野に咲く花のようなベンアフ映画『ザ・コンサルタント』感想文

《推定睡眠時間:30分》

こんなもんだなと見た直後は思っていたんですが一日経った今、とても染みてしまっているので時間差で攻めてくる遅効性じんわり映画。ちなみに見る前はふざけんじゃねぇよ殺しの天才なのに年収1000万ドルの会計士じゃねぇよどっちかにしとけよてめぇらみたいのがいるから底辺に仕事が回ってこねぇんじゃねぇかよトリクルダウンじゃねぇだろウォール街ごと殺すぞっていう感じでなにか内容を勘違いして怒っていたので印象変化著しいですし今のぼくがとても精神的に不安定であることもわかりますね。もう本当に眠れなくて睡眠薬も利かないし…。

と、そういう病んだ人を癒す映画だった『ザ・コンサルタント』の感想です。

そういえば何故かシャマラン『アンブレイカブル』(2000)を思い出したのですが自閉症スペクトラム界のパニッシャーことウルフ(ベン・アフレック)さんの幼少期が最初に出てくる。ある意味ここが最重要ポイントだったというのが後から分かるがそれはともかく自閉症(など)のこどもたちの養護施設でこどもウルフがパズルをやっていて、このパズルが映画の中核的なモチーフになっていた。

様々な人物の視点から見た断片的な情報を総合していくとやがてウルフさんの正体が明らかになるというわけで、これ実は結構あたまを使う。ロンリーウルフが殺しまくる映画だろうと高をくくって適当に見ていたので正直に言いますがごめんなさいお話がちょっとよくわかんなかった。
『チョコレート・ファイター』(2008)と思いきや『エージェント・マロリー』(2011)といったところで、これはスティーブン・ソダーバーグの極端にロジカルでややこしい語りと似たところがあるので30分も寝たら致命的だったというわけです。

てことでどんなお話なのかは今一つなのですが例の冒頭、パズル、撮り方に仕掛けがあってウルフくんが最後のピースを上からパチっとはめると確かモハメド・アリか誰かの絵が完成するのですが、上からはめてカメラの側に絵が見えるのでつまりウルフくんはピースの絵を見ないで無地の状態でパズルをやっていた。
こういうちょっとした技巧とかディティールの積み重ねが効いていてこれがおもしろい。無地のパズルにウルフくんの天才を問答無用で納得させられたのですが、入り組んだ筋とは別のところで画面を見てさえいればなんとなく情緒的に理解できるというのがよい映画だなぁと後から染みてきた所以なのでした。

珍しく大きめのシネコンで観たからかもしれませんが耳をつんざく銃声のリアル、ビビる。バタバタと人が倒れていくだけの乾いた銃撃戦の無情は俺としては迫力というか戦慄の部類。マイケル・マン的リアリズムの系譜なのかもしれませんが色気とかそういうのはないですしだいたいベンアフ人殺しても嬉しそうにも悲しそうにもしないからこう、盛り上がる感じはあんまりないですよね。

っていうか敵、弱いし。敵、弱いし(二回言う)。ベンアフを追うJ・K・シモンズの長い長い回想で語られるようにですねこれは自閉症スペクトラムに起因するあれこれの事情と過酷な過去から生きていくのが辛くなってしまったベンアフが頑張るお話でということは人殺しアクションが云々(でんでん)とかじゃなかったわけですねこれは。
ベンアフの『ボーン・アイデンティティ』(2002)じゃないんだと。ベンアフの『裸の大将』(1980~)なんだと。山下清がたまたま座頭市だったっていうだけの話で、おにぎりの代わりに狙撃が好きだったっていうだけのあくまで主軸は温かな人情ドラマなんですよまぁ人はいっぱい死ぬけど。

すごくよかったのはラストで。パズルムービーの面目躍如、というか。思いもよらぬ人物が出てきて素直に驚いたんですがこの人がそこで発する一言が、つまりだからそういうところが『裸の大将』。
あの一言、ささやかでなんでもないあの一言には希望とやさしさ(そして健常者の横暴への一握りの抵抗だ)が詰まっていてですね。なんか冗長に感じるところとかあるんですけどその設定いるのみたいなところもあるんですけどウルフさんの一人暮らし住居がだだっ広いのに整理整頓と掃除が行き届いているというのは自閉症スペクトラムの格式ばった特徴を誇張し過ぎで仕事をしながらあれぐらいな生活環境を維持するとか一般的に考えて難しいだろとか思ったりもしたんですけどでもでもあの一言が最後にあるから全部どうでもよくなっちゃうよねっていう。
俺はあそこですごく救われた気がしましたねいや後から考えてなんですけど。

アクション人情ドラマのカテゴリーは競合少ないように思われるので。オタクがゲームをやっているときの目で人を殺すベンアフの大きなこども感が素敵だったので。これは続編見てみたいとおもう。
ベンアフがランニングシャツと半ズボンで全米を放浪して行く先々で悪いやつを殺して最後に下宿先の人々が正体に気付くがそのとき既にベンアフは旅立っておりダ・カーポの主題歌っていうパターンで。

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ドルフ・ラングレン×パニッシャーの字面インパクトが核弾頭クラスなわりに何本もあるパニッシャー映画化の中でたぶん一番地味でゆるいパニッシャーでしたが一番好きなパニッシャーはこのパニッシャーです。ラングレンのトラウマ苦悩芝居が素晴らしいのではないですかねどうですかね。

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