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邦題はもとより『LEE CRONIN’S THE MUMMY』という原題を見ればリー・クローニンなる人物がおそらく苦労人であるということ以外は何もわからなくともこれがミイラ映画であることはおそらく多くの人がわかるに違いない。少なくとも俺はそうだった。しかしミイラ映画とはなんであろうか。これは人によっていろいろあるだろうと思われ、『ハムナプトラ』みたいなアクションもミイラが敵として出てくる映画だからミイラ映画と言えるだろうし、『ミイラ怪人の呪い』みたいに全身に包帯を巻いたミイラが夜な夜な歩き出し人を殺めていくみたいな怪奇映画をミイラ映画としてイメージする人もいるはずだ。俺自身は後者なのでミイラ映画に求めるものといえば物言わぬミイラ男が夜な夜なノロノロ歩き出し……という例のアレである。これは人によってはまったく面白くないものなのだが、なんか良いのよ怪奇ロマンに溢れた感じで。
で『THE MUMMY/ザ・マミー 棺の中の少女』なのですがそんなミイラ映画ではまったくありませんでした。そして『ハムナプトラ』みたいなミイラ映画でもまったくありませんでした。じゃあ何かと言えば完全にもう完全に『エクソシスト』。あまりに『エクソシスト』なのでもしかして映画のタイトルを付ける人が別の映画と間違ってタイトルを付けてしまって本当のタイトルは『LEE CRONIN’S THE EXORCIST』なのではないかと疑ってしまうほどだ。
いったいどれほど『エクソシスト』なのか。お話はこうである。エジプト特派員としてカイロに派遣されていた主人公一家の娘が謎の呪術を操る隣人によって誘拐されてしまう。その8年後、捜査の甲斐無く娘は見つからず失意のまま今は(たしか)メキシコで暮らしていた一家のもとに娘発見の吉報が入る。なんでもエジプトで飛行機事故があってその現場に行ってみたら謎の棺があり、パカンと開けたら中に臭そうな布を巻かれた娘が入っていたというのである。すぐさまエジプトに飛ぶ主人公夫妻だったが案内された病院で目にしたのは全身傷だらけで至るところが変形し言葉も話せないという『キャッスル・フリーク』のように変わり果てた娘であった。
絶句する夫妻に担当医師は「まぁこういうのは家に連れ帰るのが一番の治療ですから」とあまりにも無茶な発注を出してしまったので夫婦は意思疎通すらできない娘を家で介護することに。しかしである。この娘、何かがおかしい。いやどう見ても最初からおかしかったのだが、昼間は自分の力で動くことさえできないのに夜になると走り回って昆虫を食べたり、ものすごい勢いでゲロを吐くとそのゲロに染まった場所がタール状に変質したり、部屋の周囲の壁だけなぜかどんどん粘菌のように黒いシミが広がり、あと空中に浮いたりとか床を突き破って天井を這い回ったりするのである。変わり果てた娘の奇行っぷりに一家は心身をすり減らしていき……ってそういうレベルじゃねぇだろこれ完全に悪魔憑きだし『エクソシスト』だよ!
なんなんだこれは。いや、監督が『死霊のはらわた ライジング』の人らしいというのもあってはらわた味のあるダイナミックで悪趣味なホラー演出の数々は見てて楽しいけどいくらなんでも『エクソシスト』が過ぎるだろう。ミイラ要素はいったいどこへ行ったのだ。布が巻かれた状態で発見されたぐらいしかミイラ要素ないだろこれ。それでも古代エジプトの呪術が云々の設定で頑張ってくれたらまぁこれも一つのミイラ映画だなと強引に自分を納得させることができたが途中から「この少女には古代エジプトの悪魔が憑依している……!」とか言い出してじゃあもうそれは『エクソシスト』だよ! 『エクソシスト』のイラクの悪魔をエジプトの悪魔に置き換えただけだしどっちも砂っぽい地域の悪魔なんだからほぼ同じだろ! ミイラ映画らしいシーンが一つも存在しない一方で『エクソシスト3』の有名な天井を這う悪魔憑き人間のシーンはパクっていやオマージュしているのでとにかく『エクソシスト』がやりたいという作り手の思いはひしひしと伝わってくるしミイラ映画に寄せようとする気が一切ないことも伝わってくる!
面白かったけどね! ブラックユーモアじみた悪趣味でパワフルな恐怖演出が多くて思わず笑っちゃうし、数々の信じがたい奇行と異常事態にも関わらず主人公夫婦が次の日になれば何事も無かったかのように誰に相談することなく娘の在宅介護をしているとか葬式の場で天井を娘が這ってるのに参列者の誰一人その異常事態に気付かないとか主役から脇役までオール異常なほど鈍感なのも笑っちゃう、口から侵入したサソリが喉を突き破って出てきてギャー! のシーンの後にこの人が破れた声帯を手で押さえて会話をするという正気ではないパワー展開とかもあって笑っちゃうので、要するにこれは諸々やりすぎで笑っちゃう『エクソシスト』映画である! もはや理屈とかなく死んだ人も悪魔パワーで蘇生しゾンビ化徘徊!
ただあの、本当に少しだけでもいいですからミイラ映画に寄せようとはしてもよかったんじゃないですか……? もうミイラ映画じゃなくて悪魔憑き映画でさえなく純粋な『エクソシスト』の非公式リメイクでもいいですけど、そうだとしてもこう……ね? ミイラ映画っぽい何かをさ。やはりタイトルが『LEE CRONIN’S THE MUMMY』なんだし……何かはあってもよかったいや、そこはやはり入れるべきだったんじゃないでしょうか! じゃなかったらゾンビが出ないのにゾンビ映画としか思えないタイトルの『ゾンビ・アイランド・マサカー』と同じになってしまうと私は思います!