《推定睡眠時間:20分》
今年の映画クレしんは人間に興味シンシンの妖怪たちに招かれて野原一家が妖怪の国を旅するというわかりやすく異文化交流・多文化共存テーマのお話らしく、さすがにもうある程度は慣れたのでそれに対して不満とかはないのだが、何かしらの教育的メッセージは毎作必ず入れていた映画ドラえもんと違って同じシンエイ動画が制作している映画クレヨンしんちゃんは良い意味でのメッセージ性の薄さが少なくとも初期~中期の特徴であったので、今回とてもストレートに異文化交流・多文化共存を訴える映画になっていたことで、今の映画クレしんはそういうコンテンツなんだなぁとか思ったりする。
映画クレしんが初期の本郷みつる・原恵一体制でメッセージ性など知ったことかとある程度好き勝手やれていたのはぶっちゃけ映画クレしんがシンエイ動画内ではB級・格下扱いされていたためであった(A級が映画ドラえもん)。予算もスタッフも納期も映画ドラえもんより少ないのでその分わりと放任主義だったそうな。今は映画クレしんも映画ドラえもんと並ぶシンエイ動画の立派なA級コンテンツである。そのため昔のように作り手が好き勝手やることもできず、A級作品としての品格が求められるんだろう。クレしんがPTAの選ぶ子供に見せたくないアニメの代表格だった時代はもう遠い昔である。
ところで今回、かすかべ防衛隊が珍しくしんちゃんに同行しない。映画クレしんは最初期にはしんちゃん+ゲストキャラの冒険パターンが多かったが、おそらくかすかべ防衛隊をフィーチャーした『嵐を呼ぶジャングル』以降、かすかべ防衛隊のメンバーで物語を回すパターンの方が主流になり、近年の映画クレしんではボーちゃんにスポットライトを当てた昨年の『カスカベダンサーズ』、風間くんとしんちゃんの関係を掘り下げた『天カス学園』など、ゲストキャラや悪役ではなくかすかべ防衛隊のメンバーが中心となる作品が多いし、そっちの方が話題になっている気配がある。だからかすかべ防衛隊が完全に蚊帳の外でしんちゃんと一回も会話をしない(妖怪騒動に巻き込まれる描写はある)今回の映画はアナーキーさは無いとはいえ『ブリブリ王国の秘宝』とか『雲黒斎の野望』とか初期の映画クレしんに近いムードがちょっとあった。まぁ妖怪の国舞台でファンタジー路線だしね。初期の映画クレしんはファンタジーだったわけですから。
そんな点でやや異色かもしれない『妖怪バケ~ション』はギャグが少なく妖怪の国の旅も牧歌的であんまりアドレナリンが出るタイプの映画ではないという点でもやはり映画クレしんとしては異色作ないし野心作だったかもしれない。妖怪の国には人間反対派と人間共存派がいて(1960年代の乱開発により鎖国を決定し人間界と交流を持たなくなったという設定)人間反対派によってひろしとみさえが妖怪にされてしまったのでしんちゃんたちは2人を人間に戻すために妖怪の国を旅するわけだが、何日後には永久に人間に戻れなくなるという時限設定があるわりには途中で出会った妖怪草野球チームととくに意味もなく草野球を10分ぐらいしたりする時間配分で、そこに緊張感やドライブ感はまったくない。
異文化交流・多文化共存というテーマからすれば、おそらく作り手が見せたかったのはそういうものではないんだろう。アクションやサスペンスやコメディではなく、他愛のない妖怪と人間の交流、これである。過度に情緒的になることなくほんのりユーモアを漂わせての妖怪道中と妖怪交流は夏休みらしい倦怠感とノスタルジーも合わさってなかなか良く、このへん変に話題性のある他分野のスタッフとかではなく監督が『カスカベダンサーズ』で演出/絵コンテだった渡辺正樹、脚本が代表作が何かはわからないがほぼテレビアニメ専門で60本以上の作品にクレジットされている中村能子と、日本の子供向けアニメをよく知ったプロフェッショナルの余裕を感じさせるところだった(といっても俺はアニメはほとんど観ないのでぶっちゃけよくワカリマセンが)
ただ中盤は説明台詞が多くなって眠くなってしまったし、花火大会を背景に悪玉妖怪が大暴れというセッティングは悪くないものの、アクション演出も展開も淡泊で、なんとなくノルマ的にラスボス線をこなしているだけに見えてしまったのはあまり面白くなかったし、それにやっぱり、せっかく悪玉妖怪が人間世界に進出して人間たちを妖怪化したのなら……やっぱ、妖怪化したかすかべ防衛隊がしんちゃんの危機に駆けつけて各々の持ち味を披露する、みたいなのは観たかったよね。映画クレしんで見たのはかなり久々な気がする埼玉紅さそり隊が妖怪になるのは嬉しかったし、妖怪化したまつざか先生の名前が「妖怪・合コン荒し」なのは笑ってしまったけれども、だからこそというか、クライマックスもう少し派手目に盛り上がってもよかったんじゃないかと思ってしまうところ。
それか逆に、もう今回は人間と妖怪の交流を描くだけの異色作に徹してラスボス戦なんか出さなくてもよかったかもしれないな。しんちゃんの祖父とゲスト妖怪の言葉によらない交流エピソードなんか結構ホロリとさせられたし、再会を予感させるラストの余韻も良かったですから。そういうの好きなんだよ、オバケや妖怪は案外身近にいるもんですよ~っていうね。