パパが大好きなだけ映画『アフターサン』感想文

《推定睡眠時間:20分》

ホームビデオの映像から始まる映画なのだがそういえば最近の映画だと『search2』もホームビデオから始まってそのうえそのビデオが映すのは女児と父親。『アフターサン』も女児と父親の映画なのでこれはちょっと面白いところである。ひとつにはホームビデオがカセットテープやフィルムカメラのようにノスタルジーを喚起するアイテムとして利用されていること。これは先進国におけるホームビデオ全盛期(と思われる)である90年代に多感な時期を過ごした世代が映画作家として台頭してきていることを示すんじゃないだろうか。そしてもうひとつはホームビデオが父親の記憶と結びついていること。なぜなのかはわからないが運動会や旅行など様々な家族イベントでホームビデオを回すのはパパの役割というイメージは確かにある。

『search2』はそのへんをうまくシナリオのギミックに組み込んでいてなかなか唸らされたのだったがこちら『アフターサン』はそのような捻りなどなく素直にパパサイコー思い出サイコーという感じの映画であった。なにか棘のある言い方になってしまっているがしょうがないじゃないだって俺こういうの気持ち悪いんだもん。別にそういう人にケチをつもりはないけれども親と仲が良い人が何を考えてるのかわかんないですからね俺は。だって親でしょう。親嫌いでしょう普通…え違うの!? 違うんだろうなたぶんな世間的には。世間の人はねみんな親が好きなんです。友達も好き、近所の人も好き、同僚も好き、恋人だって当然好き、人間が好きなんですから世間の人は。それをだねいい歳こいてなんですか君は世をすねた傾奇者気取りで他人の好きを腐して…でもみんな友達とか家族が好きなわりには難民とかホームレスとかには劇的に冷たいですよね。違う! 皮肉が言いたいんじゃないんだ俺は!

それもこれもこの映画が本当になんというかストレートにパパが好きなだけの映画だったから悪い。パパが好きだしいつか通り過ぎたあの日が懐かしくてたまらない。それだけの映画なんだよ本当に。大人が作ってる映画ならそこにひとかけらの批判的まなざしぐらいあってもいいのにね。でもそんなものはないしストーリーらしいストーリーもない。ただただあの日が懐かしい。ただただパパが大好きだ。全体の構成や演出はフランスのバカンス映画のそれだがフランスのバカンス映画に欠かせない映画といっていい人間観察やユーモアはここにはない。バカンス映画のスタイルを取っているがノスタルジーとパパへの愛着以外に何もないのだから見てくれはエリック・ロメールやギヨーム・ブラックと大差がないように見えても中身はまるで別物だろう。

音響や撮影や編集といった技術面は素晴らしい。役者の芝居も一級品。そうくれば逆に、こんなに見事な技術でこんなにどうでもいい映画を撮っているのかと腹立たしくさえなってくる。エモければなんでもええんか。なんでもええんだろうな日本にもそういう映画を撮っている人はいる(そしてそういう映画はみんな大好きなのである)。俺からしたらこんな映画はエロビデオと変わらない。エロビデオは人間の情動を刺激して理性のない状態で鑑賞者の体液を出させるコンテンツでしょう。これだって同じじゃないですかパパ大好き昔大好きの押し売りで客の理性を壊して体液を出させることだけを目指してるわけですから。エロビデオの客と違ってこちらの客は目から体液が出るわけですが。

別にエロビデオでも構わないしエロだって立派な文化ではあろうが、それは批評的に眺めればそう見えるということで、本心では金と体液の搾取以外に何も考えていないエロコンテンツの作り手が文化を僭称するのは恥ずべきことだと俺は思っているので、渋谷の109横に出てる有名女優がこちらを見つめて「まっすぐ生きてきた」とかのたまっている広告などを見ると綺麗事言ってんじゃないよこの恥知らずがなどと口には出さないが心の中では毎度ツバを吐いている(※女優に対してではなく広告の作り手と企業に対して)。泣ける泣けるとどこぞの扇動者がYouTubeででも言ったのか俺が観た回の『アフターサン』はかなりお客が入っていたが、それはいつの世も女の裸は金になるという唾棄すべき退行的な現実と違う話のようには、俺には思えないのである。

※2023/5/29 追記
なにもそんなに悪く言うことはないだろと読み返して思い、じゃあなんで俺はそこまでこの映画が気に食わなかったのか…と考えてこれじゃないかと思ったのが、主演のふたり、女児も父親も汚くないんだよな。そこらへんにいる汚いガキと汚いオッサンじゃなくて整ってるんだよ。何もこの映画だけの話じゃないけどそういうのって偽善的な気がしちゃう。つまり、愛の美しさであるとか絆の深さみたいなものを描くのなら、愛とか絆とかというのは精神的なものなのだから美形の人に演じてもらう必要はないじゃないですか。むしろ汚ぇツラしたヤツ同士の方が愛や絆の深さに説得力って出ると思うんだよ俺は。でも汚ぇツラしたヤツを使うと絵面が汚い。エモいムードが出なくなる。だからエモ映画を作りたい人は無意識的に美形の役者を使いたがる。そういうの良くないでしょう。ハリウッド大作なら文句は言うとしてもまぁしょせん商売ですからねと理解できますよ。でもこれ別にそういうのじゃないじゃん。規模が小さい映画だから監督にキャスティングも含めて裁量あるし興行だってそんなに考えなくていい。だったら汚いガキとオヤジを使って欲しかったよ。なんかファッションとしての愛とか絆って風に見えて嘘くさいんだよこれだと。

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外出が著しく制限されたコロナ禍の反動かバカンス映画は最近のミニシアターの当たりジャンルらしくギヨーム・ブラックの『みんなのヴァカンス』も半年ぐらいのロングランを記録していた。国内ではソフト化されてないらしいので、とりあえずブラックの別作品を。

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