ごった煮闇鍋エクソシスト映画『血を吸うスマトラオオコンニャク』感想文

《推定睡眠時間:0分》

スマトラオオコンニャクとは俗に言う死体花、ショクダイオオコンニャクの和名で知られるアレであるが、こんなネタに走ったとしか思えない邦題なのにたしかにスマトラオオコンニャクが血を吸っていたので衝撃。『呪いの館 血を吸う眼』でも眼は血を吸っていなかったし『血を吸う宇宙』でも宇宙は血を吸っていなかったのだから、これは血を吸うシリーズ(シリーズではない)史上の快挙ではないだろうか。桜の木の下には死体が埋まっていると言われるが、スマトラオオコンニャクも人間の血を吸っているからあんなに大きく成長して、そして強烈な死体臭を発するのかもしれない……。

などと書けば『パラサイト・バイティング 食人草』のような人食い植物ものを創造されるかもしれないのだが、実はこれはエクソシストものである。主人公はアッラーの力でいたずら精霊や悪霊を祓うイスラム・エクソシスト一家の長男、この人は霊能力者の母親からその能力を受け継いで幽霊は見えるし未来予知はできるしとスゴイのだが、たかだか中学生程度の男子にとってその強大なパワーはいささか負担が多すぎた。見たくもない幽霊が四六時中見えてしまい更にはエクソシズム中の事故で母親死亡、すっかり精神的に参ってしまったのでイスラム聖職者の力を借りてそのパワーを中途半端に封印することにする(中途半端なので霊を祓うことはできなくなったがまだ霊は見えるというむしろ状況悪化している説)

そんなおり、主人公はいつもの仲間たちと共に父親が臨時でバイトすることになった知り合いのオッサンの温室に潜入する。多種多様な食虫植物や奇怪な花が栽培されているこの温室には例のスマトラオオコンニャクがあり、そして謎のお札の貼られた明らかに封印された危険部屋があった。もちろん中学生はバカなのでお札を破って危険部屋に入ってしまい、そこにおった『バイオハザード7 レジデント・イービル』のモールデッドを思わせる悪霊のような何かを解き放ってしまう。はたしてこの悪霊は何者なのか。そしてスマトラオオコンニャクに隠された秘密とは。ちなみに、後者はちゃんと明かされたが前者は「スマトラ島から植物と一緒にやってきた」としか説明されないので依然として正体は不明である(何か宗教的な含意があるんでしょうか)

物語重視の傾向のある欧米ホラーに比べると近年注目を集めるアジアンホラーというのは多少物語が破綻しても怪異の物量と描写のエグさで押し切る過剰さが全般的な特徴と言えるかもしれない。この映画はマレーシア映画だがインドネシアの『呪餐 悪魔の奴隷』というホラー映画もストーリーはなんだかよくわからんが(これはシリーズ2作目だからという事情もあるが)次から次へとゾンビだのオバケだの殺人鬼だの襲ってきてしかも人死にに容赦がなくてなかなかのものだった。『血を吸うスマトラオオコンニャク』の方はそこまで破綻しているわけではないとしてもなにがなんやらわからんままどんどん大人も子供も死んでいって世界が死のムードに覆われていくそのパワフルなネガティブさがやはりアジアンホラーを強く感じさせるところである。描写もエグいしね。口からキモい真っ黒ドロドロを吐き出したりとか妊婦幽霊が切腹して胎児取り出したりとか。

事件の真相は意外とダークなものだが悪いことをした犯人はしっかり地獄に連れて行かれていたのでそこらへんはイスラム教の世界観なのかもしれない。悪人はアッラーの裁きを受けて地獄に堕ちるので罪など犯すべきではないのだ。と思えば登場人物の一人は華僑なので中国式の葬儀というのも出てくる。悪霊に憑かれた少女は母親の口に山盛りの白米を突っ込んで苦しめるのだがそんな悪霊の犯行を皆さんは見たことがあるだろうか。俺はない。マレーシアは多民族国家だそうで、様々な文化の入り乱れる社会が垣間見えるのもこの映画の面白いところだった。

色々とゴツゴツしていてなんじゃそりゃと思わされるところも多いが(なぜか警察が来ると大人しくなってくれる悪霊などなど)、この際そのなんじゃそりゃもまた味である。スマトラオオコンニャクという奇怪な舞台装置、説明足らずで強引なストーリー展開、妊婦切腹やスマトラオオコンニャクの血みどろ開花などエグい描写の数々、出し惜しみとかなく人を襲いまくる悪霊、単純な合成が逆にホンモノっぽさを醸し出して薄気味悪い背の高い幽霊(無害)たち、湿度の高い空気感と世界の無情を隠さない暗さ……ネタ映画のようなタイトルだが、これはホラー好きならぜひとも観ておきたい力作ではないでしょーか。

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