呪い家映画『ウィンチェスター・ハウス』の感想(ネタバレあり、わりと見た人向け)

《推定睡眠時間:10分》

ゾっとしてしまったのは最後に出るテロップを見た時で、そこには恐ろしいことは何一つ書かれていないが、であればこその恐ろしさというのもある。
その要旨。1906年のサンフランシスコ地震は一帯に甚大な被害をもたらした。主のサラ・ウィンチェスターはその後も屋敷の改装を続け1922年に没した。ウィンチェスター邸はアメリカ有数の呪われた屋敷である。

サラを厄介払いすべくウィンチェスター社に雇われた精神科医の力を借りて彼女が命からがら退けたと思った屋敷の呪いは結局、終生消え去ることがなかったわけだ。じゃあ怒った怨霊のビッグポルターガイストによって半倒壊状態になってしまった屋敷での決死のゴーストバトルはなんだったというのか。
なんだったもなにも地震である。ビッグポルターガイストと見えた現象は単に地震であった。地震と闘っても呪いが解けないのは道理だ。

こわい。これが、なんとなくイイ話っぽく終わってしまうからこわい。あのプライスという精神科医は最初こそ怨霊に(思考が)取り憑かれたサラの言うことを信用していなかったが、屋敷の異様な環境で時を過ごすうちに段々と思考がサラ寄りになってきてしまって、ついには幽霊の存在を確信してゴーストバトルに加勢する。
この精神科医には自らの診断によって妻を死に追いやった過去があった。あの時に妻の言うことに耳を傾けていたら…というわけで患者たるサラの妄言を全面的に信じることで無意識的に罪滅ぼしをしようとする精神科医だったが、地震はそうして怨霊の怒りに転化して、呪いの想念は現実の呪いに姿を変えるわけである。

ウィンチェスター銃の存在がわりと遠い引き金となった銃乱射事件に大きなメンタルダメージを受けたサラは事件現場を模した部屋を屋敷に作り上げる。
自殺した乱射犯の霊を呼ぶためだったが、この模造の部屋が精神科医のこころを引きつけて最後の一線を超えさせる。模造の部屋。野放図な増改築によって屋敷に付け加えられた(そしてそのうち解体される)温室は精神科医の妻が自死したその場所の模造であった。

でもどうしてサラがそんなことを知っていたというのだろう。それはもう知らなかったと言うしかないし、模造の部屋でも別になかったと言うしかないし、それでもサラ同様に加害の過去に苦しむ精神科医の目にはそう見えてしまったし、その自己暗示的な空間と状況が彼に妻の霊を見せてしまった、と言うしかない。
幽霊を信じる人間だけが幽霊を見ることができる。信じられないイリュージョンの裏には取るに足らないタネがある。今そこに居たはずの幽霊が、次のカットでは何故か見えない(しかし精神科医とサラには確かに見えている)

少なくとも科学的な意味での幽霊や呪いの不在はあっけなくも映画の初めから明示されているのだった。その、存在するはずない幽霊が、呪いが、どのようにして現実となって人を縛り付けるのか、という過程の映画と見えてきちゃったらもうそりゃあなんでもない最後のテロップもこわくなっちゃうんだよ。とても。

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この理知的な作りはちょっと『プリデスティネーション』を思わせるスピエリッグ兄弟監督作だ。やってくれますなぁ毎回。こういう形で幽霊とか呪いの怖さを感じる映画だとは思わなかったよ。
精神科医の名前がプライス。実在の人の可能性もあるが創作ならヴィンセント・プライスのオマージュだろう。神経症的なドクター系キャラといえばヴィンセント・プライスの十八番。そのような線をやはり狙ったのでは。神経症的な。

見た目は正調ゴシック・ホラーという感じでいやこれがなかなか魅せるんですよ。燭台の火がふっと消えるところとかゾワゾワするよね。長編デビューの『アンデッド』に回帰したような薄暗いブルーの色調もムードが出ていてよいよ。
カタコトゴンゴン昼夜問わず鳴り続ける工事音がゴシックなムードをぶち壊すが、そのノイズがキュっと途切れた時の静寂のこわさ。俺は勝手に迷宮ハウスから出られなくなる映画だと思っていたが違ったな。好きに外に出られるしそこらへんに人も結構いる。でもだから急に人の気配が消えるとこわいっていう。

ヴィンセント・プライスのオマージュというのもそうですがこのへん古典的な屋敷ホラーを結構もろもろ彷彿とさせるところ。
『たたり』とか『ヘルハウス』とか『家』とか(『家』は古典かどうか知らないが…)それから『シャイニング』っぽい感じもある。
『たたり』なんか顕著ですけどアメリカン屋敷ホラーというのは基本的には心理ホラーで、具体的な恐怖の対象が主人公の外にあるのではなくて、その不安定な内面とか後ろ暗い過去が外界に恐怖を映し出すという形を取りがちじゃないすか。

『ウィンチェスター・ハウス』の場合はもう少し現代的なお化けビックリシーンで味付けされていたと思いますがベース部分はそういう意味で古典の風格漂う、というのは少し大袈裟かもしれませんがー、しかしまぁともかくとてもエレガントで知的なよくできた屋敷ホラーだなぁとは思いましたね。
あぁこわかった。テロップの後に一瞬だけ出でくるサラ・ウィンチェスター本人の至って平凡なポートレートまでなんか知らんが網膜に焼き付いてしまうな。呪いの印象を伴って。

【ママー!これ買ってー!】


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スティーヴン・キング脚本(兼・製作総指揮)のウィンチェスター邸ネタものホラードラマですが基本ぜんぜん怖くないのでびっくりする。

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※これはこれでウィンチェスターの呪いのお話

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