子どもポエム映画『泳ぎすぎた夜』の感想

《推定睡眠時間:20分》

音は付いてるけどサイレント映画。台詞なんて一言二言しか出てこなかったんじゃないすか。出てきても効果音・環境音的な処理。劇伴はごくごく僅か。
子ども目線の環境音付きサイレント映画ということでこれは『ハックル』とか、『友だちのうちはどこ?』とか、『赤い風船』とか、あと『ぼくの伯父さん』とか、そういうの連想させられる系。
好きな映画ばかりだし高確率で見ながら寝る映画ばかりだ(好きと睡眠は相反しない)。

↑の映画を見た人ならだいたい内容の想像は付くでしょうが、端的に言えばいや端的に言わなくてもなんでもない子どものなんでもない一日を捉えただけ。
子どもとその家族かな。映画は主人公の子どもの父親が出勤前に台所でタバコを吸っているところから始まる。まだ夜明け前で外は真っ暗。この人は魚市場の人だから朝が早い。
朝が早いのに帰りは遅いから子ども寂しい、寂しいのでなんとなく学校に行かないで町内冒険に出てしまう、という要するにそれだけのお話。

この、最初の暗い台所の場面。鼻をすする音とか風が窓を叩く音とか服の衣擦れ、タバコを取り出す音、火を点ける音。超よいかったな。
台詞も劇伴も極端に少ない映画だから環境音が雄弁。犬がフローリングの廊下を歩くツタツタツタ(床に爪が当たる音のオノマトペが俺の脳内ストレージにないので…)が何かしらの台詞に聞こえてくるぐらいだ。
日常音をつぶさに拾っていく音響系映画っていいっすよね。音から世界が見えてくる感じね。俺そういうの好きなんですよ。言葉のない世界で雪を踏むギュッギュのリズムはオーケストラの劇伴にさえなるのだ。いやそれはちょっと誇張しましたけど。

雪といえば。舞台が青森の弘前なのでかなり、吹雪く。吹雪の中を主人公の子どもが結構長い間、歩く。お話はふわふわしているがわりと過酷な撮影をしていて、驚く。
児童映画の名編と名高い『友だちのうちはどこ?』もキアロスタミのギリギリ演出が微妙に物議を醸したのだからやっぱ面白い児童映画は子どものギリギリを攻めてるないやこの映画の現場はキアロスタミみたいなスパルタ方式じゃなかったと思いますけどねたぶん。

ショッピングモールのレースゲーム筐体で遊ぶ子ども(しかし実は)。早起きしちゃってひとり布団を被ってカメラで遊ぶ子ども(夜明け前の自由時間のわくわく)。子どものひとり遊びの幸せな寂しさと退屈な興奮。俺もひとり遊びが好きだったので響いたな、ひとり遊びの世界が。
冒険の結末は至って平凡。あっけなく単純。まったく取るに足らないがそれは大人の目というもので、あれはあの子どもにしたら魔法のような不思議体験だったはずだ。
映画はそこで終わってしまうが、あの後であの不思議をあの子どもはどんな絵にするんだろうとぼやぼや想像を遊ばせたくなる子どもポエム映画だった。

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常時すこし泣きそうな顔をしている子どもの不安を見て愉悦に浸るというのはよくよく考えればだいぶ悪趣味ではあるな。面白いから見ますが…。

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