【ネッフリ】『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』

《推定ながら見時間:45分》

渋い。これは渋い。『ハイ・フライング・バード -目指せバスケの頂点-』…なんてミスリードなタイトルだ。ミスリードというか皮肉なんだろう。
こんなタイトルなら若手バスケ選手が苦悩しながら成功を掴み取っていくサクセスストーリーとしか思えないが、実際はストリートバスケ上がりのNBAプロバスケ選手のエージェントを主人公にした業界内幕物、メインキャストほぼ全員黒人のブラックお仕事ムービーであった。

しかもバスケもののブラックムービーなのに試合シーンなんて一回も出てこない。というのも映画で描かれるNBAは選手会とオーナー側が諸々の条件面で対立してロックアウト(=経営側にとってのストライキのようなものらしい)の最中、従って試合は休止中だし選手の方でも要求を呑ませるために活動を自粛しているんであった。

ちょっと意外性の塊すぎないか。さすが目の付け所がソダーバーグなスティーブン・ソダーバーグ監督最新作ではあるが、意外性は必ずしも面白さに繋がるわけではないからな。率直に言って困惑感半端ねぇ感じである。
ソダーバーグ映画だから可能な限り説明と感情の起伏を省いているし。それは知らないこっちが悪いとも言えるがアメリカだろうが日本だろうがスポーツ・ビジネスの世界どころかスポーツそのものを見ないからもう、誰が何の肩書きで何をやっている物語なのかよくわからん。困惑感半端ねぇ感じである。

一応わかったのは主人公のエージェントは収入が断たれて身動きの取れないクライアントのために右へ左へとポーカーフェイスで動き回ってなにやら画策しているらしいということだった。
その過程でエージェントは様々なものを通り抜けていく。Netflix、hulu…ロックアウトが解かれないならそっちと契約する準備があるとブラフをかける。差別語、黒人性…一口に黒人といったところで各々の置かれたポジションによってそれらとの関わりの度合いは当然ながら異なる、温度差がものすごい。選手の失言とSNS(ツイッター)での拡散…風刺っすねぇ。

ロックアウトを巡ってステークホルダーがガシガシ入り乱れるシナリオは会話を追っていくだけでも骨が折れるが困ったことに即興的な撮影アプローチを採用してしまっているので映像はドライを越えて無印良品。
会話シーンは基本的にアップも引きも移動もなにもなく淡泊なピンポン的な切り返しオンリーで何の面白みもなく処理される。ので、目から入ってくる情報が極端に少ない。ただでさえ要解説な会話ばかりなのにそれだけで物語を理解しなければいけないのだから見た目以上に硬派な映画であった。しかも時系列とかいじるしな…。

でもつまらなかったかと言われればそうでもなくて、こんな地味なバスケ映画はたぶん他にないので新鮮な気持ちで見れたりはする。
抑制されたブラックユーモアもソダーバーグ印で良い。抑制されすぎて笑うところなのかそうでないのかほとんど判別できないが、老コーチの言動には笑ってしまった。

ところでソダーバーグ引退表明してたんじゃなかったっけと思ったんですが、これ見るとなるほど感があるっていうか、華やかなスポーツの世界の裏側の少しも華やかじゃない面倒な人間関係、契約、駆け引き、金、金、金…が描かれるわけですが、これたぶんハリウッドでの映画作りでソダーバーグが経験したことが反映されてるよね。

こういうのが馬鹿らしくなってソダーバーグ引退するっつったんだろうなぁと勝手に想像すると、簡素にして乾燥の甚だしい映画ですが、Netflixで配信されたことも含めてハリウッド映画産業に対するソダーバーグの遠回しな嫌味を感じて面白かった。

2019/215/15 追記:
書き忘れていたが見逃してはいけないポイントとしてほぼほぼ黒人キャストの中オーナー(?)はカイル・マクラクランなので白人、主人公のエージェントの上司も誰か知らないが白人。
物語の背景には業界を牛耳っているのは白人じゃねぇかっていう人種問題があり、その中で黒人エージェントの下克上を描くのだからバスケ映画とかお仕事映画である以上に政治的な映画、スパイク・リーが監督していないのが不思議なほど純度の高いブラックムービーなのだった。

バスケ題材のブラックムービーとくればこれは俺の超偏見であるが白人に比していかに黒人の身体性が優れているか、という点を前面に打ち出すある意味マルコムX的黒人性の発露がベター。
しかしこの映画で描かれるのは徹底してビジネスの世界で白人とやり合う黒人と、白人経営陣に加えてそうした白人的な黒人ビジネス人種にも利用される黒人スポーツマンの姿で、ここには黒人=スポーツの偏見的眼差しに対するカッコたるアンチの姿勢が見えるのだった。

それを含めてこのミスリードなタイトルと思えば、かなり戦略的な映画と言える。そこらへんはやっぱソダーバーグなんである(サブタイは邦題オリジナルですが)

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