『KRAFTWERK MULTIMEDIA TOUR 2026』行ってきた感想文(於・有明)

えっ! クラフトワーク来日するの! じゃあ観に行かなきゃ!!! と思ったもののよく考えたらクラフトワークは結構来日してるしそして俺も結構観に行ってた。最初にクラフトワークを生で観たのは2012年の反原発テーマの音楽フェス「NO NUKES」でのことで、この時は大トリがクラフトワークでその前がYMO、テクノポップのキング二組の競演という歴史的なステージであった。「フクシマ放射能、今すぐやめろ」と日本語で歌う「Radioactivity」日本語バージョンが初めてお披露目されたのはこのときで、以来日本公演でこの曲をやるときにはオリジナルに近い曲調の日本語バージョンから『The Mix』の英語版クラブ風アレンジに繋げるという構成になった。

2013年にはそれまで使っていた映像を作り直した上で3D化する3Dツアーを敢行。この時の来日公演は現在のクラフトワークが公式に認めている(初期の実験的な版は封印されている)すべてのアルバムを収録曲順で演奏するため8日間にも及ぶ大規模なものとなったので(一公演で一つのアルバムを通しでやる)『エレクトリック・カフェ』の日と『ツール・ド・フランス』の日に観に行き、更に同年サマーソニックの前夜祭オールナイトライブのソニックマニアにもクラフトワークは参加したのでそれにも行き……ということは今回でクラフトワークのライブを観るのは5回目である。新曲は出ないしトータル楽曲も100曲行かないぐらいのグループなので聴く曲はアレンジ違いこそあれ毎回同じなので、体験としてはお約束を観に行く歌舞伎のようなものかもしれない。

それにしても焦った。クラフトワークの来日公演が今年あるというのは去年の時点で知っていたのですぐにチケットを取……ったつもりになっていたのだが勘違いだったのでチケットがない! 各種プレイガイドはどこも予定枚数完売! 縋るように公式サイトを見ると当日券は若干数販売致します、完売の際はご了承ください、とありがたいがかなり心許ない一文がある。まぁ仕方ない、ダメで元々だ、売り切れてたら『サカモトデイズ』の映画でも観て帰ろう……なんて思いながら有明の会場に向かうとオフィシャルのチケット売り場の雰囲気が全然ない薄暗くあやしい一角で当日券がちゃんと売っていた。一度警備員さんにお金を渡してそのお金を警備員さんが主催者側スタッフに渡すという謎かつアンダーグラウンドな雰囲気のオペレーションだったがしっかりオフィシャル、かくして開演30分前というタイミングで無事中に入ることができたのであった(しかも俺の好きな端っこの席で嬉しい)

さて今回のツアーは「MULTIMEDIA TOUR」と題されており、それが何を意味するのかはパンフレットが売り切れていたため完全には把握できていないが、おそらく次の三点が中心ではないかと思う。一つは音のサラウンド化。一般的なライブ、とりわけ生楽器を多用するような場合にはそれぞれの楽器の音を分離して出力するという作業は基本的に行われないのではないかと思われるが、今回のライブでは音を数チャンネルに分けて出力していて、スピーカーの位置によって聞こえる音が違う。映画の5.1ch音声をイメージしてもらえればいいだろう。これによりダイナミックで演劇的な音の演出が可能になり、浴びるというよりは包まれるような音楽体験となっていた。

二つ目は映像のアップコンバート。クラフトワークのライブは21世紀に入ってバックグラウンドで流す映像(単に流すだけでなくリアルタイムで操作してもいるようだ)が大きな役割を果たすようになり、3Dツアーではそれが主役とさえ言えたが、今回流れていたBGVは新規のものはなく3Dツアーで流されていたものと内容的には同じである。しかし、内容は同じでもフレームレートと解像度が違った。3Dツアーの時のBGVは一般的な30fpsだったと思うのだが、今回は映像の超ぬるぬる感からいって60fps、更に解像度はこの巨大な投影サイズでぼやけたところがまったくなかったからおそらく4K画質である。これはかなり奇妙な体験である。クラフトワークのBGVはレトロフューチャー感を出すためにPS1のムービーぐらいの質感のCGを多用しているのだが、そのリアリティとは無縁のローファイなCGが4K60fpsで提供されるのである! 少し前に元々ビデオカメラで撮られたビデオ版『呪怨』の4Kアップコンバート版とかいう謎の上映企画があったが、ある意味やっていることはそれと同じなわけで、ものすごく美麗にして流暢になったこのレトロCG映像を見ていると……なんかよくわからんがなんなんだこれは! 拘るところがおかしいだろ! とにかく、なんかすごい気分にさせられるのだ。

上二つに比べれば小さなブラッシュアップといえる三つ目はお馴染みとなった『トロン』スーツを着たクラフトワークの下に台座が置かれるようになり、ここにもBGVが投影されることで、正面から観るとクラフトワークが映像の一部になったように見える、というところだろうか。俺が行った有明ではスペースの都合でそのような演出はなかったが海外のツアー映像を見るとステージ両脇にもBGVを投影することでスクリーンを大幅に拡張し、同時にステージ上のクラフトワークとBGVの一体化が更に進められている公演もあったらしい。こうなるといつの日かクラフトワークのライブは会場全体にBGVを投影して会場全体に張り巡らされたスピーカーから個別に音が出力されるプラネタリウムのようなものになるのかもしれない。そのような構想を現実化できる会場があるかどうかわからないのだが、全然新曲を出さずアレンジもほぼ変えないからといってクラフトワークという運動体が終わったわけでは決してない。むしろ今なお進化中とさえ言えるかもしれない。

で肝心の曲ですけれどものっけから「Numbers」~「Computer World」の最強コンボで来たのでオールシッティングという座席構成を一瞬恨むほどだったがその後はとくにダンス寄りの選曲や構成ということはなくなんだかんだいつものクラフトワーク名曲メドレー、各アルバムから満遍なく数曲取ってくる律儀さは無味乾燥とも言えなくもないが、クラフトワークの場合無味乾燥は褒め言葉だろう。なにせ人間機械なんですからネ。アレンジもあまり変わらず、おそらく曲数を増やすためにそれぞれの曲が少し短めになっていたという程度だから、『The Mix』以来の大きなアレンジもあった3Dツアーと比べると楽曲の面で驚きは少なかった。ただ「Airwaves」から続けてやっていた曲は今回のセットリストの中で唯一聞き覚えのないもので、たぶん『アウトバーン』『放射能』のB面曲のどれかのアレンジかなぁと今では思うのだが、会場で耳にしたときには封印されたはずの初期楽曲か!? と心の中でどよめいた。マンネリが極まっているからこそ些細な差異に大きな価値や面白さが宿るクラフトワークなのである。あと「Computer Love」は3Dツアーの時はインストだったので今回は歌ありで嬉しかったです。

その他、「Tour de France」の男声喘ぎ声はどうもラルフ・ヒュッターの生喘ぎ声だったらしいこと、クラフトワークのライブでは長らく「Musique Non-Stop」が退場曲として使用されていたが今回はその後にアンコールとして「The Robots」が締めの一曲となっていたこと、などが今回のお楽しみポイント。振り返ってみると「Numbers」で一気にアゲアゲとかアンコールで「The Robots」とか今回はお客さんが喜びそうなことをいつにも増して積極的にやっていたような気がしなくもない。実際クラフトワークのライブというのはGoogleアースで宇宙からライブ会場にズームアップする「Spacelab」のBGVとか「Pocket Calculator」をその国の言語で歌うとか観客を盛り上げるための仕掛けや遊び心が多く、人間機械と言いながら逆に人間的なユーモアや暖かみさえ感じられるのが大きな魅力なんじゃないかと個人的には思ってる。

ラルフが「2012年のNo NUKESで坂本龍一(とYMO)は「Radioactivity」のカバーをやってくれたので、今回は私たちが坂本龍一にこの曲を捧げます」とかなんとか言って「戦場のメリークリスマス」のカバーを披露、そこから「Radioactivity」に繋げるというアツい展開には、クラフトワークのそうした人間味がよく見えたんじゃないだろうか。昨今AI推進派と反AI派の対立が激しくなってきているように見受けられるが、機械を信仰するのでもなく機械を忌避するのでもなく、あくまでも人間的に機械と戯れよと言外に訴えるかのようなクラフトワークの音楽は、なにやら現代への処方箋めいたところがある。うむ、とまぁそんな感じで、今回もサイコーなクラフトワークのライブなのでした。

Subscribe
Notify of
guest

0 Comments
Inline Feedbacks
View all comments