子供はどうぶつと一緒に育てろ映画『ルー パリで生まれた猫』感想文

《推定睡眠時間:15分》

開始即ネコチャンそれもいっぱいネコチャンという禁じ手の先制攻撃に俺のメンタルは映画館のリングに伏した。お前ら勝てればなんでもいいってのかよ…汚ねぇ…義理も人情もここにはねぇのかあ~モフモフ! モフモフ!! 天窓を開けてた屋根裏部屋に勝手に侵入の生まれたてほやほやネコチャンズの目線の高さでカメラはネコチャンズの夜の営み、すなわちいろんなものを倒しながら部屋を跳び回ったり走り回ったり外に出てネズミチャンを追いかけたりを捉える。夜の営みといっても別にエロい意味ではない。まぁもっと大人になって発情期になれば違うかもしれませんが。

とにかくこの冒頭がサイコーだ。俺の中でフランスは『皇帝ペンギン』など人間の吹き替えで勝手に動物の心情を代弁するどうぶつ映画を作る国としてどうぶつ吹き替え超大国アメリカと並び悪名高いが、この映画は吹き替えなし、ネコチャンはあくまでもネコチャンなのである。そのうえカメラポジションをネコチャン目線にまで落としてその一挙手一投足を捉えるというわけでどうぶつ観察の妨げになるノイズがない。どうぶつ映画最大のノイズ、それは人間である。どんなにすばらしいどうぶつたちも人間目線で眺めれば途端につまらなくなってしまうというのはよくあることだ。ハトさんのことを考えてみたまえ。みなさんが出勤途中でガン無視していくかたまにビニール傘で失礼にも払ったりするあれである。

所詮人間の目線では都会のハトさんなど害獣一歩手前の地面の染みかもしれないが…そんな下らない人間目線など捨ててハトさんを眺めればなぁんと愉快でかわいらしく興味シンシンないきものなのでしょう! 座るハトさん! 歩くハトさん! 階段を降りるハトさん! 羽根を干すハトさん! 羽根繕いをするハトさん! 花の芽をつつくハトさん! 電線の上のハトさん隊列! クークークルック――! よく見れば一匹一匹すべて模様や羽根の状態が違ってこんなに大興奮ないきものはないというぐらいなのだ。こうしたハトさんのすばらしさは人間が人間の目線を捨てることまではできなくとも一旦どこかに置いておくことで初めて発見できるものだろう。そしてそれは当然ハトさん以外のすべてのどうぶつにも言えるわけである。

まぁだからね、うん、ネコチャンの目線のネコチャン世界しか出てこない序盤はこの映画たいへんよかったんですが映画が進むにつれてどんどんネコチャンの飼い主になった少女とその家族の物語の方にカメラはシフトしていってそりゃ意図はわかりますよ意図は、少女の成長とネコチャンの成長を重ねてネコチャンのお世話をすることで少女は成長に伴う様々な痛みを乗り越えていくみたいな、みたいなそういうね、うんみたいな! 児童映画だね! 少女が家出したネコチャンを探して森の中に入ったらイノシシさんっぽいどうぶつに追いかけられて死にそうになり自然を甘く見るんじゃないよ、それは人間にとって危険なばかりでなく自然とそこに生きるどうぶつたちにとっても危険なことなんだ、アタシがアンタを助けた代償にイノシシさんがどうなったか目をそらさずによく見てごらん! っていう感じの教育的シーンもあったし!

そういう児童映画として描写も自然でドラマもサラッとしてて悪くないと思ったんですがでもなー、先制ネコパンチ食らってるからなーこっちはなー。うわぁ! ネコチャン視点のネコチャン映画! とウキウキしてたら普通に主人公の少女の話になっちゃうんだもんなー。まぁよいでしょう。ネコチャンのお芝居、というかおそらくはネコチャンをある程度自由に遊ばせてるところを大量に撮ってその中から絵になるカットを抜き出して切り貼りして物語性をもたせてるので芝居っぽい仕草は少ないのですが、ネコチャンのお芝居はたいへんにたのしかったですし(餌やりマシーンとの格闘はまことに達者でございました)、逆にネコチャンのお芝居にオマケとして爽やかな女児の成長ドラマが付いてくるのだと思えば断然お買い得パックだ。そういうことにしておきます。

【ママー!これ買ってー!】


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金字塔。

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