音速映画『ソニック・ザ・ムービー』感想文

《推定睡眠時間:0分》

セガ往年の名作群のプレイ映像がスクリーンに広がりカメラが引くと名作群の一つ一つがタイルとなって巨大なSEGAのロゴを成した瞬間2020年最新版にアップデートされたセ~ガ~の声が場内に響き渡って俺の頬を涙が伝った、などというのはSFC→PSルートを辿った人間なので100%のウソではあるがハード事業から撤退しゲーセンは市場規模自体が縮小しオリジナルタイトルでもさほどの存在感を出せているわけではない現在のセガが昨年『名探偵ピカチュウ』を放った任天堂の向こうを張って自社看板ゲーを見事映画化しマーベル映画の如し堂々たるムービングロゴをスクリーンに投影する…セガ縁ない派の俺でもグッときてしまうところだ。

俺とソニックの思い出。とくにない。秋葉原のセガ3号館あたりでトラックボールの付いてる『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』の筐体ちょっとだけ遊んだ。『ゲームセンターCX』で有野がやってるの見た。それぐらい。あと3DSで出てるやつもちょっとだけ借りて遊んだな。それぐらい。

まぁコアなファンなら色々言いたいこともありましょうが…それぐらいなソニック知識の俺からするとこれはゲーム映画の大成功例だと思ったよな。いやもうこれがダメだって言うんならこの世に存在するありとあらゆるゲーム映画がダメだろ。文句の言い所はあるかもしれないが非の打ち所がない。パラマウントの山に『ギャラガ』の敵機みたいな感じで入ってくるいつものキラキラ星が内容に合わせて黄金リングにすげ替えられた冒頭のムービングロゴ演出からゲーム版ソニックの歴史を辿りつつ待ってました二連発の欲張りオマケ映像を展開するエンドロール演出までファンサービスの大出血に手術室直行待ったなし。

こんな程度のくすぐりで喜ぶんだからゲーム好きなんざチョロイもんですなぁと言われれば(言われてないが)確かに反論の余地はない。しかし…しかしだ! あのねスラッシャー映画で人が殺されるとスラッシャー映画好きは喜ぶんです。恋愛映画で人が人を好きになると恋愛映画好きは喜ぶんです。ならば同様にしてゲーム好きだってゲーム版をリスペクトした映像がふんだんに流れれば単純に嬉しくなっちゃうってもんでしょうが!

いいか! ゲーム映画でゲームの内容をちゃんと尊重した映像が見られることは当たり前のことじゃないんだ! こっちはマリオの映画だと親に騙されて『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』のレンタルビデオを与えられた世代なんだよ! ジャッキー版『シティーハンター』でジャッキーが春麗コスプレで戦う場面を見て育った世代なんだよ! いわばゲーム映画戦後派ですよ! あの時代の貧しく混沌とした闇市に比べれば今のゲーム映画市場は本当に豊かになりましたよね! ゲーム映画でゲームっぽい絵が観られる幸福! それを感じさせてくれる映画が『ソニック・ザ・ムービー』だったのだ…!

でも内容的にはぶっちゃけめちゃくちゃよくあるやつなので観た直後はゲーム映画脱戦後そして脱高度経済成長期さらにはバブル突入の感慨に浸っていたが今はもう結構普通の映画である。人は豊かになると豊かさを感じることができなくなる。悲しいことだ。

とにかく安パイ。駄菓子屋の型抜き遊びでハリウッド映画の型を抜いたような映画だった。駄菓子屋の型抜き遊びはガキの小遣いをいかに搾り取るかのみを考慮してユーザビリティなど一顧だにしない超絶難度なのでここまで綺麗に型を抜かれればその職人芸に心の中でスタンディングオベーションをするほかないが、普通は普通である。

映画の設定としてはソニックは自然と走路豊かな別の星(ゲーム版『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』のグリーンヒルゾーンに相当)からやってきた地球外ハリネズミ。故郷で楽しく音速走行していたが悪そうなやつに追われたのでリングの力で地球にワープ、住人100人くらいのアメリカ片田舎・グリーンヒルに降り立って森の中で暮らしてる。暇があればそこらを人知れずというか人見えず走り回ってるので地元の名物どうかしてる親父にUMA扱いされたりしている。人語は解す。

それなりに楽しい日々を送っていたソニックだったがやっぱり森に隠棲する孤独生活はつらい。というわけで音速を活かして全ポジション一人でこなす一人野球をしながらイライラ電気を発してしまったところすわEMP攻撃かと米軍勘違い、マッド・サイエンティストを雇ってソニックの追跡を開始したのでまたもや追われる身となったソニックはグリーンヒルの無気力保安官と一緒に逃亡の旅に出るのであった。

孤独な人外と無気力保安官、それを追うマッド・サイエンティストか。どこまでもどこまでもどこかで観たことのあるような組み合わせと展開だ。保安官のススメで地球でやってみたいことノートを作ることにしたソニック(リングパワーで気持ち悪いキノコだけの星に逃げるつもりだった)が音速でそこに大量の項目を書き込み音速で消化していくと残った項目が「親友を作る」。どこまでもどこかで観たことのあるような場面だ! 音速だから時間のほぼ静止した空間でイタズラし放題の図とかはX-MENのどれかの映画でクイックシルバーがやってたしな!

こう型にはめられると観る側も驚きとか皆無なのでこうなってこうなってはいこうなるんでしょってなわけでわりと途中からダレてきてしまうし、今回は続編ありきのキャラクター紹介編的な側面が強いので大した見せ場もなく、映画が始まって終わるまでの間に超速でゲーム戦後からバブル期まで駆け抜けてしまったこちらとしてはやはり内容的には食い足りない。

どちらかと言えば面白さの核はその超典型的ハリウッド話型にどうゲームを乗せるかというサブ的なところにあった。たとえば、ジム・キャリー演じるマッド・サイエンティスト(DrエッグマンなのだがDrエッグマンではないんだなこれが。ふふふ)がソニックと保安官の乗った車を追跡しながらチマチマとドローン攻撃を仕掛けてくるという場面があるが、このチマチマ感はステージの爽快感に反して作業感の強いソニックのボス戦そのもの。ソニックが秒で海に入って秒で海藻とかにまみれて帰ってきて「あんなところに入れるか!」と不平を述べるのはゲーム版に海藻の生えた息継ぎポイントに到達する前に溺死すること多数の苦しい水中ステージがあるからである(と思うよ)

そのように見ていけば定型作劇の食い足りなさもある種の観客やりこみ要素の土台として機能するのでなかなか巧妙な映画だ。「気持ち悪いキノコだけの星」は『ソニック&ナックルズ』のマッシュルームヒルゾーン(※たった今グーグルで検索しました)を指しているのかもしれないし、ダブルミーニング的に任天某の某キノコアクションの世界をネタにしたゲームジョークなのかもしれない。劇中でソニックが大好きな映画はキアヌ・リーヴスの走り出したら止まれない『スピード』だが、その爆弾魔役が『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』の悪役だったデニス・ホッパーというのは…と、トリビア的深読みは尽きない。

ソニックにとくに思い入れのない俺としてはもっと表面的にカウボーイ酒場のチャンネーがエロくてよかったとかソニックのデザインが超カワイイとか超カワイイけどおそらくゲーム版から離れたヤンチャな性格は整形前()のオクラソニックのままなのでこのセリフを整形前のあの姿で喋ってたんだなぁ…と思うと多少可愛さが減じるとかそういうところが面白かった。あ、あと最近のファミリー向けハリウッド映画にしては珍しくちゃんとリアル動物を出してるのもよかったですね。アライグマとか亀とか。ゲームとは違うグリーンヒルですがあののんびりとしたアメリカのグリーンヒルも好きよ俺は。

とまぁそんな感じで、なんだかんだ楽しい映画でしたよ。超速ソニックがしまりのない相棒保安官と一緒にあえてノロノロ運転で旅するところなんか泣かせるじゃないですか。Drエッグマンというよりジム・キャリーを怪演するジム・キャリーがDrエッグマンに生まれ変わる瞬間はおおって心の中で声出すね。ソニックが間に合わせの靴を脱ぎ捨ててお馴染みの靴に履き替えるエピソードもまたナルホドと膝を打つところで…いや、考えれば考えるほどよくできた映画だ。好き。続編くれ。カワイイし。

【ママー!これ買ってー!】


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インターネットでは完全にネタ扱いですがキッズ当時はそんな風には観てなかったからな。ただ『スーパーマリオ』として観ていたわけでもなくどちらかといえば実写版『ミュータント・タートルズ』の番外編みたいなイメージで観ていた。

↓原作で原点


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