映画感想『トリガール!』VS『あさひなぐ』(ネタバレ皆無)

《推定睡眠時間:0分》

こないだ見た『トリガール!』は本当に嫌な嫌な映画でその記憶も覚めやらぬ中での同じ英勉脚本・監督『あさひなぐ』はまた英勉かよ英勉の過剰供給ふざけんじゃねぇよと思たらこっちは全然面白いじゃん! 快作快作!
いやー、なぎなた女子! 格好いいっすね! ドンくさ無能の旭ちゃんもヤンキー風情の八十村さんもほわーっとしてるようで意外と責任感の強い野上部長もデブは身体的特徴であって短所じゃない大倉先輩もみんな格好良いよ!

え、なに、演じてるのはみんなAKBなんすか? え、乃木坂っすか? マジッすか! 乃木坂やべぇなめっちゃ層厚いじゃん…ていうかそこまで乃木坂でメインキャラ埋めちゃうんなら逆に一人だけ乃木坂じゃなかった富田望生を乃木坂に入れるべきなんじゃないのか。逆に。

でも全体的なノリは『トリガール!』とあんま変わらないわけで、じゃあ何が違うかったかというと『トリガール!』よりも人物描写が明瞭でメリハリの付いた展開になっているとかそういうのもあるが、鳥人間コンテスト題材の理系ストーリーを強引に体育会系ストーリー&体育会系ノリにコンバートしたような『トリガール!』に対して『あさひなぐ』は最初っから体育会系部活ストーリーつー点で違いが出たんじゃないかと思ったな。
知らねぇけど英勉ていう監督たぶん体育会系なんじゃないすかテレビの人だし。ウェイ的なさ。『トリガール!』はアウェイだったんだろたぶん。

あんま変わらないノリっていうのはバラエティ的なノリで、なんか例えば『トリガール!』には謎OB役のコロコロチキチキペッパーズ・ナダルがいちいち話の腰を折って持ちネタを披露する(そこに土屋太鳳のツッコミが入る…)誰得バラエティ演出が施されていたが、もうまーったく、まーったく同じようなことを『あさひなぐ』でもなぎなた部顧問教師の中村倫也にやらせている。

ナダルが滑りまくっていたもんだからこちらでも思わず身構えたが…ところがこれが存外めっちゃウケる。中村倫也の乃木坂との距離感かなりちょうどいい塩梅である。まー考えてみれば『トリガール!』の場合はナダルほか色んなおもしろ人間のボケを土屋太鳳が一人で受けて適宜ツッコミを入れつつノリツッコミのカウンターを浴びせてボケに転ずることもあったわけで、こりゃ明らかに度を超した重労働ですね。

もうね、役者さん大変そうだなぁって思ったら笑えないっす。その点『あさひなぐ』は気楽なもんで、いや別に気楽ってこともないかもしれないがー、誰か一人がおもしろを背負うわけじゃないと。中村倫也がなんかボケ入れてきたら乃木坂メンバーみんなで微妙な反応。笑えるじゃんこのゆるさ。

一人でボケもツッコミもこなせる芸能処理能力の極めて高い土屋太鳳の映画がストレートに笑えないっていうのはその芸達者が徒になってる部分もあるわけで、特にこういうバラエティ色の強い映画だと一人一人はスーパースターじゃないしそんなスペック高い感じでもない乃木坂の方が合ってるような感じはあったな。

で、それがまた内容にも合ってたわけですよ、『あさひなぐ』は。チームでやってんだから自分本位じゃダメ、とか。スポーツは好きで楽しんでやるもので苦しんでやるものじゃない、とか。そういう話をやる。
そのへんはやっぱり例のバラエティ作劇が効いてくるところで、ちゃんとした映画が普通は外さない色んなものを躊躇なくすっ飛ばしてポポポ~ンとテレビ的に単純な見せ場ばっかり繋ぐ軽薄極まる映画なわけですが、だからこそ楽しんでやっちゃなにが悪ぃのっていう説得力が自然と物語に感じられたような気はしましたね。

これもだから、『トリガール!』の時も監督の人はたぶんそういうの志向してたんじゃないすか。堅くならないでみんなで楽しくやろうよっていう『がんばれベアーズ』精神みたいな。そういうの志向してたんだけど、でもそこらへん鳥人間コンテストっていう題材と齟齬が出ちゃったっていう。

『あさひなぐ』の方は高校のなぎなた部が題材なんでもう少しリアリティラインが下がるというか、テレビ的な誇張に彩られたマンガ世界でもスッと入っていけるところはあるんですが、まぁ実際のコンテストの映像も使ってるし鳥人間コンテストが題材だとリアリティとか物語の深度の要求はどうしても上がるわけで、その溝を土屋太鳳の芸達者で埋めたら逆に苦しくなったっていう感じだったんじゃないかなぁ。

どんだけ『トリガール!』で引っ張るんだ。それはもういいから『あさひなぐ』。軽薄な映画とか言いましたがー、ほとんどセリフもない三年の引退シーン、涙腺に来てしまったよね。なんだろうなあの感慨。たぶん、軽薄だからなんだろうな。三年の引退シーンがサラッと流されちゃって、すぐさま次に向けて頑張るぞーみたいなシーンになったり中村倫也の台無しボケが入ってきたりするその軽薄。

ディティールの掘り下げとか少しも考えない徹頭徹尾のテレビ的軽薄が感動に転ずるっていうの新鮮だ。軽薄っていうか幼稚。なんかでもこんなもんなんじゃないかと思いますよ高校生の部活のリアル。描写のリアルじゃなくて精神性のリアル。こういう風に青春は浪費されていく。でもこの作り手は大人だからそうしている内に三年になって引退する日が来ることも知ってるわけだ。

欲望に忠実で嘘が無い乃木坂+富田望生のなぎなた女子が活き活きとチャーミングでたいへんよいがー、そういえばこの映画っていうか原作がそうなのかもしれないが登場人物9割ぐらい男前な女の人。男はボケ担当の中村倫也と元なぎなた男子の森永悠希(体臭すら感じられる存在のリアルが素晴らしい)でなんかとても情けない上に恋愛要素一切なし。これはまったく潔い。

『ワンダーウーマン』の社会的な価値が既存の男性ヒーロー映画のフォーマットで女性ヒーローを成立させたつーところにあるのだとすれば、物語構造といいキャラ類型といい完全にバカ男子部活映画のフォーマットで女子なぎなたをやってる『あさひなぐ』も同じ程度の意義はあるんじゃなかろうか。量ではなく質的な意味で。

ラストにあるライバル校のすごい強い人・生田絵梨花の演技もグッときたし、いやぁ本当に良い映画だったなぁ。人気マンガの映画化キャストをAKBグループで埋めることのガラパゴス芸能界的大暴挙には最後まで触れなかったけど良い映画だから別に構わないよね?

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全然好きな映画じゃないが富田望生の芝居がたくさん見れる。

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