からず友好国ならずしかし敵国ならず、みたいなイメージが垣間見えるのは興味深いところだったかも)

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マ・ドンソクと小峠A的な弱小組織のボスのコミカルなやりとりに『県警対組織暴力』がチラつく。
あとなんか『あぶない刑事』みたいなノリも感じる『犯罪都市』でしたがそれはそれでこの題材でそのノリ行く? みたいな『八仙飯店之人肉饅頭』的困惑を催さなくもない。

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