音楽たのしいよ映画『パティ・ケイク$』の感想(多少のネタバレ気にしない人向け)

《推定睡眠時間:0分》

それネタバレじゃねぇのっていう懸念なんかポイしてまだ本編見てない人はまず上の劇中ナンバーMVを見てくれ見るべき見て下さい。
どうすかこれ。どうすかこの絶妙なヘッポコ感。どうすかこの耳にこびり付いて離れないデアボリカル・ボイスでピービーエヌジェイピピービーエヌジェイ! ニコ動にありそう(ウケそう)

PBNJというのはニュージャージーの自称ラップ女王的な主人公パトリシア・ドンブロウスキー a.k.a パティ・ケイク$ a.k.a ダンボ a.k.a マリリン・マンション a.k.a キラー・P率いる四人組ラップユニット。
上のMVがそのデビュー曲的なやつなので早速PBNJはCD-Rに焼いてメンバー写真撮ってジャケット作って500円で通行人なんかに売ろうとするが売れないし今時CDかよ的なツッコミが入る。

ヘッポコい。ジャケットはインディーズレベルで頑張って作った感があったがCDのレーベルプリントまでは機材的にも資金的にも不可能だったためケースを開けるとCD-Rの白いレーベル面にマジックで曲名とユニット名が書き殴ってあるのが見える。これはヘッポコい。
ヘッポコいが、しかし。この曲が誕生した瞬間の高揚はすごかったんだよ。音楽ってこれじゃんぐらい思ったよな。音ってこんなに楽しいんだ。俺たちも音楽できるじゃん!

これなんですよ『パティ・ケイク$』。『8 Mile』みたいなラップ成り上がりムービーみたいのかと思って観に行ったんですけど違ったよそういう感じじゃないっすね。
なんか殺伐としてないんです。ほのぼの。キュート。子どもの遊びの延長。いやこれディスってないからそれが良いんだよって話だから。ドラッグ売ってるやつとか出てくるけどドラッグストアの店員だから。ストリートの駆け引き的なやつとかねぇから。

ストーリー。丘から眺めれば大都会ニューアークはすぐ近く。想像力で補正すればその先にはニューヨークの摩天楼だって見える。でも腐れ地元から出たことも出るアテも出るためのスキルも金もなにもない底辺フリーターのパトリシア・ドンブラウスキー否キラー・Pは大親友のドラッグストア店員ジェリといつも店内でラッパーごっこをやって店長から怒られたりしている。

夢はデヴィッド・リンチの映画に出てきそうな怪しい邸宅に住んでいる東海岸のラップ帝王・OZのプロデュースでデビューすること。そして酒浸りの母親の介抱をしながらバイト先の加齢バーでジジィの下ネタとカラオケを聞き流すだけのつまらん毎日から抜け出すこと。
俺とお前なら必ずできる! 大親友の根拠不明の自信と無責任なアジテーションに乗せられてラップ道を邁進するキラー・Pだったが現実の壁はあまりに厚かった…。

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とこのようにあらすじを書くとラップ残酷物語っぽいのだが内実はキッズ映画なんである。どうキッズ映画か。突如として町に現れた正体不明の悪魔的トラックメイカーが墓場脇のトンネルに消えていくのを目撃したキラー・P(23歳)。
何者だか知らないがあいつには才能がある。あいつのトラックさえあれば…後を追おうとするキラー・Pだが思わず二の足を踏む。そのトンネルは地元キッズから“地獄トンネル”の名で恐れられている怪奇スポットだったのだ。

それからキラー・Pはジェリに地獄トンネルに来るよう応援要請をかけるのだがこれ完全キッズ映画でやることだろう。人を寄せ付けない怪しげ転校生が地元キッズの寄りつかない恐怖スポットを秘密基地にしているとかそういう。
秘密基地にしてるとかついバラしてしまったが地獄トンネルの先には悪魔的トラックメイカー(サタニストを自称しているので)の仮設スタジオがあるんである。
仮設とはいえ一通りの機材は揃ってるしボタンをプッシュすると天井からスルスルとマイクが伸びてきたりする(追記:ボタンプッシュでは伸びてませんでした)。これにはキラー・Pもジェリも大興奮ってだからそういうところがキッズ映画なのだ。

キラー・Pと地元のラップ若者たちが夜中に道端でディス合戦的なやつをやっているとポリカー登場。「なにやってるんだお前たち!」「サツだ逃げろ!」
蜘蛛の子を散らすように逃げていくラップ若者たちだったが別に逃げなくてもいいだろドラッグの売買してたわけじゃないんだから…でもガキなのでポリカーが来たらとりあえず逃げるんである(所持してるやつはいたかもしれないが)。
キラー・P&ジェリの夢見るラップ王者というのはそんな場で語られる類のガキの夢で、本気だけれども中身がなくて、情熱はあるけど現実は少しもない。

そういう大人になれない大人たちを温い共感の眼差しで見守るんだからちょっと泣けてしまわないですか。嘘ちょっとじゃなかったですPBNJの曲誕生の時もついにPBNJがステージで曲を披露した時も涙腺崩壊。
ラップの夢がどうとか下克上がどうとか魂の叫びがとかそんなんじゃなくて単純に、音楽をすることの楽しさに溢れていたので。

ジジィのカラオケ、警官のアコギ弾き語り、歌手だったママ・Pが機嫌の良いときにバーで繰り出す本気の歌唱等々とこの町の人間はどいつもこいつも音楽をやるし音楽でゆるく繋がっていたりする、ので、ラップ映画にありがちなというと偏見かもしれないがラップを政治的な、あるいは経済的な武器にする作劇をこの映画はとらない。
悪く言えば現実の社会問題に正面から向き合おうとしないヘタれた空想的な映画ということになるかもしれませんが…エンドロールを眺めながら例のヘッポコなPBNJのデビュー曲を聴いたらもう、何も言えねぇ的な感じなりましたね俺は。

あとババァのキャラは最高なんで。今年のババァ映画は豊作すぎるんで。

【ママー!これ買ってー!】


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キラー・Pとジェリが丘の上に車停めてラップで語り合うところ、あれ『ウェインズ・ワールド』にもあったよな同じような場面が。
やっぱええもんですよ音楽で楽しむことと遊ぶことを全肯定してくれる映画は。シュイーン!

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