思ったより映画『truth ~姦しき弔いの果て~』感想文

《推定睡眠時間:10分》

こんなもう予告編を見てもらえればわかりますけれども明らかにダメそうな堤幸彦ファンの俺でさえ「いやダメだろ!?」とインマイマインドツッコミ不可避な映画でしかも劇場に入ればう~ん寒かったのかな! そうね日本列島この冬いちばんからもしれない寒波が襲っておりましたから客3人! 俺入れて3人! こんなもん地雷映画なんてレベルじゃないよ空爆映画だよ見えてるもんだってダメだろこれっていうの!

だけど、面白かったね。これも予告編にありますがこの映画はいわゆるコロナ禍映画というジャンル(?)で感染拡大を防ぐためとかなんかまぁ色々あって予算的には結局一千万ぐらいは使ってるらしい(※堤幸彦がどこかのインタビューで言ってた気がするが出典失念のため真偽不明)ですけど自主映画ってこともあってワンシチュエーションもの、プロデューサーも兼ねる主演3人の広山詞葉、福宮あやの、河野知美がアトリエという設定らしい倉庫みたいな部屋の中で会話劇をやる、だけ。考えるだに(観客が)キツそうですが余計な監督のエゴとかを出さずに会話劇をカメラに収めることだけに注力した結果、女三人の掛け合いのシンプルな面白さが引き立って結構飽きずに最後まで観られてしまうのです。

それって要は舞台劇ってことじゃないの? はいそうですね完璧にカメラが動くだけの舞台劇ですね。これたぶんあんまりカットを割ってないんですよね。おそらく演技の方は可能な限り通しでやってもらっててそれを数台のカメラをテレビ的に同時に回すことで引きの絵とか寄りの絵とかにしてるんで、掛け合いにリズムとか緊張感がちゃんとある。一般的な映画のお芝居ってやっぱダイアローグの途中でもカメラワークの関係とかで一旦切ったりするじゃないですか。俳優の人はそれがお仕事だから一旦切って諸々調整してから演技を再開しても同じように一応はできるんでしょうけど、ただモノローグならともかくダイアローグの場合はやっぱりそこでどうしても空気って乱れる。これは被写体をほぼほぼ主演3人に限定した上で複数カメラ体制でやってるからそういうことがないんですよね。

お話はそんなに大したことはないというか、掛け合いは面白いけどものすごい捻りとか奇抜な展開があるようなシナリオでもなく…まぁラストにかけてはわりとなんじゃそらとなるわけですが、ともかくそこまで意外性のあるものでもない。でもそれを主演3人に思い切り演じてもらうだけでこんなに面白くなるんだなぁというのは俺にはちょっとした発見で、映画に出てくる俳優のダイアローグに面白味を感じたことって今までにあんまりないんですが、それはお芝居よりもカメラを優先する撮り方が映画では一般的だからなんだろうなぁとか、そんなことも思ったりした。

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でそのお話というのはこのようなものだった。一人の高名かつ絶倫な男性芸術家(佐藤二朗)が交通事故で死んでその葬儀の後に彼のアトリエに3人の女性がやってくる。九条真弓(広山詞葉)はふんわり系の女子女子した人。自信がないので逆に私こんなにすごいんですけどね的なマウントをかけてくるが大したマウントではないのですぐひっくり返される。栗林マロン(福宮あやの)は高卒のヤンキー系シングルマザー。色々と搔い潜って来てるっぽいので学歴も職歴もないが3人の中では一番芯がぶっとく根性とユーモアで大抵の障害は突破できそう。小林さな(河野知美)は恵比寿のタワマンに住んでる勝ち組医師。本心では(なんでこんな格下の奴らと同じ時間を過ごさにゃいかんのじゃ)と思っているとしても決して顔には出さず優雅&冷静。

住む世界が基本的に重なりそうにないこの3人の共通点は共に絶倫男性芸術家の愛人だったこと。っていうんで誰が一番好きだったかとか愛されていたかとかそんな他愛のない未亡愛人トークをしていたところ徐々に3人ヒートアップ、絶倫男性芸術家が死の直前に留守録メッセージに残した「大事な話」とは何か、その絶筆となった顔のない裸婦画の意味するものとは何か、共に35歳、そろそろ中年の坂に差し掛かってきた女3人の幸せとは何か…とかまぁなんか色々と話が拡散していくのでした。良いセックスとは何かとか。

で、コロナ禍で仕事のなくなった主演3人がそれじゃあ自分たちでなんか映画作るかってことで企画がスタートしたらしいので何よりもこれは主演3人のお芝居を観るための映画なんですが、薄いなりに堤幸彦カラーもあって、なんで佐藤二朗がモテキャラ扱いやねんのツッコミ不在のギャグとか河野知美がいちいち怪しい発音で英単語を話すとかは懐かしの堤テレビドラマの笑い。あとラストね。これは笑っていいのかどうなのか…音楽とかは感動的なんだけれどもその音楽が乗る光景は艶笑的にバカっぽく…その微妙な線を狙ってくるのが堤映画っぽいところで、まぁ、なかなか他の映画で観たことのない珍妙なことになる。

あとカメラはあくまで演技を撮るためにあるっていう映画ですがことラストに限ってはちょっとカメラで面白いことをやろうとしてて、こう、主演3人の顔を頭頂部の方から撮って、その構図のままダイアローグをやる。初めてだよ人間の顔をその角度からこんなに見たの。なんていうか面白い形してますね人間の顔っていうか頭。アルカイック。とても人間とは思えない。いや、これは悪口ではなくてさ、この構図、このフォルムを映すことで、それまでずっと等身大サイズだった物語が急に神話的な領域に片足ぐらいは突っ込んだ気がしたんだよな。主演3人もそれまではそれぞれの名前を持った別々の人間だったのに名前を剥奪されて同じ神の3つの顔になるというか。

映画の裏テーマは人工授精なので(公式サイトにも書いてあるからネタバレじゃないぞ)近代核家族の概念を超える新たな家族像を提示するためにこういう演出になったんじゃないかと思う。でもそれをシリアス一辺倒じゃなくてギャグと表裏一体でやるのがこの監督のらしさかもしれない。よかったですよ、少なくとも予告編からイメージされるものよりは全然面白くて。あんま姦しいって感じじゃないけどね。

【ママー!これ買ってー!】


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堤幸彦の実験的演劇志向映画。これも面白かったな、音楽はダサいけど。

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