真面目にやるな映画『今日から俺は!! 劇場版』感想文

《推定睡眠時間:0分》

新型コロナのせいですっかり客足の鈍ってしまったシネコンですが『今日俺』はレイトショーで席が8割方埋まっていたので小箱とはいえこれはすごい、他の新作映画がそもそもほとんどやってないという事情もあるにせよ恐るべし福田雄一ブランド。本編上映前には今冬公開予定の福田雄一最新作『新解釈・三國志』の本人出演CMまで流れちゃって福田雄一の集客力をまざまざと思い知らされるのであった。

しかしそれにしては客席の反応が寂しい。バラエティ映画の巨匠・福田雄一の新作となれば客席をドッカンドッカン笑わせてナンボみたいなところがあるんじゃないのと思うのだが客席の笑い、今回かなり控えめであった。その笑い控えには感染対策として飛沫を飛ばさないようにできるだけ笑いを堪えようみたいな新コロ下での衛生意識の変化も多少は反映されていたのかもしれないが(いやでもそんな意識の高い客が福田雄一の新作観にこないだろと思うのだが)、もっと単純にぶっちゃけ今回わりとスベってたと思う。

ドラマ版および漫画版は未見なのでこれが『今日俺』の平常運転なのかどうかは知らないが…あれなんだよな、主人公の二人の不良、賀来賢人の三橋と伊藤健太郎の伊藤(紛らわしいが)のコンビ活動とかほとんど描かれないしな。やっぱりね、こういう映画ってツッコミ大事ですよ。賀来賢人はギャグが力みすぎているし伊藤健太郎の伊藤は何事にも力まなすぎているので単独ではスベっているが二人合わさればちょうどよい塩梅、と思わせるものは確かにあるのだがそこらへんはTVシリーズで一通りやったのか映画の軸から外れちゃった。

なんか学校ごと近隣の不良高校に間借りする形で越してきた悪者どもにその不良高校で真面目に勉強してる非不良生徒がイジメられる話だったな、映画の軸は。そこにレギュラー陣が絡んできて、たぶんまぁ皆様お馴染みの的な、TVシリーズの延長線上のオモシロをやってるんだと思いますが…まぁシナリオが悪いよね。全然そこが有機的に結びついてなくてさ、ショートコントみたいにネタを繋げてるだけだよね。それもコントだけ繋げていれば笑えるものの主軸がイジメ話なわけじゃないですか。

いや笑えないっしょ。冷めるよ。劇的に冷める。福田雄一らしいテンポの悪さと筋運びの無駄の多さも相まって陰湿なイジメの印象ばかり残るからギャグシーンになっても笑えねっての。逆に福田雄一は陰湿系のミステリーとか撮ったら上手いのではとか思っちゃったよ。またこのイジメられる生徒役の泉澤祐希が福田雄一の映画にあるまじき繊細な演技をしているものだからなんとも辛い気分になり…絶対そういう映画じゃないだろ! 絶対シリアス配分間違っただろこれ!

最初はですよ、これはたぶんTV版のオープニングを踏襲してたりするんでしょうけれども三橋と伊藤がライブハウスのステージに立ってさ、バックバンドにライバル(?)不良コンビの今井と谷川(仲野太賀と矢本悠馬)、バックダンサーにカワイコチャン兼スケバン枠の橋本環奈と清野菜名を従えて「男の勲章」を歌うわけですよ。盛り上がるよね。私を含めて福田雄一の映画を観る観客に脳みそなどないですからその時点で既に空になってるわけですがさぁ頭カラッポにしてたのしもー感があるわけですよ。

でも蓋を開けてみたら妙に生々しいネチネチした話が続くの。いやいやいや…でも福田雄一の映画って案外そういうところあるよな。『銀魂2』とかだってギャグ映画でカラっと終わらせちゃえばいいのになんか辛気くさい話ダラダラやってたよ最後の方。TVシリーズならずっとふざけててもいいけど映画ならちゃんと人間ドラマっぽいことやらなみたいな気負いっていうか負い目があんのかな。その意味では悪者高校のボス役の二人、栄信と柳楽優弥はなかなかちゃ~んと怖い不良感が出ていてよかったかもしれない。

栄信さんという人は詳しく知りませんが空手をやってた人だそうで。見た目も怖いがアクションも付け焼き刃ではない。で柳楽クンは『ザ・ファブル』とかもありますけれどもやっぱり『ディストラクション・ベイビーズ』で仕込んだリアルファイト所作ですよ。いや~柳楽クンの喧嘩っぷり、キレてたね~。惜しむらくはそのキレがアクションシーンにあまり興味がないっぽい福田雄一によってさして活用されることもなく、三橋との最終決戦もすげー呆気なく終わってしまうことだ。役者を大事にするのかしないのかよくわからん福田雄一である。

あと今井&谷川のコンビもよかったな。一本だけならスピンオフを観たいぐらいよかった。今井を演じる仲野太賀のコメディアンっぷりはちょっとした発見だったし、谷川を演じる矢本悠馬のチンピラ芝居は『賭ケグルイ』などで確認済みではありましたが、いやこの人の醸し出すリアルとケレンの入り混じったチンピラ感は見事だな~。主人公の二人は例外として不良っぽい不良が大量に出てくる映画ですが、実はその中でいちばんリアルに不良っぽいと思ったのは矢本悠馬で、なんつーんすかね、なんとなく不良になっただけで積極的に悪さをしたいわけじゃないし、かといって真面目になんかやるつもりもないし、屈折しているのだけれども深刻な屈折ではなくて、ただ漫然と青春の日々を浪費することの虚しさに気が付いてもいるけれど、別にそれが嫌なわけでもない…みたいな。こういう微妙な不良っていますよね。

だから、各キャラは面白いわけですよ。それをシナリオと演出で捌ききれてないのがダメだったんじゃないすか。別にダメってことはないけどさ。それなりに面白くは観たけれど、でももっとハッピーでバカでアゲアゲなやつを勝手に期待してしまっていたんだよ俺は。

※ヒロインポジションの清野菜名だってちゃんとアクションができる人のはずなのにほとんどその身体能力が活かされず大いに不満だった。

【ママー!これ買ってー!】


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柳楽クンの本気はこんなもんじゃないっていうのが『ディストラクション・ベイビーズ』を観ればわかる。

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