《推定睡眠時間:30分》
観客にボロクソ文句を言われながらも大好評という山師もの低予算ホラーにとっては正しく矛盾した状況にあるパブリックドメイン・ホラーの新作が先週の『ネバーランド・ナイトメア』に続いて早くも劇場に登場! それがこの『スクリームボート』だ! 今回の元ネタは『マッド・マウス ミッキーとミニー』に続いてまたしてもミッキーマウス初登場作『蒸気船ウィリー』! 蒸気船は英語でSteamboatなのでスクリームボートはダジャレだね! ちなみに『蒸気船ウィリー』の知名度に全力で乗っかった殺人ミッキーのパブリックドメインホラーは他にも何作か作られているらしいです! てめぇらいい加減にしろ!
開始早々に必ずのちほど殺されることが決定しているクイーンビーと取り巻きのパーティガールが登場するこの映画についてなにか書くべきことなどはたしてあるのだろうかと思うが、パブリックドメイン・ホラーに先鞭をつけ今でも業界トップ(※あくまでもパブリックドメイン・ホラーという極狭業界)を走るイギリスのITNスタジオのパブリックドメイン・ホラーがぶっちゃけキャラと名前を借りてるだけでネタ元のパブリックドメイン作品とはあんまり関係ないことが多く、このスタジオによる先の『ネバーランド・ナイトメア』など出てくるのはピーターパンではなくピーターパンが好きだった無秩序型シリアルキラーのジャンキーというほどだったが、アメリカの別の山師スタジオが手掛けた今回の『スクリームボート』はしっかりと『蒸気船ウィリー』を下敷きにした原作のホラー再解釈となっている点でこれまでのパブリックドメイン・ホラーとは違った面白味があった。
舞台はスタテン島フェリー。このフェリーはマンハッタン島とその南に位置するスタテン島を繋ぐ公共交通でうれしいことに乗船料は無料、そのためマンハッタン島で働いているがマンハッタン島には家賃が高すぎて住めない人たちなどが通勤に利用しているらしいのだが、このフェリーじつは土台は蒸気船、それを改造してフェリーにしている……というのがこの映画の設定なので言うまでもないことだが登場人物の一人によって蒸気船部分の封印が解かれ中から殺人ミッキーが飛び出してきてしまうのであった。寝ていたから詳しいことはわからないが登場人物の誰かの説明によればかのウォルト・ディズニーもこの殺人ミッキーに着想を得て『蒸気船ウィリー』を制作したんだとか……って『バタリアン』かよ!
てなわけで封印解除された殺人ミッキーは例のパーティガールを含めて憐れな乗客乗務員たちを殺しまくっていくのだが原作をちゃんと生かした珍しいパブリックドメイン・ホラーであるこの映画では殺人ミッキーは『マッド・マウス』のような人間サイズではなくちびっこサイズ、ちびっこサイズの殺人生物による殺しの数々はゴア度の高さもさることながら一手には殺せないので『ペットセメタリー』の子どもゾンビや『チャイルド・プレイ』の殺人人形のようにちまちまなぶり殺すとあって結構イタイ。一手だろうが何手だろうが殺されるのはイヤだがそれでもこういう殺され方なら巨大殺人鬼に巨大ハンマーとかで潰された方がマシだなぁとか思えてしまうあたりホラーとしてなかなかではないだろうか。殺し方もしっかり『蒸気船ウィリー』のパロディだし(現実で行われるスラップスティック・ギャグはたしかにホラーだろう)
なんといってもアメリカ映画だからおそらくイギリスのITN映画に比べて何倍も予算はあったんだろうと思え、やってることは安いがちゃんとフェリー(スタテン島フェリーかは不明)でロケしているしセットも作ってるし殺人ミッキーの着ぐるみと特殊メイクも本格的だしで絵面に安さはあまりなく、そのうえスラッシャーホラーでありつつ途中からはフェリーが転覆危機に陥って『ポセイドン・アドベンチャー』のようになってくる、と実はパブリックドメイン・ホラーの常識を覆すような品質の一作なので、おめーごときがMCU気取りで続編匂わせのポストクレジットシーンなんか入れてくるんじゃねぇよってかエンドロールの最後にウィリーとミニーは帰って来るとか続編宣言入ってるじゃねぇか! とは言わせない。制作されれば続編はマンハッタンに上陸したウィリーくんがミニーちゃんと殺人行脚を繰り広げる『ジェイソンNYへ』ならぬ『ウィリーNYへ』になると思われるので、ちょっとだけ素直に楽しみである。
いやぁそれにしても、最近というか1990年代に入ってからスラッシャー映画なんかすっかり下火になってしまっていたもんですが、パブリックドメイン・ホラーのによって劇場にスラッシャー映画ジャンルが復活したというのは喜ばしいことです。その意味でパブリックドメイン・ホラーが蘇らせたのは原作の古典作品ではなくスラッシャー映画というジャンルなのかもしれない(『テリファー 終わらない惨劇』のスマッシュヒットのおかげもあるでしょうが)