途中まで傑作映画『コカイン・ベア』感想文

《推定睡眠時間:10分》

アメリカB級映画界に空前のコカインブームを巻き起こし『コカイン〇〇(動物名』が粗製濫造させるキッカケとなったというなんとも不謹慎な映画がついに日本上陸ということなのだがどこのバカがこんなの考えたんだと思ったら監督がリブート版『チャーリーズ・エンジェル』のエリザベス・バンクスであんた映画監督としてのキャリア形成ぜったい間違えてるよ! と思うのだがキャリアなんか気にしないその姿勢、バンクスならぬパンクスでカッコいいと思います。ちなみにバンクスは今作で製作も兼任。決して雇われ仕事ではない。

内容は…まぁコカイン食った熊がラリって無敵化して人を食いまくるという出オチのようなものだが、出自も目的も異なる様々な人々がコカイン熊の徘徊する森へやってくる序盤はまるで70年代パニック映画のスタイル、そうそうパニック映画ってこれじゃないですかと嬉しくなる。最近はディザスター映画に押されてパニック映画というジャンル自体が希少種となっているが、ディザスター映画って登場人物を主人公ら何人かに絞りがち。それは様々な災害に対して人々がどう立ち向かい状況を打開するかという点に比重が置かれているからなんですな、俺の見解によれば。対してパニック映画はもっと群像劇的、受動的で、特定の場所に偶然居合わせた多数の人々をどんな災難が襲うか、というその点に比重が置かれている。だからディザスター映画はアクション映画と親和性が高くて、パニック映画の方はホラー映画と親和性が高い。

アクションとホラー、どっちも大好きではあるが、アクション映画寄りのディザスター映画ではその構造上どうしても災害の恐ろしさが真に迫って感じられないところがあり、その意味では災害・災厄の恐ろしさがそれに見舞われる人間たちのアクションに勝るパニック映画の方が見世物として楽しい。この『コカイン・ベア』はホラーというよりはあくまでもブラックコメディであり、同時にアクション性の方がホラー性よりも全然高いのだが、その導入部に関してはわぁ、いかにもパニック映画の導入部! という感じでわくわくさせられてしまうんである。

そのわくわくは見かけ倒しではなくパニック映画において登場人物が多いとは即ち死んでも構わない人がたくさんいるということであるからして、以降コカイン熊さん約8分に1人のコカインでラリっているという以外は一般のどうぶつにしてはかなりのハイペースで人間ガブリ、それも老若男女問わずの無差別爆食で「この人はなんか見せ場ありそうだから生き残るだろ」と思われた人物もどんどん食っていく。コミカルな映画ではあるがその無差別性が効いて次に誰が食われるかわからないサスペンス。そこにコカインをうっかり森に落としてしまったギャングたちとそんなこととはつゆ知らず森を訪れた警官の対決なども加わって状況は混戦模様、うひゃひゃこりゃおもしろい、『トレマーズ』以来のどうぶつパニック・アクション・コメディの傑作だな!

と、思ったのは映画の折り返し地点までで、以降コカイン熊さんもさすがに食べ過ぎて胃もたれ気味なのかほとんど食事を摂らなくなり、ギャングとその他の人々のドラマも盛り上がりに欠いてクライム群像劇的な面白味も引いていく、更には序盤には小学生にコカインを食わせて吐かせる威勢の良いブラックジョークも軽々カマしていたのになんか終盤に入ったら笑えるところも全然なくなってしまった。もちろんパニック映画的なドキドキ感なんか微塵も残らないわけで、この落差よ。なんだかんだイイ話に落ち着けようとしてせっかくの楽しさが台無し。どうせバカネタなんだから最後まで不謹慎に突っ走ってほしかった。

こうした構成の難は基本的には脚本家ジミー・ウォーデンの問題だろうがエリザベス・バンクスの前作『チャーリーズ・エンジェル』も途中からの失速が結構目立ったのでこの監督のやってしまいがちなことなのかもしれない(可愛げのないガキどもとかキャラは良いのだがその良さが展開の中でいまいち発揮されないというのも前作同様)。まぁ大変よね、ちゃんとした話っぽくオトさないとスタジオが納得しないとか批評家が評価しないとかそういうのもあるんだろな知らんけど。モラル的な面では相当に保守的なのがハリウッドとその周辺である。その環境下でコカインまみれの熊が老若男女食いまくるという映画を成立させたというだけでもすごいことなのかもしれない。

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前の映画版のような突き抜けた感じはないもののこれはこれでなかなか楽しいスパイ映画だったのだが日本公開がコロナ禍初期と重なったため興行は壊滅。せめて配信かなんかで観てやってください。

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