《推定睡眠時間:50分》
殺人ポパイが本格的に殺戮を開始する前に眠ってしまったのでそれ以外に見所がないと思われるこの映画については既にこの行で書くべき感想が尽きているが、まぁせっかくだから書き続けてみよう。『ポパイ・ザ・スレイヤーマン』。このタイトルとポスターかなんかを見ればもはや完全に出オチである。著作権切れ児童向け文学などをホラー映画化したいわゆるひとつのパブリック・ドメイン・ホラーなるニッチジャンルが数年前に一瞬だけホラー業界を席巻し『プー あくまのくまさん』『子鹿のゾンビ』『SCREAM BOAT スクリームボート』など無駄におびただしい数のC級ホラーが乱造されたのち、現在ではあまりにも早く忘れ去られようとしているが、今度はポパイをホラー化だということで『ポパイ・ザ・スレイヤーマン』。ムキムキ殺人鬼ポパイがけしからん若造どもを腕力でひねり潰していく映画である。
ストーリー説明などはどうでもいいだろう。どうせ倉庫の中で殺人ポパイが人を殺めていくだけだ。なんだその言い方は映画に失礼だろうと思われるかもしれないが何も映画をバカにしてるわけではない。だってこっちは殺人ポパイが人を殺すシーンだけを観に映画館に行っているのだ。そこで現代の悩める若者たちの親に学校に友達に進路に恋愛に云々と屈折したリアルな心情を交えつつ社会風刺のピリリと効いた軽妙でありつつ濃密な人間ドラマなどが展開されたら映画を観ている俺がポパイとなって映画館の高価なシルクスクリーンを引き裂いて映画館からガチ切れされつつもちろん通報され器物損壊罪で刑事告発か弁償金を支払って示談にするかという話し合いの場が設けられたのち泣きながらお金は払いますから前科は付けないでくださいと映画館の人に懇願しそれで話はまとまったが支払う金が家にあるわけでもなく帰路に憑く途中で人生のすべてを投げ出したい気分になって飲めないお酒をコンビニで買い通りかかった公園で地面に寝ながらお酒を飲みこのままガラの悪い連中にボコされて身ぐるみ剥がされてしまえと自滅思考が脳を支配するが俺如きに構うほど暇な不良などそう都合良く存在するわけもなくお酒による頭痛に苦しみながら眠ろうにも眠れず朝まで空虚な時間を過ごし結局朝になったら始発の電車で家に帰りもう何も考えないでとにかくそのまま仕事に行くことになるだろう。だからこういうC級映画はまともなストーリーなどあってはいけないのだ。人が悲惨に死ねばそれでいいです。
しかしである。人が悲惨に死ぬだけの映画(※といっても実際はまぁまぁちゃんとしたストーリーがある)なのは良いのだが、殺人ポパイは廃倉庫に生息しているので、惨劇の舞台は廃倉庫の中のみである。これがたとえば『13日の金曜日』などであれば大して面白いものではないとしても一応キャンプ場が舞台だから森あり湖ありバンガローありと景観にメリハリがあってなんとなく飽きない感じがあるが、廃倉庫はこう、絵面がぜんぜん代わり映えしないし、あとショボい。なんか暗いし。と、そういうわけで観てたら眠くなっちゃったな。殺人シーンは結構力が入っていて(ポパイだけにな!)悪くないのだが、ロケ地がかなりショボいのでせっかくの殺人シーンがあまり生きないというのはもったいないことじゃないだろうか。
まぁそのへんはこの予算規模の映画ならトレードオフで、そこらへんの倉庫の中だけにロケ地を限定する代わりに殺人シーンはきっちり作ります血もドバドバ出しますとそういう感じだろう。「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」と夏目漱石は『草枕』の冒頭に書いたものであるが、世の中アチラも立ててコチラも立ててとはなかなかいかないものである。つまり『ポパイ・ザ・スレイヤーマン』、『草枕』でしたね。ほら、ポパイもほうれん「草」を食ってマッチョになるし。夏目漱石もパブリックドメインだからそのうち誰かが『NO NAMED CAT FROM HELL』みたいなやつを作ってボコスカにインターネットで叩かれるのかもしれません。