悪魔のせいで葬式台無し映画『三日葬 サミルチャン』感想文

《推定睡眠時間:45分》

詳しいことは知らないが映画の中でそう言っていたから韓国では葬儀を三日やるのが本式で一日で終わる葬儀というのは略式らしい。日本だと葬儀の前にお通夜があるから三日葬というのはお通夜一日プラス葬儀二日とかだろうたぶん。その三日葬の最中になにか怖いことが起こる…と聞けば昨年台湾の『呪葬』という台湾のお葬式文化を題材にしたホラー映画もあったから、なにか土着的なというか文化的な恐怖が描かれているのかなと想像するのだが、英語題『DEVILS STAY』。映画が始まると既に主人公であるところの韓国パパの大事な一人娘が悪魔に取り憑かれており神父を呼んで悪魔祓いの真っ最中、ということでこれはお葬式ホラーというか悪魔憑きホラーであった。悪魔祓いの最中に一人娘は死んでしまってその三日葬が執り行われるのだが、どうやら悪魔はまだ死体に憑いたままで、それで葬儀の最中に悪魔の恐怖が人々を襲うのである。たぶん。

たぶんというのは悪魔が目覚める前に寝てしまったので具体的にどんな恐怖体験が人々を襲ったのかまったくわからないためであった。いやーこれ進みが遅くてねー。冒頭から悪魔祓いをしているくらいだからさぞや飛ばした映画に違いないと思われるかもしれないが変に真面目というか、会葬…じゃなかった回想シーンもしっとりと長めに挟み、大事な一人娘を失った父親の悲しみを丹念に描写するものだから、待てども待てども怪異出現の気配がない。沈痛で静かなムードだし、そのためにグースカやってしまったのであった。これには娘の死体の中で観客を驚かす準備をしていた悪魔も意表を突かれたことであろう。悪魔に対抗するには睡眠が有効である。

まぁでも面白いよね。この邦題から予想されるような韓国の固有文化がほとんど関係ないっていうのが逆に。最近の韓国ホラーは悪魔ものが結構あって『ディヴァイン・フューリー/使者』とか『プリースト/悪魔を葬る者』とかそうですけど、どうもそれは韓国のキリスト教社会化が進行しているためらしい。よく『エクソシスト』は宗教が違うから日本人には怖さがわからないなんて言う人がいるが、それが的を射た意見かどうかはともかくとして、たしかに日本のホラーで悪魔憑きものというのは皆無に近く、これは日本にキリスト教信仰やその精神があまり浸透していないためではないかと考えられる。非常に漠然とした印象論になってしまうがゼロ年代はじめぐらいまでの韓国ホラーに悪魔憑きものはほとんどなかったんじゃないかと思うので、近年の韓国ホラーに悪魔憑きや神父が登場しがちというところからは韓国の宗教文化がこの20年くらいでかなり変わってきているということを示すのではないだろうか。それはまた韓国社会の欧米化も示唆するものかもしれない。

我ながら字数稼ぎも甚だしい映画と関係の無い話っぷりだが、まぁ大部分寝てるんだから仕方が無いよ。他に書くこともないし。知らんけどたぶん面白いんじゃないかな。うん面白いと思います。悪魔が出てきてからはどんな風になってたのかはわからないが、とはいっても起きて観ていた序盤に関して言えば、先にも書きましたが丁寧で真面目な作りじゃったからね。おそらく奇を衒うところなく王道の悪魔憑きホラーとして完成度は高いんじゃないでしょうか。それは裏を返せばもうちょっとオリジナリティが…ということにもなるかもしれないが、そこらへんは好みの問題だろう。お葬式ホラーを期待すれば肩透かしだとしても、悪魔憑き映画を期待すれば外れることはまずあるまい。

あと良かった点をひとつ挙げると葬儀社の人の髪型が『スラムダンク』に出てくる常時ベンチでディーフェンスディーフェンス言ってるメガネの下級生と同じ髪型だったことで、あの髪型実在するんだ! って思いました。ディーフェンス!

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