まさかの真面目映画『アイニージューデッド!』感想文

《推定睡眠時間:0分》

アイニージューデッド! あえてナカグロを入れないこのふざけた邦題からわかるのはおそらくトラッシュ系だということだろう。そしてデッドと書いてあるから間違いなくゾンビ系。アイニージューデッド! 語感が良いので意味も無く2回書いてしまった。とにかくこれはそういう映画だろう。ポスターを見れば「トロマが泣いたZ級ホラー!」とか書いてあるし出演欄には定番のトロマ総帥ロイド・カウフマンが載っている。貧乏だがトロマ映画が大好きな若造の作った最低予算バカ映画にはオファーさえ出せばたぶん無料で出てくれるカウフマンは本当に良い人である。

ということでお話はあるパーティ会場(※民家)から始まる。時代は1980年代後半くらいの設定なのか映像はスタンダードサイズのビデオ画質。かなり本格的なガビガビ画質だったのでこれはグラインドハウスエフェクトとかではなく実際に当時のビデオカメラで撮っているのかもしれない。その画質で混沌としたパーティの模様がトロマ的スラップスティック・コメディ風に切り取られていって脈絡とかない。主人公は「キメるぜ!」とパーティ会場に乗り込んだ冴えない無職。流れでパーティに来ていた怪しい人に占ってもらいついでに食べるとトべる魔法のグミをたくさんもらって食う。魔法のグミの効果はすごく世界がぐにゃぐにゃと異世界に変貌していくが、そんな中でパンクバンドの女の人と仲良くなってまた会う約束をしたところで「サツだー!」。

サツはしょっぴいた若造に酸性小便を浴びせて『吐きだめの悪魔』みたいに溶かしたりするので主人公は逃げ帰るのだった…が、ひとりぼっちの帰路で魔法のグミが見せる幻覚生物と遭遇。こいつが家までついてきたのでどうやら『ブレイン・ダメージ』等フランク・ヘネンロッター映画を思わせるアシッドクリーチャー殺人生活が始まるのだろうと想像させたところで画面とつぜんスタンダードサイズに変わって画質も現代水準に。何が起こったのかと言えば、場面がこの映画を編集している監督の場面へと変わったのだ。ははは、メタギャグだね! 『リターン・オブ・ザ・キラートマト』とかでもそういうのやってた気がする! 部屋に集まったプロデューサーとかいろんな人に意見を求める監督。しかし返ってくるのは意味不明の声ばかり。だろうな、意味わかんないもんな。おまけにカメラだけは素人に任せられんと雇ったプロかセミプロの人がこの貧乏監督にとっては高額の週給を要求しにくる。誰も俺の芸術をわかってない! と憤慨する監督。たしかにパーティのシーンはいろんな特殊効果やVFXを使ってコミカルで楽しかったがこんなものを芸術と言われてもな、というツッコミどころである。

と、思いきや! ここからは結構意外な展開だったので伏せておこうかと思ったが単館公開だし話題にも全然なってないしどうせ誰も観てくれない映画だから書いてしまうが、ここはツッコミどころではなかったのである。その後、映画はどんどん追い詰められていくこの監督のインディーズ映画製作はつらいよ物語へと軸足を移し、監督の作っている映画内映画は事実上放棄、というよりも崩壊してしまう。作ろうとしても作る金がないしスタッフも離れていく。映画内映画と監督の現実は交錯し、監督の荒んだ精神状態を反映して映画内映画もパーティ場面の楽しさなどどこへやらの荒廃した内容へと変貌していく。さながら貧乏な『インランド・エンパイア』である。あるいはユルグ・ブットゲライトの『死の王』などとも質感が似ているだろうか?

「トロマが泣いた」とはこういうことだったのか。トロマが泣くほどヒドい出来映えのカスゾンビ映画という意味ではなく、トロマが泣くほど切ない映画作り映画が『アイニージューデッド!』だったのだ。デッドと書いてあったらゾンビ連想不可避だがゾンビは出てこない。『ブレイン・ダメージ』のエルマーくんと性格が似ている幻覚生物も中盤以降ほとんど出てこない。殺人は出てくるが、1990年代のビデオ撮りホラーに範を仰いだと思われるその殺人描写はチープさを逆手に取って監督の精神の荒廃を表現した、まるでスカッとしない不快なもの。映画が映画の外に出てくる中盤以降はタイトルのバカっぽさに反してぜんぜんスカムじゃないし笑えない。ポストパンクのネガティブ系バンドみたいに「アイニージューデッド…アイニージューデッド…」と抑揚なくつぶやき続けるエンディングソングが印象的なエンドロールまでずっと陰鬱な映画である。

ぶっちゃけその仕掛けにいささか頼りすぎというか、とくに演出面ではエモさを狙いすぎの観があって、深刻になればなるほどシラけてしまったところもあるのだが、とはいえまさかこんな映画だとはつゆほども思わなかったものだから、なんか拾いもんの安いけど面白い映画観たなという気がしてまんざらでもない。Z級じゃないしホラーでもないしアートというほど振り切れてもいないけれども、なんか変な映画を観たい気分ならきっと楽しめるんじゃないだろうか。最後、本当の撮影現場のオフショットでもオマケで付いてればもっと良かったけどね(なんかホッとするから)

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