原作読まずに映画『ママレードボーイ』感想

《推定睡眠時間:15分》

少女漫画原作映画量産監督中たぶん最年長と思われる廣木隆一のメルクマールでもある恋する二人のたゆたう心情に寄り添うようなたゆたう長回しがええ感じで冒頭、それとはまた趣を異にするが主人公の桜井日奈子が親友の優希美青とべちゃくちゃつまらないことを話しながら高校のエントランスホールを抜けて外に出たところで会話が転調、二人が立ち止まるタイミングに合わせてそれまで二人を正面から捉えていたカメラがグッと上昇しながら旋回し、校舎正面玄関右手の校庭・テニスコートに、二人をフレーム手前に置きつつ照準を合わせる。

話し終わるに合わせてカメラはまた桜井日奈子の目線位置に戻ってきて学校から立ち去っていく後ろ姿を見送る形になるわけですがおいかっけぇなこのメカニカルで無駄のない長回し。
場面変わって両親(筒井道隆と檀れい)と車で高速道路を移動中の桜井日奈子。会話の内容から両親が離婚すると分かる。桜井日奈子のハリセンボンみたいなふくれっ面と抗議の沈黙。
高鳴るBGMがなにかを予感させたところで、再び場面変わって今度は高速高架下のなんもない殺風景な公園。そこに一人、無地のアスファルト壁に向かって一心不乱にテニスの壁打ちをする男がいる。

カメラはロングショットでその光景を俯瞰するだけだから顔は写らないが、こいつが桜井日奈子の運命の相手的な吉沢亮だということは別に写さなくてもわかる。
反復する単調なテニスボールの打球音と大きなアスファルト壁の一面の灰が桜井日奈子の沈黙と呼応するように、一見ビジネスライクで大人びているが意識のどこかでなにかしらの絆を渇望する吉沢亮の乾いた心象と映る…ところでタイトルが出るのでスタイリッシュがマックス。

以上、素晴らしいアヴァンタイトルは撮影:鍋島淳裕というわけで廣木組の人であるが同時にまたこの人は『となりの怪物くん』の撮影も手がけているのだった。
『となりの怪物くん』も良かったですねリアルと虚構が地続きになった不思議で流暢な映像が。一人でテニスの壁打ちをする吉沢亮と一人でバッティングセンターでバッティングする土屋太鳳が重なったりもしておもしろいなぁ。

じゃねぇよ。公開規模に対して狭すぎるだろう少女漫画原作映画界。何人のメインスタッフで何本の映画回してるんだよ。重なりすぎだろうスタッフもあと内容も。ロケ地とかも。
これとは関係ないけど『となりの怪物くん』に出てきた入試会場とかあれたぶん『伊藤くんA to E』でシナリオ講座やってた貸し会議室か市民センターと同じロケ地じゃないすかね…未確認ですが…。

< その『伊藤くんA to E』も廣木隆一&鍋島淳裕なのでなんというか島国の限界をまざまざと見せつけられる感じになったが、それが偶然にも奏功して(?)後半の映画誘致で地域振興するぜ感が全力で迫ってくる薄っぺらい観光映像のつるべ打ちに消化不良を起こしつつ(昨日から体調が優れないのはこのせいだと思ってる)そのニューシネマ的なあるいはロマンポルノ的な行き場の無いロードムービーの興趣の中で、宿命に囚われた二人の悲哀と閉塞感が強く印象づけられたのだった。 わぁ、おもしろそうな書きっぷり。いやでも面白いか面白くないかって言ったら全然面白くないよ全然面白くないし強烈な時代錯誤臭がもうキツイよ…。 時代錯誤は原作が古いから映画の責任ではないかもしれませんがガールズばかりの上映後の客席ガヤにダンボ耳を傾けていたら山口達也の名が聞こえてきたよ。 ということはそういう映画なんだ…そういう映画とは言わないが(言ったが)山口事件の問題圏と通するものがあるという点で、描かれる物語の危うさとは別の意味でこういう女子高生の恋愛描写はどうなんだみたいな、映画自体が危うさを秘めているのでこう、平成の終わりに置かれたハラスメント時代の墓碑のようなものになってしまっているんじゃないかこれは。 脳髄まで異性恋愛オンリーで染まった女子高生連中とか。女子高生の寝顔に欲情したイケメンが我慢できずにキッスとか。テニス部員全員が見守る中での試合に勝ったら俺と付き合ってください宣言とか。 極めつけはあれであるがあれがいかんっていうんでなくあれが少女漫画原作映画の枠内でロマンとして描かれると…そこは、けれども、廣木隆一の作家性というか強い意志を感じなくはないので迫真性があったりなかったりというのは先述。 要するにストーリーの周回遅れ感を考慮しなければかっこいい映像とか美しい劇伴(世武裕子という人による)とか長回しが引き出す主演二人の葛藤とかたいへん見応えある感じ。 問題は、だったら少女漫画原作でやらなくてもいいんじゃないかこれって風に思わせてしまうところだろう…。 もう限界っすわ。女子高生プログラムピクチャー界隈限界っすわ。スタッフいないし。お客は入るのかもしれませんが。ということで墓碑銘に刻まれた「昭和平成」の横に「少女漫画原作映画」も加えたい。 そのフィナーレとしてはあの立派なアヴァンタイトルからしてたいへんゴージャスな総決算的映画だったと思いますのでさっさと両者とも仲良く極楽でたのしくやってほしいし、少女漫画原作映画界隈に囚われた才能ある映画作家の人たちも若手俳優の人たちももっと創造力と個性を発揮できる環境に解放してあげてほしいと思う次第、です。 【ママー!これ買ってー!】


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うわこれもうキツいわって思った去年の『PとJK』の後も少女漫画原作映画は連綿と続いている現実が残酷な廣木隆一監督作(撮影:鍋島淳裕)

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