地獄の中二脱出映画『SKIN/スキン』感想文(短編一言感想付き)

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《推定睡眠時間:0分》

もともと同じ監督の同名短編が先にあってそれが評判になったので長編化されたのがこの映画、という経緯があるらしいので長編版上映前にその短編も併映されていたが(上映回によっては付かないらしい)本編上映後の方がせっかくのイイ話感が台無しになってよかったのになぁ、とか思ってしまった。

主演は違うのだが短編版と長編版ともに『パティ・ケイク$』のぽっちゃりホワイト・トラッシュ女優ダニエル・マクドナルドが白人至上主義ホワイト・トラッシュ男の妻を演じていたので、シナリオ的にはそこまで被るところはないのだがパラレルな続編のように見えるのである。で、短編版の方は短い分だけ容赦がなく、文字通りブラックなオチなので、せっかく頑張って改心したあの男が…とその絶望加減についニヤニヤしてしまうのだ。笑うことではない。

短編版は単なる田舎の黒人嫌いホワイト・トラッシュの日常を描いたものだったが長編版は実録もの、家業的にネオナチ団体に入っていた全身イレズミ男が脱会・更正するまでを描く。ネオナチ団体というとナチというぐらいだから鉤十字だなんだをイメージするが、このネオナチ団体はバイキングを自称しており、鉤十字は当然シンボルにしつつもそれ以上に北欧神話的意匠で身を固めていたのが俺にとっては意外だった。

有り体に言えば中二なのである。『ファイナルファンタジーⅧ』とかの感じである。あるいは映画ファンをわざと嫌な気分にさせるために言えば(なぜ言う)北欧神話モチーフの『マッドマックス 怒りのデス・ロード』とか。俺たちは戦士だぜとか死んだら女神フレイヤが迎えてくれるとか普通に言う。そんなものゲームかコスプレに留めておけよと思うがアメリカ田舎の貧乏白人は中二欲求を発散させる場がないのかもしれない。

北欧神話と人種差別がどう結びつくのかはわからないがナチスとは結びつく。ナチスといえば北方。ナチ党の前身のひとつとなったオカルト結社トゥーレ教会がその名を北方に浮かぶ伝説の島トゥーレから頂いているように、ナチのオカルト思想の中核を成すのは北方・北極への妄執である。20世紀オカルトに多大な影響を与えたイカサマ・オカルト師のヴラヴァツキー夫人は人類の霊的起源を北極ということにしてしまったので、ナチスもこれを踏まえて北方人種=アーリア人種至上主義のオカルト的根拠としたのであった。

我ら北の子、神の末裔。その誇り高き伝統を破壊する異人種どもは追放するか皆殺しにすべし。アメリカ田舎のええ歳こいたおっさんたちが本気でそのように考えているのだから滑稽も滑稽だが、実際にその思想に基づいて暴力沙汰を起したりしてるので笑えない話である。

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そんなところにおったら未来ないなと主人公のブライオン・ワイドナーさん(ジェイミー・ベル)が気付いてしまったのはネオナチ団体主催のノルディック・フェス(野原に手書きの看板とか立てて構成員数十人で騒ぐだけ)に呼ばれた貧乏シンガー一家と出会ったためであった。

ブライオンさんは神々の血を引く高貴な人なので酒に酔ったボンクラ構成員が超ローテンションでステージに立つシンガー一家の子供たち三人に音痴だぞこのやろーとか言ってビール缶を投げたりするやブチキレ制裁。すまねぇなウチのバカが迷惑かけて、と詫びを入れに行ったことで一家の母親ジェリー(ダニエル・マクドナルド)と急接近、まぁ一般的に言ってええ歳こいて俺はバイキングだとかオーディンに忠誠をとかそんなことを言っている人とはあまり関わりたくないと思うのでジェリーはブライオンと関係を持つ一方で子供たちのためにもネオナチ団体とは距離を置きたがる。

組織(そして家族)への忠誠とジェリー&子供たちへの愛の間でメタル的ドラマティックに引き裂かれるブライオンさんだったがブライオンさんは神々の血を引く高貴な人なので、次第に組織の蛮行に関与したくなくなってくる。まさしく愛は中二を救う。なにがまさしくなのかはわからないが真理っぽさがある。だがしかし、まぁ、そこからがめちゃくちゃ大変だったというお話であった。

これは短編を観るとより鮮明になるがネオナチ団体からの脱出を描く実録もの、という題材はシリアスだが案外へっぽこなユーモアがそこらへんに散らばっており、深刻な話のはずなのになんとなく顔が笑ってしまう。なんてったってこのネオナチ中二の集まりですからね。基本的に発想がバカだし行動も杜撰。森の中に旗とか立ててやる身内のハロウィン・パーティが一大イベントという色んな面での貧困っぷりには涙が出てしまう。

地方の非行少年が誰かをリンチした後に河原でバーベキューやるみたいな行動様式をこの人ら四十になっても五十になっても続けてんである。ごめんさっきはふざけて涙が出るって書きましたがそれは本当にちょっと涙ぐんでしまうな。悲しすぎるだろ。そういう悲喜劇。一応、ボランティアで主人公の更正をサポートする黒人の人も重要ポジションでストーリーに絡んではくるが、そこのところは案外ざっくりしていて薄味で、田舎の中二ホワイト・トラッシュの人生を見る映画という感じである。

あとこれは女の人が魅力的な映画であったな。ダニエル・マクドナルドの真面目にやっているがなかなか貧困から抜け出せない母親っぷりとサークル・クラッシャーっぷりは重量級のリアリティがあって素晴らしかったし、女神のようでも人食い鬼のようでもある腹の読めない中二ネオナチ組織の副神いや腹心ヴェラ・ファーミガ、これは怖かったなぁ~。

ネオナチ組織のパンク姉ちゃんみたいな人もイイんだよ。もう超エロい。好き。かなりの人権派にしてド直球のリベラルを自認する立憲民主党支持者の私ですがこういうゴリ右翼の獰猛そうな女の人には何故かたいへん惹かれてしまい、杉田水脈とか稲田朋美とかはすみとしことか、思想的には一致するところがまったくないどころかむしろ正反対にも関わらず恋愛妄想対象としてめっちゃ好きなのである。何の話だ! いや、まぁ、つまり、愛は思想を超えるということですよ、ははは…面白かったよ『SKIN』!

※ちなみに個人的には短編版の方が面白かった。田舎のホワイト・トラッシュのリアルな生態を子供の目線でドキュメンタリー的に切り取りつつ寓話的でアホみたいなオチに着地するギャップが良い。物語の転機になるスーパーでの黒人との諍い(白い方が一方的に因縁を付ける)とか実際こういうことしょっちゅうあるんだろうなって感じ。

【ママー!これ買ってー!】


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さして年齢変化があるわけでもないのに『パティ・ケイク$』ではラッパーに憧れる現実の見えない地方のダメ少女、『SKIN』では貧困に疲弊した三人の子を持つ地方のシングルマザーを自然体で演じ分けるのだからダニエル・マクドナルドはすごい。

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