《推定睡眠時間:30分》
なんだか印象が薄くてあまり言うこともないような映画なのだがあえて言うなら『チャンシルさんには福が多いね』とかと空気感が近いような日常系映画とでも言うのだろうか、日本版予告編では田舎の女の人がマッチングアプリをやったらどう見ても騙し目的の嘘くさいイケメン欧米人顔アカウントと繋がって……? という最近言うところの国際ロマンス詐欺(めっちゃダサい名称)をネタにした映画のように見えたものの、実際はそこまで国際ロマンス詐欺要素はないというか、いやこの台湾台中在住の独身農村ウーマン主人公はイケメン欧米人顔アカウントの影を追って初めての海外旅行でフランスに飛んだりするのだけれども、それがドラマチックな盛り上がりを生むかといえばそうでもない、という映画なのだ。
イケメン欧米人顔アカウントはマチアプのチャットで英語で主人公に話しかける。主人公、英語なんかこれっぽっちもわからない。ところがそれが彼女を欧米人顔アカウントに引き寄せる。主人公は年の頃四十ぐらいかなぁ、農村で作物を育て鶏の世話をする生活はそれなりに充実したものではあったし嫌いなわけではないようなのだが、ふと「このままずっとこうなのか……?」なんて不安も頭をよぎったりするわけだ。中年の危機とか言うんすかねこういうの。自分にはいろんな可能性があるんだと若い頃は大抵の人がたぶん考えるけど、でもおじさんおばさんになるにつれて段々とそれが幻想でしかなかったことがわかってきて、パニックになってしまう。それで、何者かになろうとして、人によっては政治に傾倒したり、若い人と無理矢理交流を持とうとしたり、突然脱サラしてラーメン屋を始めるとか、まぁいろいろやりますわね。この映画の主人公の場合はそれが欧米人顔アカウントだったのです。英語しか話さないスマホの向こうの彼は主人公に今の自分ではない別の自分へと変貌するチャンスと映るわけ。
欧米人顔アカウントに触発されて主人公は英語を学び始める。これまで一度も海外旅行に行ったことがないのに突然欧米人顔アカウントの居住国とプロフィールに書いてあるフランスに行ってみる。それはツアー旅行だったのだがツアーを外れてフランス語はおろか英語も話せないがパリの街に一人飛び出してみる。でもそうしたすべては欧米人顔アカウントに会うためでは本当のところなかった、というのがこの映画のキモの部分。表面的にはそう見えるかもしれないけれども、本当は中年の危機を迎えた主人公がここではないどこかの新しい自分を見つけるための行動で、だから物語はドラマチックに盛り上がらない。主人公自身も心のどこかで自分の追いかけているものがまぼろしであることをわかっている風なのであるから。
とはいえ、自分探しの旅だって撮り方によってはコメディにもなるしサスペンスにもなるし劇的なメロドラマにもなるしでなんにもでもなるわけだから、要は撮り方がおそらく意図的につまらないというか、冷めた感じになっているのが盛り上がらなさの根っこの部分のような気もする。結局は何気ない人のやさしさがーとか普段は気付かない周りの人々のありがたさがーみたいな話にはなるのでヒューマニスティックな映画ではありつつ、でも一方で中年の危機に陥った主人公を突き放して描くようなところがこの映画にはあった。ラストもなんか妙にうら寂しかったし。
リアルなのかなこういうの。この心情。この突き放し感。こういう空気が今の台湾社会にはなんとなくあるのだろうか、と映画を一本観たぐらいで判断すべきではないのでその点は保留にしておきますが、ともかくまぁこれはそういう映画、主人公と同じように大なり小なり中年の危機を抱えている人なら、苦笑いしつつ共感して観られる映画かもしれません。俺? 俺はほらまだ若いし可能性があるから……あるから……!
※あと犬がかわいい。