【ネッフリ】リブート版『新幹線大爆破』(2025) 感想文(これでいいのか的な)

《推定ながら見時間:40分》

たしか日本で最初に出たときの『マッドボンバー』のDVDに付いてたジャンル映画有識者座談会の冊子の中に書いてあったと思うんですけど黒沢清が最近は監視カメラとかがあるから簡単に銀行強盗が(※映画の中で)できなくなったと嘆いていて、なるほど言われてみれば昔のアメリカとかフランスではコンビニ感覚でカジュアルに銀行強盗を(※映画の中で)していたのに1995年の『ヒート』あたりから先の映画ではあんまり大がかりな銀行強盗をしなくなってしまったし、日本の状況で言えば2001年ぐらいをピークに犯罪率は右肩下がり、コロナ禍の生活苦が影響したのかここ2年ほどは微増に転じたが、それでも野蛮20世紀に比べて21世紀の現在は犯罪が少なくたいへんに平和である(そんな中で大きな戦争が相次いで二つも勃発したのは皮肉だが)

良いことだ。平和なのは良いことだ。それは間違いない。が、しかし…映画の中まで平和にならなくてもよいと思う! このリブート版『新幹線大爆破』に対する不満を一言で言えばそういうことになるんじゃないだろうか! どこが平和なんや爆発しとるやないかと言われればそれはそうなのだが、オリジナル版『新幹線大爆破』に比べてこれはちょっとスムーズに事が運びすぎ! 具体的に言えば、事態の対処にあたるJR職員たちの判断および言動が正しすぎるのだ!

これがオリジナルと同名だからリメイクと思いきや実はオリジナルとお話の繋がっているリブートであることが影響しているのか、それともJRの協力を得るため(オリジナル版は当時の国鉄の協力を得られなかったことで知られる)にそういう設定にしているのかはわからないのだが、このリブート版『新幹線大爆破』ではJR職員たちがオリジナル版の事件を知っているために、その再現のような今回の事件に冷静に対処できてしまう。オリジナル版の事件というのは説明の必要があるのかと思うが新幹線に時速〇〇キロ以下になると爆発する爆弾が新幹線に仕掛けられたので新幹線が止まらない止められないかっぱえびせん! このような事件である。まぁ『スピード』の原型ですよね(『新幹線大爆破』より先に『トワイライト・ゾーン』かなんかのワンエピソードに同じような設定の爆弾が出てくるらしいが)

でオリジナル版ではそんな事件前代未聞だから国鉄職員も警察も乗客たちもそしてなにより高倉健率いる犯人グループさえもが何が正解かわからない。事件に関わる全員が手探りで各々の最善を求めて行動して時に激突し時に失望し時に柔道部が乱入しそして時には散っていく…オリジナル版の良さは数多いがその一つはやはりこうしたところにあったんじゃないかと俺は思う。誰も正解がわからない状況で悪戦苦闘する人々のドラマはそれが被害者であれ犯人であれ柔道部であれ共感を生むしハラハラドキドキして応援したくなるというものだ。アツい…アツいじゃないか! 

翻ってリブート版である。正解がわからなかったオリジナル版と違ってこちらは事件に関わるほぼ全員が自分の行うべき正解を知っているので、悪戦苦闘感などほとんどない。もちろん柔道部が乱入する予想外の展開もないので緊張感が薄く、JR職員たちが淡々と冷静に正解を実行していく姿はまるですごい上手い人のゲーム実況でも見ているかのようだ。上手い人のサクサクプレイだって面白いのはたしかであるし、逆に下手な人のプレイを見ていると「おめーなんでもうちょっと上手くできねぇんだよ! そこでAだよA! そこでダッシュした直後にほらAを…」などとイラついてしまう人も少なくなかろとは思うのだが、しかしそれは面白いとしてもオリジナル版の『新幹線大爆破』にあった面白さとはかなり性質を異にするんじゃないだろうか。

逆に言えば、そういう面白さはかなり達成できている作品かもしれない。緊張感がないとはイコールでノンストレスということ。たとえば家でダラッと流し観したい時にはオリジナル版よりも合っているような気がするし、実際この作品のダイナミズムを欠いたフラットな映像は質感も含めて映画というよりはテレビドラマと言ったほうがしっくりくる。基本的には家のモニターとかスマホとかで観るのがNetflixオリジナル作品なわけだから、こうした作りは正解なのかもしれない。なにか問題があるとすれば、それはストレスフリーな家で観る用のお仕事映画としてなんで『新幹線大爆破』のリブートを選んだの? というその点だけだろう。全否定じゃねぇか。

ましかしそうも言いたくなるよな~。だってさ~だってさ~言わないけども言わないけども犯人がさ~犯人がもう…そんなアホな! っていうすごい犯人だったんだもんな~! 悪戦苦闘のオリジナル版と違って冷静なお仕事映画になっていた点はまぁヨシとしよう。しかし映画後半になって明かされる犯人およびそこからの命の駆け引きのドラマはさすがに子供騙しがヒドい。にも関わらずそこでオリジナル版と繋がってくるものだから、そんなんだったらリブートしないでよ…とオリジナル版の方の『新幹線大爆破』を個人的日本映画ベスト10みたいなハッシュタグが回ってくると必ず入れる俺としては思わずにはいられないのだ…!

この犯人って要するに団塊の世代の中高年のエゴと身勝手のせいで若者が苦しんでるんだよ! お前らどうしてくれるんだよ! っていうことですよね。それはねまぁわからないでもないんですけど幼稚だと思います発想が。それを若者自身が言うならまだしも監督の樋口真嗣って今年で60になる立派なオッサンじゃないですか。どうせ若者の感覚なんてわからないくせに俺は若者の味方なんですよみたいなツラして若者をダシに自分より上の団塊の世代を非難する(かのような)とかクッソだせぇ。ええ歳した大人のやることじゃないだろう…と思ったら脚本を書いた二人の人はまぁまぁな若手映画人だったのでこの事実をどう受け止めていいかよくわからん。ストレートに受け止めれば二人の脚本家の経験不足を樋口真嗣が補えなかったということになるが。

ただね、新幹線運転手ののんはかわいい。のんだいすき。だからリブート版『新幹線大爆破』、よかったとおもいます!!!!

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りゅぬあってゃ
りゅぬあってゃ
2025年5月20日 7:53 PM

パニック映画の歴史をふと見て、「タワーリングインフェルノ」の後追いで『実録 ホテルニュージャパン火災』って映画が作られてもおかしくないのに作られないなと思いました。

それこそかつての東映ならクレーム上等で強行しそう。