アメリカこわい映画『リグレッション』感想(ネタバレ全力)

《推定睡眠時間:15分》

なかなか力作感のある面白いホラー/ミステリーだと思ったのですがどう面白いかというのはネタバレをしないと書けないのでさっさとバラす。
ネタバレが波及する可能性があるのでタイトルは出しませんがつまり今年はなぜだか多かった恐怖はいかにして作られるか系映画。

隠れクリスチャン刑事イーサン・ホークの管轄であやしい事件発生。アメリカ田舎(ミネソタ州)によくあるアル中オヤジが娘を暴行したとかそういう話らしかったがこのオヤジが暴行時の記憶がないとか言いだす。
罪状否認か、と思いきや記憶はないけど私やったよとオヤジ。はぁ? 記憶ないのになんでそんなことわかるのよ、おかしいじゃない。

そんな風に刑事イーサンがいくら追求してもオヤジはいや、でも、うーん…みたいな感じで要領を得ない。
不可解なのは曖昧回答を繰り返しながらもオヤジは弁護士を呼ぼうともしないし自己弁護もしない。
責任能力ナシと思わせる戦略だろうか。にしてはハッキリと物を言いすぎる。よくわからん。

時代設定は90年代。ということで著名らしい一人の心理学者(デヴィッド・シューリス)が呼ばれる。彼曰く退行催眠によって記憶を呼び覚ませば万事解決とのこと。90年代的犯罪捜査だ。
十字架型のメトロノーム(かっこいい)のチクタクチクタクに合わせてオヤジの意識を事件当夜に誘導する刑事イーサンと心理学者シューリス。

あぁ…あぁ! み、見えてきたぞ! 見えてきました! 映像は警察署から切り替わってオヤジの意識の中へ。
『ロスト・ハイウェイ』とか『インランド・エンパイア』を思わせるところがある不穏なアメリカ一軒家の主観移動映像は、暗示的な赤いランプシェードを通過して被害を訴えた娘(エマ・ワトソン)の眠る部屋に向かう。

あぁ…あぁ! な、なんてことだぁぁぁ! 大興奮のオヤジが退行催眠の中で目にしたものとはいったいなにか。それは刑事イーサンの同僚が娘をロープで縛り付けてオヤジの見ている前で「儀式」を行う光景であった。
警察の腐敗案件か。憤りと動揺を隠せない刑事イーサンであったが、しかし事態は思わぬ方向へローリングしていく。

万能十字架メトロノームで今はプロテスタントの教会で養生中の娘本人から事件当夜の記憶を引き出そうとしたところ、なんとそこから出てきてしまったのは赤ん坊を屠ったりする最凶悪魔教団の世にも邪悪な儀式だったのだ…!

茶番である。茶番であるが茶番も積もればガチになる。フェイクも積もればファクトになる。妄想も積もれば現実に…というわけでつまりそれがおそろしいよねという話なのだった。

一家には家を飛び出して半絶縁状態の長男がいるらしい。ということで刑事イーサンと心理学者シューリスが話を聴きに行くと門前払いに近い拒絶っぷり。うるさいうるさい、家族のことは話したくない!

君、それは明確なトラウマ反応だ。君もオヤジから虐待を受けていたんだろう? 名探偵っぽく威厳と説得力たっぷりに指摘する心理学者シューリスであったが事実はこの息子、ゲイだったので例の教会の牧師から悪魔の手先呼ばわりされており、そのことで家族関係にヒビがが入って家を飛び出したのだった。

捜査に暗雲が立ち込めてくる。刑事イーサンは信じていた。この事件が単なる虐待でも強姦でもない悪魔教団の犯行であることを。
なぜなら心理学者シューリスが退行催眠によって次々と恐ろしい真実を引き出していったから。テレビが恐ろしい悪魔教団が全米を跋扈していると喧伝していたから。
そして息子も孫もすべて失って家に一人取り残された問題の一家の祖母が謎の転落事故に遭ったから。原因は心労が祟ってのパニックとかだったっぽいが。

なんだか京極堂のような話に思うが京極堂シリーズにおける京極堂のような存在がこの映画には出てこない。
どころか京極堂ポジションであるべき理性の人、心理学者シューリスが単純な事件をどんどん妄想方向に膨らませてしまうので関口くんポジションな刑事イーサンの混乱は止まらない。

狭い田舎人間関係の中で肥大していく妄想の渦の中で壊れていく刑事イーサンを救ったのはあまりにも馬鹿げた単純な事実であった。
刑事イーサンがいつも通っているダイナーの真正面に設置されているビルボードに描かれたシリアルの広告の老女。彼女こそ刑事イーサンが悪夢に見る事件の妄想首謀者であった。

『スリー・ビルボード』に続いて(こっちは2015年の映画ですが)またもやビルボードがアメリカ田舎の狂気と真実を暴き出す。
俺があの老女を夢に見ていたのはいつもダイナーで飯を食った後に無意識にビルボードで目にしていたからだ…被害者の娘が悪魔教団の存在を口にしたのは彼女がテレビや本で悪魔教団の恐怖を何度も見ていたからだ…。

何者かにいつもつきまとわれているような気がする。パラノイアに陥る刑事イーサンだったが、果たしてそのいつもつきまとっている何者かというのは刑事イーサンによって加害者扱いされたことを根に持った例の同僚であった。
悪魔教団の暴行魔だなんて噂がたったら暮らしていけるか! こんな田舎で! 嫌疑不十分で同僚は釈放されていた。彼がなにをやったかといえば、被害者の娘と関係を持って子どもを孕ませ、秘密裏に堕胎させたのだった。儀式。

刑事イーサンは悪魔教団の存在を信じ込んでいたが当の被害者の娘はそうではなかった。こんなつまらない田舎環境から抜け出したい一心で、こんな糞みたいな家庭環境をぶっ壊したい一心で、ふたつ出ちゃったから一心ではない気がするがともかくそのために悪魔教団の噂を利用していたんである。

最後に残った謎はオヤジの沈黙だ。なぜオヤジは語らなかったのか。お前が正直に真実を語っていればこんなに事件は拗れなかったのに…。
映画の最後になってオヤジはようやく語り出す。だってそれは家族をめちゃくちゃにしてしまったのは私だからですよ、酒ばっか飲んで妻を自殺に追い込んでゲイの息子を守れなかったから。私が罪を認めて罰を受ければ娘も息子も救えるはずだ…もう遅すぎるかもしれないけれど。

オヤジとの面会後、刑事イーサンが拘置所を出るとそこは世界の果てのような美しいが辺鄙な海辺。そのマジックアワーのファジーな空色はなにか現実と空想の境を失わせてしまうところがある。
いつものダイナーのテレビにはあの娘が牧師とともに映っている。悪魔教団に気をつけてください。悪魔教団はあなたの身近にも…。

閉鎖的な人間関係、信仰の盲目と文化的支配、アルコール依存と壊れた家庭、マスメディアが垂れ流す真偽不明の情報の洪水、合理性の追求が不合理な現実を妄想にすげ替える精神分析、巨大なビルボードのサブリミナル、現実との接点を失わせる広大な田舎風景、その複合体の巨大な恐怖から逃げだそうとして、巨大な妄想複合体を作り上げてしまうひとびと、の恐怖。

アルコールへの逃避をやめて現実を直視しようとしたがために狂気と見なされてしまったオヤジの贖罪でその妄想が少しでも晴れればいいなぁと思いつつ、ありもしない罪の創造はまた別の妄想の材料になったりもするんだろうと苦い後味。

ぶっちゃけ理に寄りすぎている感じの映画なので悪魔教団超こええとかならないのがホラー的につまらなく感じたりもしたが、いかにもラブクラフト的邪教の蔓延ってそうな寒々しい田舎風景を下地にした暗示的画作りと、イーサン・ホークの精神崩壊っぷりがたいへんよいかったので、あとエマ・ストーンの表情の揺らぎとかデヴィッド・シューリスの胡散臭さとかよかったので、こわおもしろかったです。

【ママー!これ買ってー!】


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アメリカ映画にとってのビルボードってなんなんすかね。

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